甘辛くて苦味のある嫉妬
「ああ?ひまわりが部屋から出てこないだぁー!?」
「おやおや……一体全体どうしたと?」
「あはは……、それが────"キス"したら色々と思い出しちゃったみたいで」
ザクザクと包丁を使ってサラダ用の野菜をカットしていると、スイとエンジは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。傑作だな~なんて呑気に笑っていると、2人はワナワナと震えながら僕に詰め寄る。
「どういう意味だ!!」
「ソウ……、貴方…」
「え?」
「お前…、ひまわりの事───」
「…好きだよ?。……"最初の僕"は…可愛い小さな女の子としか見てなかったっぽいけどね…。まあ、そりゃあ、出逢った時の僕は17歳で、彼女は6歳だったし…」
薄々勘づいてはいたんだ。
僕らが何度も"同じ人生"で生まれ変わっては、"最後の結末"を変えようと悪足掻きをしていたこと。
最初の戦争はあまりにも惨くて、目を背けたくなるものだったから……。
こっそりと建てた木でできたレストランは焼け野原とされて、夢も希望も何も残らず、僕等は死んで行った。
何度も生まれ変わるうちに、やっと見つけたのは"食戦争"─────
これなら僕達は最悪の結末を変えられると思った。
でも……それには女神が……
「"生贄"……が必要なんて、可笑しいよね。そう思うのって、今更かな?。これじゃあ…僕達…何の為に戦争を無くそうとしてるのか……分からない───」
2週目の人生から、女神という名の生贄捜しが始まった。
アモネは2週目の人生から突如現れた、僕らの魂の影響で生まれた妖精────
本来であれば存在しない。
でも、彼女は生きている
僕達のサポートや、女神を捜し続けてくれた。
異世界からやってきた生贄は、未来を変える為に必要な材料でしかない。
生贄が持つスパイスがあれば、不幸は幸福に───幸福は不幸になると言われていた。
だから、そのスパイスを使って戦争に賛同してる者に料理を食べさせれば、全てが上手くいくと思っていた。
今でも思っているよ……
でも……
「いやぁっ!!……私は……私は……死にたくないッ!!!!」
そのスパイスは寿命から出来ている物。
使えば使うほど、美しい娘は枯れ果て……
最悪死んでいく
枯れ果てた娘を気休め程度と口先だけの愛の言葉を並べて、精神状態を保てるように慰めていた。
然し───寿命が予め短い者は、結局はスパイスを生み出せず、そのまま亡くなる者もいれば、戦争に巻き込まれて死んでいった者もいた。
何度か繰り返していくうちに、エルピスの常連客が増えていったのは、前世で生贄として選ばれた異界の娘達の怨念であろう。
自分達のした事を忘れさせないようにと示しているんだ。
「ひまわりを、元の世界に戻してあげよう」
そして、最初の僕達の存在を消す。
このフォーク……ナイフ…スプーンでそれぞれ。
そうすれば、もう解放されるんだ。
みんな……
「本当に、それで良いワケ!?ちょっと自分勝手なんじゃないの!!?」
振り返ると、憤怒の形相でひまわりが立っていた。
「ひまわり……」
「最低だね……、女の子を生贄とか……自分達の望みを叶える為なら犠牲に出来ちゃうとかさ……。」
「そうですね……───」
「でも、そうさせてしまった……国の戦争は、もっと許せないよ……」
「……」
「あたしは、今だからハッキリと言える……───やっぱり、料理が大好きだって…。そう思わせてくれたのは……3人がいたからだよ…。なのに……、駄目だよ……───3人が、そんな犠牲とか出しちゃ駄目だよ!!……そんなの一番望んでない筈だよ……ッ」
「なら……、君が止めてくれないか?」
ソウは自身の持つフォークをひまわりに手渡した。
「それで、僕を刺してくれないかな?」
「ソウ!!お前何言って!!」
「ずっと……、待っていたんだ───ねえ?、"最初の僕"?」
すると、ソウの背後から黒いローブを纏った人物が現れた。
その人物は頭に深く被っていたローブを上げ
「……久しぶりだね、ひまわり」
「!……ソウ…、…やっと、逢えた……」
ひまわりは僕を見ているけど、その僕は最初の僕だ。
それはまるで、恋をする乙女のような……
(僕の前でそんな顔をしないで……)
これが所謂、嫉妬というやつなのだろうか。
だけど──今の僕には、彼女にそんな事を言う勇気も資格もないのだ。




