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こぼればなし  作者: やまやま
弐 最悪の黒
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最悪の黒-098_威力過多

 封鎖された坑道の奥側は、道中にあった照明用の魔導具も撤去されており、正真正銘の暗闇となっていた。エーリカの暗視の魔術がなければ自分の手元さえ視認することはできなかっただろう。

「呼吸に問題はありませんかー?」

「大丈夫だ」

 歩きながらたまにエーリカが立ち止まり、振り返ってハクロの身体状態の確認をする。マスク型の魔導具により清浄な空気を取り込むことが出来ているが、万一不具合が発生したら即座に撤退しなければならないため、こまめな確認が必要となるのだ。

 そういう観点からしても、この依頼を単独で請け負うというのは危険極まりない。

 ルネの無茶ぶりに応えられるほどの傭兵だったとしても、安全を考慮すれば二人以上の傭兵団(チーム)で臨むべきだろう。ギルド側から指導されるべきはずだが、何か事情でもあるのだろうか。

「前方注意ですー」

 先頭を歩いていたエーリカが足を止める。

 暗視の魔術により視界は30メートルほど先まで見えているが、その範囲内に敵影はない。しかしエーリカの獣人譲りの聴覚が闇に潜む魔物を捉えたようだ。

 ハクロも遅れて探知範囲を拡大させ、標的の位置を確認する。

 やや右方向にカーブした坑道の奥の天井に中型犬ほどの大きさの魔力の塊が何頭かぶら下がっていた。

蝙蝠(バット)系種か」

「ですです。大きな音を立てると混乱して無秩序に飛び回ってしまうので、できれば静かに手早く倒したいですねー」

「あいよ」

 ハクロは腰に差していたホルスターから魔導具を抜き、発射口に筒状の別パーツを取り付ける。

 ティルダに頼んで追加で作成してもらったサイレンサーだった。威力と射程、連射性能に特化した結果、魔術とは関係ない部分で衝撃波による爆音が発生してしまうのがネックだったハクロの魔導具だが、この追加パーツによりその欠点は解消される。

 問題としては消音魔術と発射の術式が干渉してしまい発射速度がやや落ちてしまうため威力が三割ほど減となってしまうことか。それでも現状、よっぽど分厚い甲殻を備えた魔物や魔獣を相手にしない限り支障は感じない。

「お、それが噂のティルダの新作ですかー」

「問題はないはずだが、一応離れて下がっていてくれ」

「了解ですー」

 ぴょこんと跳ねながらエーリカが先頭を代わる。

 それを確認すると外しておいた持ち手のパーツを取り出してはめ込んだ。今回のフィールドは炎属性魔石の採掘場のため火気厳禁ということで、炎属性に変異しやすい四大属性ではなく他属性からの干渉を受けにくい光属性魔術をセットした。

「…………」

 右手で引き金に指をかけ、安全装置を外しながら左手でグリップを支えるように固定、標準を坑道奥の魔物に合わせる。その瞬間、持ち手パーツに仕込まれたクズ魔石が周囲の魔力を変異させながら吸収した。そして攻撃術式を形成させながら魔導具内部で滞留し、引き金による発射の概念付与を待つ。

 言葉にすると長ったらしい仕組みに感じるが、しかし実際の挙動としては瞬き一つ分にも満たない刹那の時間である。

 これで未だに試作段階であるというのだから恐れ入る。

 ルキルにいた短期間でこの完成度まで押し上げることができたのだから、このハスキー州で本格的に魔導具の作成に本腰入れることになったら、モデルとなったハクロの元居た世界の武具を超える物ができる日も近いだろう。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、ハクロは引き金を四度引いた。


 ――パス、パスパス、パスッ


 密閉容器からガスが抜けるような軽い音と共に光属性の攻撃魔術が発動し、発射口から放たれる。

 術式そのものは初級の低火力の物ではあるが、ただ魔術を放つだけでは到達しえない速度で魔物目掛けて飛翔し、その頭部を寸分違わず撃ち貫いた。

 しかしその衝撃で体内にあった中核器官(コア)も弾け飛んだらしく、4頭の蝙蝠(バット)系種は魔力となって霧散を始めてしまう。

「……マジですかー」

 それを暗視魔術を強めて後方から見ていたエーリカが乾いた笑みを浮かべた。

 ハクロもまた魔導具の構えを解きながら空いた手で頭を掻く。

「あー……あのサイズで肉質が柔らかい魔物だとサイレンサー付けても弾けちまうな。火食鹿くらいの体格なら問題なかったんだがな。すまん、討伐証明できそうにない」

「んー、まあ、それは確かに困りますねー」

 魔物はただ倒すと魔力となって死骸が残らないため、魔力を纏わせた刃物などで部位を切り落とし、それを持ち帰ることで討伐の証となる。しかし思いのほか蝙蝠(バット)系種が脆く、一撃で消滅してしまった。

「次からは近接で対処する。蝙蝠(バット)系種の討伐証明の部位はどこだ?」

「耳もしくは翼膜ですねー。まあ今回の依頼はあくまで魔力溜まりの位置把握ですので、討伐はおまけ程度に考えて大丈夫ですよー。安全に倒せるならそれに越したことはないですしー」

「あいよ」

「あ、でもー」

 ふと思い出したようにエーリカがマスクの口元に指をあてた。

「もし赤色の蜘蛛(スパイダー)系種を見つけたら近接対処をお願いしてもらっていいですかー? できれば体は傷つけず、脚を切り落とす感じでー」

「うん? ああ、分かった」

 妙なリクエストに若干の引っ掛かりを感じながらも、ハクロは頷き魔導具をホルスターにしまった。

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