もう一度
『いやああああああ!!!』
『うああああッ!!!止めてくれッ!!!』
ザシュッ!!!……ザシュッ!!!と、胴体が貫かれる生々しい音。
マナ国は炎に包まれ、国中の人々の屍が道に転がっては、隣国の兵隊に踏み潰され、兵隊達のやり場のない怒りをぶつけられる始末。原型をとどめてない死体が、ソウ達の眼には腐る程焼き付いていた。
『ッ……どうして───』
『ソウ……!、もうすぐそこにまで…隣国の兵隊が来ちまってる!!』
『このままでは……、此処に避難している人々の身の安全が保証出来ません…。』
『大丈夫──まだ、勝てないと決まった訳じゃない』
脅える子供達やその家族───老人達全員に優しく微笑みかけ、何度もソウは「大丈夫」と呟いた。
それは仲間にも、自分にも言い聞かせていたのかもしれない。
『僕達には授かったそれぞれの武器と使命があるじゃないか』
軍服に身を包んだ三銃士は、この世に誕生したのと同時に授かった、己の魂と呼べる武器という名の"食器"を、天に掲げる。
『我等は三銃士』
『いついかなる時も』
『人々を幸せに導き、守り抜く』
キィンッ…───と、食器の重なり合う音が響いた。
バンッ!!!─────
『まだこんな所に隠れていやがったか』
『女以外は殺せ!!!』
隣国の兵隊にエルピスの看板は燃やされ、店の扉は乱暴に破壊された。
店内に悲鳴が飛び交い、それでも冷静に
三銃士は立ち向かう。
『──スイ、エンジ……、必ず生きて…また人々が喜ぶ料理を作ろう。』
『ええ……』
『分かってるよ』
スイはナイフを───
エンジはスプーンを───
ソウはフォークを───
振り翳す─────守り抜き、生き抜く為に……
ザシュッ!!!……
。
。
「ッ───……ダメッ!!!」
ゴンッ!!!!─────
なんて惨い──現実味のある夢を見てしまったのだろうか……。そして額が痛いのはコレも夢?。嗚呼……頭がまたクラクラする……
「い”っっっっってぇーーーーッ!!!?」
「ああ……頭の周りにヒヨコがいっぱい飛んでるぅ~……」
ヒヨコが一匹……二匹……三匹と、脳天をグルグルと回っている中、薄らと視界の中に
炎のような赤い髪の毛をした人物が呻き声を上げながら頭を抑えていた。
「あ……あれ……、エンジ?」
「ったく……!!この、石頭女!!」
「あたしの頭の硬さはフライパンと呼ばれてるのよ!」
「何を威張って言ってんだ!怒」
(そう言えば……さっきまで外に居たはず……。それなのに───どうしてベッドの上に?)
それに───と、ひまわりは自身の身体を見て思考停止。それと同時にガチャ……と、扉の開く音。
「騒がしいですよ、エンジ」
「良かった、目が覚めたんだね」
「ぎ……」
「「「ぎ?」」」
「ぎゃああああーーーーー!!?服が変わってるーーーーッ!!!!」
「ああっ、雨で濡れていたし…──それに熱もあったからねっ♪」
「お、お、お、お、お前……!!ぬ、ぬ、ぬ、脱がせたのかっ!?」
「……なんてハレンチな……」
「え?……僕、何かいけない事したかな?」
「あ、あ、あ、あたしの……いやああああ泣もう無理ぃぃぃぃぃっ!!!涙」
「大丈夫だよ!ちゃんと目つぶったよ?」
「ぐすっ……ほ、ほんと?」
「うん!──…でも、見えなかったからか……たまに”むにゅ”って感触があったんだけど……」
「~~~~~ッ!?最ッ低ッッッ!!!!」
「──なーんて、冗談だよ」
すると、ソウの背後からひょっこりと出て来たのは、不満そうな表情でこちらを凝視する、自分をこの世界に導いた『アモネ』だった。
「アモネが全部、君を着替えさせてくれたんだ。助かったよ、アモネ」
「ソウ様の頼みならお易い御用ですわ」
「ア、アモネ~!!!」
「……まったく!、アナタって超絶迷惑かけるタイプの人間ね……。着替えさせるこっちの身にもなりなさいよね?」
「ふふ、アモネも…君を心配していたんだ。自分が導いたせいで、こんな事になってしまったから……と。……でも、元凶は全て…僕にあるから…、本当にごめんなさい……」
