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カレイドスコープ  作者: 篠原 皐月
佐竹清人に対する考察
2/25

(1)些細なきっかけ

 この【佐竹清人に関する考察】は、【心の隙間の埋め方】が終了(三月上旬)して【夢見る頃を過ぎても】の開始(六月下旬~七月初め)前の時期(四月)の出来事の話になります。それを踏まえてお読み下さい。


 四月に入ってすぐの日曜日。

 浩一の誕生祝いの席に招かれ、柏木邸に一人でやって来た清香だったが、到着するなり主役の浩一への挨拶もそこそこに待ち構えていた総一郎に捕まり、皆での会食が始まってからもなかなか離して貰えない状況に陥っていた。

 それを少し離れた所から眺めていた彼女の従兄達は、「今まで大っぴらに可愛がれなかった分の反動が来てるよな」などと苦笑しながら、酒の肴にしていたのだった。


 そうこうしているうちに、だいぶ酒が入った雄一郎達が総一郎の席にやってきて色々世間話など始めたのを機に、清香はさり気なく席を離れ、漸く従兄達が固まっている場所にこそこそとやって来た。

「お待たせしました~。お誕生日おめでとう、浩一さん。ごめんなさい、お祝いを言うのが随分遅くなっちゃって」

 引き攣った笑顔で祝いの言葉を述べた清香は、続けて疲れた様に溜め息を漏らす。それを見た浩一は、苦笑しながら言葉を返した。


「ありがとう。そしてお祖父さんの相手お疲れ様、清香ちゃん。俺の事は気にしないで良いからね?」

「そうそう、ここに来た途端祖父さんに捕まっちゃったし、仕方がないよ」

「ああ、どう見ても不可抗力だな」

「清香ちゃんがお祖父さん達の相手をしているからこそ、俺達が説教されずに気楽に飲んでいられるんだしね」

「清人さんも来れれば良かったのにな~。もう俺達と清香ちゃんの関係を秘密にする必要は無くなったんだから、色々突っ込んだ話をしたかったのに」

 浩一に引き続き、周りの皆も口々に清香を宥める言葉を口にしたが、明良が何気なく口にした台詞に、清香がピクリと反応し、申し訳なさそうに口を開いた。


「……えっと、すみません。お兄ちゃん、今日は一緒に行くって言ってたんですけど、大学時代の恩師が急逝したとかで、今、お葬式に出向いてるんです。せっかく一緒に招待して貰ったのに……」

 気落ちした様に俯いた清香を見て明良は失言を悟ったが、周囲からも冷たい視線が突き刺さる。

(……このバカ)

(一言余計だ)

(何でここで清人さんの事を持ち出すかな?)

 そんな中、清香が浩一に何気なく話を振った。


「浩一さんは同級生ですから、今回亡くなったその教授の事を知ってますか? 川原教授という方だそうですけど……」

 そう問われた浩一は、僅かに顔を引き攣らせた。

(おい、誰だよそれ? 清人……、お前、架空の教授を作って殺すなよ……。そんなに家に来たく無かったのか? まさか俺の誕生日を祝うのが嫌だとか、女とのデートを優先させたとかいう訳じゃあるまいな!?)

 しかし考えた事を正直に清香に告げた場合、清人から制裁を受ける可能性を考えると迂闊な反応はできず、苦労しながら素知らぬふりを装った。


「川原? ……ええと、清人とは違うゼミを取ってた時もあるし、聞き覚えが有るけどどんな人だったのかは……」

「そうですか」

 そんなやり取りを真澄は黙って眺めていたが、浩一の引き攣った笑みから容易に真相を悟った。


(……あのろくでなし野郎、トンズラしやがったわね?)

 密かにそんな事を考えながら、真澄は無言のままグラスを傾けていたが、その隣で少しでも場を明るくしようと考えたらしい玲二が、些かわざとらしく陽気な声を上げた。


「じゃあ清人さんが居ない事だし、せっかくだから清人さんの話題で盛り上がろうぜ? あ、悪口とかでも良いよな」

「清人さんの話題?」

「……盛り下がりそうだ」

「悪口なんて……、どこからどう耳に入るか分からなくて、怖すぎるだろうが……」

 心底うんざりとした声を上げた面々だったが、ここで明良だけは面白そうに身を乗り出した。


「そうかな? 俺はある意味面白いと思うけど」

「だよな?」

「お前達、怖いもの知らずだな……」

 顔を見合わせて頷き合う玲二と明良に、浩一がうんざりとした表情で溜め息を吐いた時、清香が控え目に話に割り込んできた。


「あの、玲二さん、明良さん。面白いかどうかは分からないけど、ちょうど皆にお兄ちゃんについて聞いて欲しい事があったの。そして意見を貰いたいんだけど……」

 そう言われて、男達はこぞって清香の方に身を乗り出した。

「うん? 何だい?」

「そういう事なら、いつでも何でも言って構わないよ?」

「何か心配事でもあったの?」

「遠慮しないで言ってご覧?」

 口々に優しく、心配そうに促された清香は、幾分安堵しながらゆっくりと話し出した。


「うん……、じゃあ聞いて欲しいんだけど。元々お兄ちゃんってどこか超人的な所があるな~って思ってたんだけど、最近ある事に関して、ますます尋常じゃない位鋭くなってると思うの」

「どういう事?」

「所謂、第六感が冴え渡ってると言うか、『血は水よりも濃し』というか……」

「はぁ?」

「清香ちゃん、分かるように話してくれるかな?」

「あの、えっとですね……」

 そうして清香曰く、『清人の超人的な所』についての話が始まった。


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