カレーの具は思い出と努力の中に有り5
ソウの"上書き保存療法"大作戦のおかげか、程よい辛さの甘口カレーが作れるようになった。
「うん、文句無しに美味しいっ」
「甘味と辛味のマリアージュが絶妙なバランスで合わさっていて、そこはかとなく…懐かしい味がしますね。」
「むぐむぐ…………──要は普通のカレーだな」
「やったーーーー!!!普通のカレーが作れるようになれたーーー!!!」
と、喜んだのも束の間……
料理対決まで後…残す所1日となってしまったのだ。"上書き保存療法"で、ひまわりに歯が浮くような台詞を一日中浴びせまくった結果は普通のカレーである。
「喜んどる場合か!!。こんなカレーで、勝てると思ってんのか!?」
「え?、思ってたけど……」
ガックリと項垂れるエンジ。
「だって、3人が……て、照れくさいけど……手伝ってくれたおかげで……普通のカレー作れるようになったんだよ?。これで勝てないとか……───勝ちに行かなきゃ駄目でしょ!。打倒・アニス娘!ウイカよ!!」
"絶対に負けないから"と、希望に満ちた眼差しで三銃士達を見つめるひまわりに、流石のエンジも観念した様子だ。
「?……レディ…胸元───」
「胸元?───はっ、ま、まさか………バ、バストの話!?──ちょ、ちょっと!!結構気にしてるんだからね!!?」
「…いえいえ、そうではなくてですね……──光っているんです。」
冷静かつ呆れ交じりの表情を浮かべるスイは、ひまわりの胸元に指をさした。視線を辿らせていくと、確かに……微かだが胸元が桃色に光っていた。
「な…なんだろ…コレ」
その光に触れると光は強くなり、手には少しの重量感
「それは……ミルじゃないか!」
「もしかして…スパイスが!?」
「…料理の感覚を取り戻した事によって…女神の力が働いたのか─────」
三銃士は各々少し興奮気味の様子で
"ミル"を凝視する。
そのミルは手回しタイプで桃色の可愛らしいデザインをしていた。
ひまわりは試しに、3人の食べかけていたカレーに向けてミルを回す。
シャララララン!────
と、なんともミルから聴こえてくるとは思えないメルヘンチックな音がした。ミルからはキラキラと煌めく、赤い色をした少し辛そうな粉。一瞬でカレーに溶け込み、香ばしくも食欲をそそられるような…癖になってしまいそうな香りだ。
「わああああ!?な、なにこれ……ジュルリ……お、美味しそう!!!」
ヨダレを垂らしながら両頬を抑えていると、三銃士は同時にぱくりとカレーを口にする。
「こ……これは────」
「全身に染み渡るような……───涙が零れそうです」
「……嗚呼、やっぱり…お前は本物だったな」
(本物……?)
エンジがポツリと零した"本物"とはどういう意味だろうか?。然しそんな事も気にする余裕さえもなく、3人は幸せそうな表情で、自分たちの懐に忍ばせていた
"フォーク"・"ナイフ"・"スプーン"を取り出した。
「それは…、あたしがこの世界に来る前に見た……」
「僕は、フォーク……スイはナイフ、エンジはスプーン───これは、僕らが生まれた時に同時に誕生した…食神器と呼ばれる物……。本来であれば、食事をする為に存在していた筈なのに……、戦争の為に生まれただけの…哀れな食器なんだ…。」
そうか、あれは……3人のシンボル・カトラリーだったんだ。
あたしの世界では、3人はもう……歴史上の人物化としてるだろう。
でも……今目の前に居るのは────
(よくよく考えれば、三銃士は……───この世界は過去?……)
今更考えた所で意味の無い事かもしれない。そもそもこの現実が有り得ない事なのだから。
「ひまわり、それが…君の持つ、女神のスパイスだよ。」
何故だか分からないけど、今にも泣き出してしまいそうなソウ────
その姿は……
熱に魘されていた時に、夢で会った……
黒いローブを纏ったあの人物と重なったのだ。
(なんだろう……)
胸騒ぎと悲しみが同時に襲ってくるこの感じは……
3人は力を取り戻したと言って、カトラリーを掲げ、重ね合わせた。




