チョコミントを唇に添えて2
遠い昔、異世界に迷い込んだ事があった。
今思えば、それは夢だったかもしれない
「えぇーーーー!?どこお!?ここぉー!!」
おつかいを頼まれて、いつもの馴染みの商店街に向かって歩いていた筈なのに……
その時は、森の中に迷い込んでいたっけ
「おかあさぁぁぁん!!!まいごになっちゃったよぉぉーーーー!!!」
ぐぎゅるるる~……と、腹の虫も鳴って
恐怖と空腹でわんわんと泣いていると
「どうしたの?君、迷子かな?」
幼いながらも、「この人は軍人」だと理解していた。不思議と怖くはない。
でも、軍服が似合わないくらいの優しい笑みを浮かべて、あたしの頭を優しく撫でてくれた。
温かくて大きくて優しい手。
微かにミントの香りもする。
「お腹すいてるんだね───おいで、あっちに美味しい食事処があるから──……と言っても、僕と仲間で…こっそりと建てた所なんだけどねっ」
その人は人差し指を唇にあてて悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
知らない人には着いていかない!───当時のあたしには、その言葉は掻き消されていた。だって……悪い人じゃないって分かっていたから
「ごはん……たべれる!?」
「ふふ、もちろんだよ。君の好きな物は何かな?」
「ハンバーグと!カレーと!お寿司と!……あと……あと……──チョコミントも好き!!」
「チョコ、ミント?」
「チョコとミントがね!がったいしてね、スーッとするけど甘くておいしいんだよ!!」
「へぇ~……チョコレートと相性が良いなんて初めて聞いたよ。君は物知りなんだね」
「えへへっ」
繋がれた手はとても温かくて優しくて、大好きだった。
どうして……"今"この時の記憶を思い出すんだろう。
重ねられた唇から、懐かしくて大好きだった人が溢れてくる。
「っ!!───」
ドンッ!!!と、ソウを突き飛ばし、唇を抑えた。微かにチョコミントの味がして、身体は燃えるように熱くなる。
紛れもない─────あの時の"軍人"はソウだ。
でも、今目の前に居るソウは……
「あなた……だれ、なの?」
ソウなのに、あたしが出逢ったソウは
今目の前にいるソウではない。
同じ人物の筈なのに、まるで別人……
「…分からないんだ……───時折、沢山の"僕"が……問いかけてくるんだよね。何人犠牲にするんだって……」
(もし……────ソウの人生がループしているとしたら)
「……でも、チョコミントだけは……記憶と魂の片隅に残っているんだよね…。小さい女の子と……───君だったんだね、ひまわり。」
アモネが言っていた言葉の意味が分かった
"三人の死ぬ姿"をもう見たくないと言っていた……あの意味が。
ソウは、一度死んで、何度も同じ人生をループしているんだ。スイとエンジもきっとそう……
「ばかっ!!!…どうして……どうして───」
「……食べる君が美しくて、愛おしいと思ったのがきっかけ……だった気がするよ……。あはは、あんまり上手く思い出せないけど……」
何度この人は辛い思いをしたのだろう。
戦う事が似合わない彼は、何度戦って散っていったのだろう。
何度……人を犠牲にして、その罪に押し潰されそうになったのだろう?
『……君が、僕等を止めてくれ。でないと、世界が……』
「どうして……教えてくれなかったの」
熱で魘されて、夢で出逢ったあの黒いローブの人物は……
「"久しぶり"って……なんで言ってくれなかったの……」
初めて出逢ったソウだったなんて……
「ソウ……ッ!!」
今直ぐに貴方に逢って、あたしはこんなに大きくなったんだよって伝えたい。
貴方の年齢に近付けたよって……




