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カレーの具は思い出と努力の中に有り3

『あの子が三銃士だと……?』


『"烈火のスプーン"を抱いて生まれて来たと、生みの親がそう申しておったな』


『然し……、本来であれば洋剣(サーベル)を抱いて生まれる筈が…、揃いも揃って三銃士は何故食器なのだ?』


『食器ではありますが、特別な力が秘められているとか……』


『では、我々の国は安泰と言う事でよろしいのか』


『フフフ……直ぐに他国は、火の海と化すでしょう』


貴族達の下卑た笑い───

オレ達三銃士が生まれてから、国は戦争に向けて計画を遂行していた。

それぞれ物心が付く頃には、剣を使った特訓の日々ばかり。


『エンジは何の食器を持って生まれて来たんだい?』


『あ…、オレは……スプーンだよ』


同じ三銃士のソウは"フォーク"スイは"ナイフ"だ。

オレだけどうやったって、敵を傷付ける事なんて出来やしない。


『お前らは……殺せるんだろうな』


仲間に対して吐く台詞ではなかっただろう。今でも時折思い出しては後悔している。でも、二人は表情一つ変えずにこう言った


『無意味な争いで、喜ぶ人が何処にいるの?』


この時のオレは二人との間に差がある事に焦って、妬み嫉みの言葉をぶつけてしまった。本当に面倒くさくて嫌な奴だったと思う。それでも……二人は


『エンジは優しいんだね。でも、無理に期待に応えようとしては駄目だ。』


『本当に、貴方がやりたい事は戦争ですか?。そのスプーンは何の為にあるのでしょう……』


『オ……レは……』


育ての親……と言っても、婆さんだったけど。その人が作るカレーが美味くて……

美味くて───

このカレーを食べれば、争いなんて無くなるんじゃないかって思ったくらい美味かったんだ。


『オレ……、カレー作りたい』


『カレーか、良いね!』


『然し、簡単に作れる料理ではありませんよ?』


『じゃあ、三人で調べて作ろうよ!』


その日からオレ達はカレー作りに夢中になった。でも、具材を切るところまで美味くいったけど……肝心のカレースパイスを作るのには一苦労


『うわっ、苦い!!……』


『ソウ…、コリアンダーを入れすぎですよ!』


『あはは、いっぱい入れたら美味しいかなぁ~って』


『ったく、そんなに入れたら他のスパイスの旨味も風味も消されちまうだろ!』


世が明けるまで、三人で厨房に篭って作ったカレーは、世界一苦くて……食べれたもんじゃなかったけど、何故か口に運びたくなるような……そんな味だ。


『中々いけるんじゃない?』


『まあ……最初よりは悪くないのでは?』


『……なあ、オレさ…───この”スプーン”がなんで一緒に生まれて来たのか……今分かったよ』


美味しいカレーをいっぱい食べて、いっぱい皆に食べさせたいから

そう伝えると、二人は感極まった様子で


『僕らもそう思ってたんだ』


『奇遇ですね』


戦う為にあるんじゃない……──当たり前だけど、食べる為に存在していると


己と共に誕生した食器を掲げて、三人は誓った


『我等は三銃士』


『いついかなる時も』


『人々を幸せに導き、守り抜く』





トントントン───


「エ、エンジ!!見て!野菜切れたよ!!」


「お、中々上手いじゃねぇーか」


「エンジは、カレーは牛肉派?鶏肉派?それとも豚肉派?」


「オレは鶏肉を良く使ってるぞ」


「奇遇だね!、あたしもカレー作る時は鶏肉使ってたよ!」


この女で何人目だったか────

月を眺める度に思い出す………

オレ達のしている事は、本当に間違っていないのか?

あの時のオレ達が望んでいた事は……こんな事だったのか?


スパイスの女神────


その女神を捜すのに、この世界からも異界からも捜しまくって……

何人…何百人……


『ごめんなさい……ッごめんなさい!!!』


オレ達の前で崩れ落ち、泣きじゃくる娘を何人見てきたんだろうか。


何人、犠牲にしてしまったのか


慰めて、記憶を消して…………


「ンジ……」


人を利用するだけして……これじゃあオレ達は───


「エンジーーーーーーーーッ!!!!!」


「うわッ!!?な、なんだ!?」


「”な、なんだ!?”じゃ、ないわよ!!。カレースパイス、作り方教えてって言ってんの!」


「お、おう……」


「ん~~、なぁーんか調子狂うんだよね……。カレーを作るって言ってから、様子がおかしいし……」


「けっ、お前の脳内お花畑に比べたらマシだよ」


「あっそ、なら良いんだけどさ……。」


「うっ……、こ、こっちが…調子狂うわ!!。なんだよ、急にしおらしくしちまって……」


「……ありがとね、”奇跡を起こす”って言ってくれて……───素直に、嬉しかったよ」


「あ、あれは……その───本当にそう…………思ったからよ」


「……ぷっっっっ!可愛いところあんじゃん!」


「お前に言われるとなんかすげぇ腹立つ!!」


ひまわり───お前はどうか《《本物》》であってくれよ


「コリアンダー、クミン、ターメリック……ガーリックにジンジャーも入れて……」


「すごーい!!カレーの匂いするー!!」


「味見するか?」


エンジはスプーンにカレーを乗せて、冷ましてからひまわりの口に近付けた。

傍から見れば、恋人同士が食べさせ合うような光景だったのであろう。


ぱくりと────口に入れてから、ひまわりは後悔をした。


舌先には何処か懐かしいようで苦味が乗せられた青春の味────

香辛料のせいか、頬は段々と紅潮していく。


ドクンドクン……

どうしてだろうか……胸が、ドキドキする。

味覚から全ての感情が伝わるのだった。


「って、一人で食べれるわい!!」


「何怒ってんだよ?……熱かったか?」


「ち、違う!!」


(ひまわりは変な女だ。だけど、そこが憎めないんだよな……。)

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