妖精に導かれて
それは───学校からの帰宅途中で起きた事だった……
『あんたがスパイスの女神ぃ~!?、信じらんないんですけどっ!!』
目の前で浮遊する……簡潔に言うと"妖精"が、ご機嫌斜めの様子でブツブツと独り言。耳を澄ますと『これで何人目よ……』と、全くもって意味不明である。
しかし、この少女……日下部ひまわりは、大変感動した眼差しで妖精を凝視していた。その様子に妖精はかなりどん引きしており、一瞬の隙で、妖精はひまわりに捕まり…頬擦りをされる。
『いっ…いやあああ!?な、なんなのよアンタ!!?。キモイんですけどッッッッッッ!!!』
「あたし、本物の妖精見るの初めて~!!ちょー可愛い!!」
『離しなさいよ!!人間!!』
「ツンデレとか……ハァハァ…大好物です……じゅるり」
『人選ミスだわ……完全に』
「ところで、妖精さんがどうしてこんな所に……」
『アンタを迎えに来たのよ』
「へ?───…あたしを?」
『アタシの"主"がアンタを選んだのよ……──まあ、着いて来なくても良いけどね……』
そう言って妖精は薄暗い路地裏へと消えていった。慌てて妖精を追いかけるひまわり。路地裏を抜けると、古びたレストランが建っていた───
「え!?……此処って……『エルピス』!?」
『あら、アンタこのレストラン知ってるの?』
「勿論!!。エルピスはグルメオタク界隈では伝説のレストランって有名なんだよ!?。当時此処を経営していた三人の三銃士は、戦争に巻き込まれながらも、このレストランを営業していて……、心が洗われるような美味しい魚料理を提供する"スイレン"と、情熱と勇気と元気を貰える肉料理を提供する"エンジュ"と、森の妖精と一緒に摘んだハーブティーを提供する"ソウカンパニュラ"が、人々の心の拠り所となっていたって……」
『うんうん……、今までの"女神"よりかは、かなりの勉強家ね……』
「でも、世界はその伝説を"嘘"だって言って信じて取り上げようとはしなかったんだよね……。何千年も前の歴史家が出鱈目を語ったんだって……───」
『はあ!?デタラメですってぇ!?』
「でも、あたしは出鱈目じゃないと思ってる。」
『!───…ふぅん』
「はあ……、もし逢えるなら……逢ってみたいなぁ~…三銃士に───」
『なら、お店に入ってみたら?』
「え!?、まさか……」
『貴女の気持ちがウソじゃないなら……───今度こそ…《《ホンモノのスパイス》》が出来るかもしれない……』
「スパイス?」
『こっちの話しよ───』
妖精は小さな手で、古びたドアノブを引く。
中に入ると、木で造られたであろうボロボロのテーブルと椅子───そして中央には、錆びた
"スプーン""ナイフ""フォーク"が並んで置いてあった。
「これは……」
『三銃士が戦争の時に使用した武器よ』
「え!?食器で戦ったの!?」
『そんじょそこらの食器と一緒にしないでちょーだい!。……これは、特別な力が宿った食器───今でもずっと……三人の魂が宿っているのよ。』
「三人の…魂」
『今度こそ……《《成功》》させてよね……───アタシもう……三人の死ぬ姿……見たくない』
妖精が一粒────涙を零すと、錆びた食器が三色に光り始めた─────
《僕らは戦争を無くす───その為に料理を作り続けるんだ》
《然し……これ以上、犠牲者を出す訳には……》
《心が持つかどうか……───オレ達はオレ達のままで、食戦争に挑む事が出来るのか?》
声が聞こえる────────
何度も何度も過ちを繰り返した者達の声が
「誰?……あなた達は」
ざわめく声─────そして微かに香る花とハーブの香り。
「お待ちしてました、女神様」
手の甲に落とされた口付け────
美しい若草色の瞳が、少女を捕らえて離さなかった。
極普通の少女・日下部 ひまわり
平凡な日常生活は、"妖精との出逢い"と言う名のスパイスで一変したのです。