頭を下げるソウに続いて、スイとエンジも下げた。
「悪かった、さっきは怒鳴ったりしちまって」
「レディの気持ちも考えずに、申し訳ございませんでした」
「……そんな───そんな!!……謝るのは……あたしの方…です。……酷い事言って……ごめんなさい!!」
「……ひまわり、僕等は……この国の三銃士として国を守る宿命を持って生まれてきた。でも……その意味は、人の生命を犠牲にして守らねばならない。……自分の国が守れたらそれで良いのか……──それで皆が幸せになれるのか」
「皆一人一人……与えられた生命……、それは敵味方も同じでしょう?」
「国の王は、次の戦争迄に何千人…何万人の兵隊を戦に行かせようとしてる。本当だったら、その兵隊を指揮するのはオレ達だったんだ……。」
きっと、さっきの夢は予知夢なのかもしれない。
沢山の人達が生命を落としていた───
この国はもうすぐ…………
そんなの……嫌だ
「国王に刃向かってまで、私達はこのレストランを立ち上げ、例の”食戦争”で挑む事にしたのです。でもそれは……、自国も他国も敵に回す事になりますが……」
スイは困ったように一笑し肩を竦めた。
「あたしが……、あたしがその”スパイス”を作り上げれば良いの?」
「本当だったら……ね。でも、君は料理に対して、とてつもないトラウマを抱えているようだ…。無理強いは出来ないし……──それに、潮時なのかもしれないなって……」
「ソウ!!!」
「…本気ですか?」
「ソウ様!!、アタシは諦めてません!!……───此処まで頑張って来たのはなんだったんですか!?。ソウ様の淹れるハーブティーは人の心を浄化する……前菜のサラダは、人の魂の新鮮さを取り戻せるんでしょ!?」
「それは……真心がこもっていた時の話だよ」
「…そんな……」
「それより、ひまわりにコーンポタージュを作ったんだ───飲めそうかい?」
「…うん」
木で出来た器に、温かいコーンポタージュが注がれた。
コレが……ソウの作った、コーンポタージュスープ……
ひと口……ふた口と……
「はぁ……う───なんて……美味しいの」
まるで大好きな人に抱き締められ、慰められているかのような……
そっと、背中を押してもらえるような……
身体中に力が湧いてくる……
『あたしじゃないのに…………───あたしは盗作なんてしてないのに』
"大丈夫だよ"
そっと溶け込む
"料理は嘘をつかないよ…───だって、君にしか作れないから"
『ほんとに?……』
舌触りに甘く優しく溶け込む
「なん、で…こんなにまた、料理がしたくなるんだろう……──もう二度と……出来ないって──やらないって誓ったのに!!!」
一気にコーンポタージュを飲み干し、溢れんばかりの気持ちが勝手に吐露する。
「あたしね……、親友だった子に……皆の前で嘘つかれて……──"レシピを盗作された"って……──そんな事する訳ないのに…..」
震える身体は寒さからなのか
それとも過去に対するものなのか
悔しくて───怖くて────
でも、でも……
「きっと、その親友ちゃんは……、君の才能に嫉妬していたんだろうね」
「え……」
「スパイスの女神に選ばれるって事は、料理の腕前が凄いって意味でもあるから……」
「非常に勿体ないですね……。そんな妬み嫉みのせいで、貴女の料理が封印されてしまうのは……」
「お前悔しくないのか!?───そんな奴の為に、なんでお前が料理を辞めなきゃいけないんだよ!!!」
周りは、皆…あたしの言う事は信じてくれなかった────
でも、3人は違った……
「ねぇ、卵かけご飯……作ってもいい?───今だったら……作れそう……」
こんなにも沢山の勇気をくれた彼等に、あたしは何ができるの?
「それとね……──あたし、3人の力になりたい!──スパイスがちゃんと出せるか分からないけど……、一緒に"食戦争"で戦いたい!!!」
3人の希望となる為に────
あたしはもう一度、料理を作る




