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見えないから見えすぎた眼

異世界『偽りの神々シリーズ』番外編、というか、時空列を別にして書きたいものを頭の中のまま書いています。

長編なので、どこからでもお読みいただける方に読んでもらえると嬉しいです。

「兄様、本当に……、見えていないの?」

 愛しい妹、ーーいや愛しい存在から、確認された。

 それはサナレスが今まで生きてきたリアルであり、否定するものではない。

「ああ。残念ながら、な」

 気配は感じる。

 空間を把握して、そこに居る妹リンフィーナの他、どういった人物がそこにいるのか、気配と彼らが持つ熱、そしてオーラで彼らを感じた。

 見えていなくとも見えている以上に、感じていた。

「兄さまの目、絶対に見えるようにする!」

 治癒師とか、呪術とか、最新の医療技術とか、さらにリンフィーナは異世界の治療法までに手を伸ばし、サナレスを治療すると言っている。

 泣いている。

「大丈夫だ。不自由はない」

 そのように伝えるけれど、リンフィーナは感情の昂りを抑えられないようだ。

 だがそのリンフィーナの中で、全てを理解しているふうな魔女ソフィアが生息しており、別の存在としてサナレスに途方の暮れた顔を見せている。

『サナレス、あんたは前より見えているんだな?』

 胸の前で掌を天に向け、呆れ顔のソフィアは、リンフィーナと同じ身体の中からサナレスに話しかけてきた。

 対照的すぎる2人の魂は、今は同じ一つ身体の中にいて、サナレスは彼女の肩に手を回し、「私は大丈夫だ」と伝える他ない状態だった。

 見えていないことも、見えすぎたことも、大丈夫だ。ーーそう、2人の人格に伝えようとしたが、幼いリンフィーナは納得しない。

「うん。絶対大丈夫、私がなんとしても兄さまの目を治す!」

 この世界の常識では、不自由な部分は不浄とされていて、それは当人にとって困り事なので、リンフィーナが主張する言葉が強かっ太。

「私が冥府を超えてでも」

 だが、次の言葉は、この世のコトワリを超えている。

 そもそも冥府を超えるなんてことを口に出すということは、この世で解釈すると「私が死んでも絶対にあなたを助ける!」といった意味になり、悲しいことにリンフィーナは、冥府を超える術を知っているので、意思の強さからくる決意表明として受け取っておくわけにいかない。

 そのように口にするということは、冥府を超える気でいるのだ。

 ついて行く事ができないサナレスは、どうしたものか、と考えあぐねていた。

 リンフィーナはサナレスの目が見えていないという事実で、かなり打ちのめされている。

 しがみついてくるリンフィーナの手を握り、サナレスは見えないことは問題ではないことを伝えようとしたが、彼女は悲しみから話すら右から左だ。

「私は兄さまのエメラルドグリーンの瞳を取り戻す!」

 絶対に、絶対に、とリンフィーナは繰り返し、その横にいる者の意識をも支配していくようだった。

「サナレス、最善を尽くしましょう。治療法は必ず私たちが見つけ出します」

 放射能で眼球のほとんどが焼かれて機能しなくなっているというのに、2人は諦めていない。

「私が招いたことだ」

 放射能を海に撒き散らした。

 その罪を見届けただけだと、サナレスは視力のことなど諦めていた。

 それでもーー。

 身内といえる近しい存在の2人は、愚かな自分のために、また危険を犯そうと時空を歪めようとしていた。

「このままでいい」

「いいわけないでしょ!」

「いいわけない!」

 この部屋にいるリンフィーナとアセス、2人の熱はどんどん暑くなっていく。

「兄さま、行ってくる。なんとしても兄さまの目を取り戻す」

「行ってきます。私達で必ず」

 この2人の関係も、ややこしい。

 サナレスが次期統治者のラーディア一族と、現統治者のアセス。2人の合意を得て国同士が認めた、元婚約者同士で、サナレスから見れば相思相愛である関係だ。

「私のことは気にするな」

 何度そう言っても、2人は言うことを聞かなかった。

 2人は冥府を超えるという。

 冥府というのは、死者の国を代表する言葉である。つまり、単に視力を失った自分のために、彼らはいったん死んで、別世界でサナレスの目を治すための医療技術を得てこようとしているといった気概を伝えられたわけだ。

 サナレスは深くため息をつき、落胆していた。


 冥府を通り道にして。異世界へ行き来する事ができるといった事実は、把握していた。

 だがその問題の通り道は、記憶を失うかもしれない。さらに人格も別人になるかもしれない。魂は虚い、全く別のところに漂着するかもしれない。

 そうした場合、リンフィーナもアセスも、このサナレスが2人と出会った世界に帰って来れるという保証は、どこにもないのではないか。

「私は、なんの不自由もないから、2人ともおかしなことを言わないでくれ」

 どこにも行かないで欲しいと伝えても、2人とも思い思いの考えで、サナレスの言葉に耳を貸してはくれなかった。


「兄さまのエメラルドグリーンの瞳は、私の宝物なの! 失うなんて絶対に、いや!!」

 リンフィーナは叫び声に近い悲痛な呼吸でそう言って、アセスは首肯した。

「正々堂々と勝負できるようにしましょう」

 アセスの中で、妹リンフィーナを奪い合う関係として、サナレスは恋敵として認識されている。

 サナレスはリンフィーナの、兄、なのだが、ーー血縁関係がない兄である。

 だからそのような事実が暴露されると、ややこしい関係になってしまった。


 リンフィーナにも問われる。

『兄さま、私をお嫁さんにして』

 違う。これは妹として言われた記憶だ。

 

 リンフィーナは本気だと言ってきた。

『もう、ずっと小さい時から、サナレスだけ見てきた。でもサナレス兄さまはお兄さまで、だからアセスと出会って、婚約したけれど、ーー私は、兄さまが世界の全てだったのに』

 だからアセスとの婚約に至った全ての記憶や感情も、リンフィーナは否定してサナレスだけを見つめている。


 それは彼女に内在する魔女ソフィアの干渉があるのか、ないのか。

 サナレスにはわからなかった。


 ただ事実と人の感情を180度変える事ができる熱意など、サナレスには持ち合わせていない。

 ただ、圧倒されるだけなのだ。

 感情よりも、科学的な何かを追い求めてきた人生だった。

 100歳を過ぎる年齢になり、やっと人間らしい気持ちが芽生えてきたところである。

「兄さま! サナレス!」

 必死で名前を呼ばれて、震える手で衣服を手繰り寄せ、彼女の手は頬に触れた。


 彼女に愛情を感じている。

 


後書き、特にないけど。

やっと物語の続きを描こうかな、と思いました。

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