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ステラセイド  作者: うつつ戯言


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ダンジョン攻略で修行せよ⑧

 ダンジョンの最終階層での死闘を終え、数日が経った。


 激戦の疲労と負傷を癒やした俺は、旅立ちの準備を整え、かつて魔女の村があった焼け跡の前に立っていた。


 目指すは、ルミナを攫った大国――王都エルシオン。


「アルス。一つ聞いておこう」


 ふと、隣に実体化して立っていたイヴミラが、静かな声で問いかけてきた。


「無事に王都へ潜入し、妹を連れ戻せた後はどうするつもりだ? ずっと王都から逃げ隠れしながら生きていくつもりか?」


 その問いに、俺は首を横に振った。


「決まってる。俺はステラセイドで、『一番星命者ステラ・ホルダー』を目指す」


「ほう。頂点に立って、どうするつもりだ?」


「この世界は、ステラセイドの戦績で立場が決まるって聞いた。なら、俺は勝ち続けて一番星命者になり、発言力と権力を得る。そして……もう二度と、魔女の村みたいな悲劇が起こらない世界にするんだ」


 俺はギュッと拳を握りしめ、灰になった村を見つめた。


「魔女だからって迫害されるような、悲しい出来事が起きる世界を変えたい。……最初から、そう決めていた」


「なるほど。大きな野望だが、私と契約したお前なら不可能ではないだろう。――ならば、王都の『学園』へ通うことをお勧めするぞ」


「学園……? 学校に通うのか、俺が?」


 突然の提案に、俺は目を丸くした。


 村育ちの俺にとって、同じ世代の人たちが集まって勉強する「学園」という響きには、正直少しだけ興味がある。本の中でしか読んだことのない世界だ。


 だが、なぜこのタイミングで学園なんだろうか。


「でも、どうして通う必要があるんだ? 別に、強い奴らと片っ端からステラセイドで戦っていけば……」


「そう簡単な話ではない。王都の学園はただの学問所ではなく、剣術や魔法、そして『ステラセイド』に関する専門的な講義が行われる最高峰の育成機関だ」


 イヴミラは指を一本立て、理路整然と説明を続ける。


「そして最も重要なのは、学園を卒業することで、公式のステラセイドの大会に参加するための『資格ライセンス』が取得できるという点だ。この資格がなければ、公的な大会には出場できないため、お前の目標としている一番星命者の称号を手にすることはできない。」


「資格か……。なるほど、そういう仕組みになっているんだな」


「そういうことだ。お前の理想とする世界を作るためには、まず資格を取るために学園に通う必要がある。」


 イヴミラの論理は理解できた。だが、大きな問題がある。


「でも、俺はルミナを連れ戻さないといけない。王都でルミナを取り戻したら、逆に取り返そうとしてくる王都側と戦いになる可能性が高い。そんな状況で、敵の本拠地にある学園にのんきに通う余裕なんてないんじゃないか?」


「そこは、王都に着いた時の『状況』で判断すればいい」


 俺の懸念を、イヴミラはあっさりと切り捨てた。


「妹を攫ったのには、王都側にも必ず理由がある。まずは妹が今、どのような状態に置かれているのかを冷静に見極めろ。もし無事どころか、手厚い待遇を受け元気そうに過ごしているのなら無理に連れ出さず、お前は素性を隠して学園に通いながら妹の動向を監視すればいい」


「……なるほど」


 確かに、イヴミラの言う通りだ。怒りに任せて無計画に連れ出せば、ルミナまで王都から追われる身になってしまう。ずっと逃げ隠れする過酷な生活を、あいつに強いるわけにはいかない。


 村を滅ぼした連中への憎しみは消えないし、ルミナを今すぐにでも奪い返したい焦りはある。


 だが、もしルミナが安全な環境にいるのなら、俺が一番星命者になって、堂々と迎えに行けるまで待つのが、結果的にあいつを守ることに繋がるかもしれない。


「逆に、危険な状態にあるのなら、その時は迷わず連れ戻し、王都以外の国へ逃げればいい。ステラセイドの資格を取得できる学園は、エルシオン以外の国にも存在するからな。臨機応変に動くことが重要だ」


 イヴミラの冷静な分析を聞き、俺は深く納得した。


 ルミナの安全を確保することと、一番星命者になるための資格取得。この二つの目的を同時に達成するには、彼女の言う通りに動くのがベストだと判断した。


「わかった。ひとまず、王都に向かう方針はそれで決まりだ。……で、その王都エルシオンには、どっちの方向に向かって歩けばいいんだ?」


「方角は北西だ。……だが、ここから歩いていくとなると、どれだけ急いでも早くて『半月』は掛かるだろうな」


「は、半月……!?」


 想像以上の長旅に、俺は思わず顔を引きつらせた。


「結構な距離があるんだな……。村に攻めてきた騎士団も、そんな遠い場所からわざわざやってきたのか」


「仕方あるまい。お前たちが暮らしていたこの村は、大陸の最南東の辺境に位置しているのだからな。遠いのは当然だ」


 そう言って、イヴミラは呆れたように肩をすくめた。


 ――これからの目的が決まり、いよいよ長い旅に出ることになる。


 俺は、焦げた匂いの染み付いた村の跡地を、ゆっくりと見渡した。


(ずっと……村の外へ出てみたいとは思ってたんだよな)


 本で読んだ広い世界。見たことのない景色。


 でも、自分に自信がなくて、結局俺はいつも魔女たちに甘えて、その一歩を踏み出すことができなかった。


 いざ旅立つことになったのが、こんな形だなんて。


 俺の本当の目的は違った。


 いつか俺が一番星命者になって、村の皆が理不尽に迫害されることのない平和な世界を作って……エルマさんやマルゴさんたち魔女が、何も気にせずに色々な場所へ自由に旅ができるようにしたかった。


 でも、それはもう叶わない。


 俺の大切な日常は、理不尽な暴力によって永遠に失われてしまったから。


「……だから、せめて」


 俺は、胸の奥で静かに、けれど絶対に揺るがない決意を刻み込んだ。


 もう二度と、あんな思いはしたくない。


 俺たちと似た境遇の人たちが、魔女たちと同じような悲惨な結末を辿らない世界を、俺の手で作ってみせる。


「いままでありがとう。……いってきます」


 焼け焦げた故郷に向かって、深く頭を下げる。


 血は繋がっていなくても、俺に惜しみない愛を注ぎ、育ててくれた魔女たちへのせめてもの感謝の言葉だった。


 顔を上げ、前を向く。


 隣を歩く漆黒の魔女と共に、俺は王都へ向け、旅立ちの第一歩を踏み出した。


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