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第5章 資金洗浄

第5章 資金洗浄




 2025年7月8日 午後9時30分 薄暗いマンションの一室。音を消したテレビでは、各局が特番を組み、今日の株価大暴落と東和グループについて論議している様子が映し出されている。

 山田は、机の前に腰かけてノートパソコンを開いていた。外は蒸し暑い夏の夜、エアコンの冷気のせいなのか、部屋の中はキンとした緊張感が漂っている。彼の手元には複数の海外銀行口座情報、仮想通貨取引所のアクセスデータ、そしてペーパーカンパニーの資料が整然と並んでいた。


「バディ、状況を確認してくれ。」

山田は画面に表示された複雑な資金フロー図を見ながら言った。


バディの機械的で冷静な声がスピーカーから響く。

「了。資金洗浄プロセスは計画通り進行中。ノバリンク貿易(NovaLink Trade Ltd.)経由の資金は香港及びシンガポールの仮想通貨取引所で計100億円を暗号資産に変換完了済。」


「分散はどうなった?」


「50の匿名ウォレットに振り分け完了。その後、カリブ海諸国の法人名義口座を経由し、スイス匿名口座への送金進行中。42時間以内に完了予定。」


山田は満足そうにうなずいた。

「OK。取引所に痕跡を残すなよ。それと、資金の一部はVega Holdings AG(ベガ・ホールディングス株式会社)の海外口座に移しておけ。そちらで運用益を偽装する。」


「了。」


 冷静に指示を出す山田の表情には、焦りの色はまったくなかった。彼にとって、こうした複雑な資金操作は日常の一部であり、シミュレーション通りに進めば捜査の手を振り切ることは容易だと確信していた。


 「七夕の悪夢」と呼ばれた出来事のあと、山田は約100億円の資金を得ていた。だがこの資金は、そのままでは使うことはできない。なぜなら山田的には、海外企業が得た株式投資による結果の利益であり、その獲得手段において正当性を欠く取り引きと自身も認識しているからである。だからこそ、これを正しく使える資金として両替をする必要があったのだ。

 ただし、山田の両替ルートを当局に辿らせる訳には行かない。だから山田はその資金を別のものに等価交換で変えることで性質の違う形とすることにしたのだ。そう、通常の現金から匿名性の高い暗号資産に。


 山田は、バディと連携し巧妙に次のようなルートで資金を両替(洗浄)する事にした。

まずは第一段階として、「七夕の悪夢」で得た利益を小額に分散してApex Solutions Inc.(エイペックス・ソリューションズ株式会社)名義のケイマン諸島口座へ「国際コンサルティング費用」と偽装して送金する。

 その後、第二段階として資金の一部をシンガポールの取引所(Binance取引所またはKuCoin取引所)で仮想通貨に変換。当然、使用する仮想通貨は匿名性の高いMoneroモネロZcashジーキャッシュで運用させ、さらには送金記録を「タービンミキシング」によって撹乱させて追跡を困難にすることにした。

 次に第三段階として、NovaLink Trade Ltd.(ノバリンク貿易株式会社)が運営する仮想通貨ウォレットを通じて、ロシア(匿名性の高いP2P取引所を利用)や香港(独立系ウォレットの利用)、エストニア(仮想通貨に寛容な規制の取引所を経由)等の国々を経由して再び分散させた後、分散した仮想通貨の一部は現金化してスイスの銀行口座に送金し、他は再び別の仮想通貨に変換させる方法をとった。ここまで追跡できるものはまずいない。


 そして、第四段階では、合法的な投資への転換させることで、正しい商取引による資金であると見せかける手を考えた。そこで、自身のペーパーカンパニーであるVega Holdings AG(ベガ・ホールディングス株式会社)を登場させ、スイス銀行口座に入った資金を「再投資」として、ルクセンブルクのヘッジファンドやオランダの不動産プロジェクトへ投資先として利用することにしたのだ。


 最終的には、バミューダのTerraWave International Ltd.(テラウェーブ国際株式会社)を通じて、「正当な利益」として日本国内の複数の名義口座に少額ずつ還流させ正当な取り引きで得た利益(資金)として正々堂々使えるお金として両替が完了する仕掛けである。


 当然、手間も時間も掛かるが、仮に今回の件を誰かが見破っても山田まで辿り着くことは事実上、不可能であり忽然と市場から消えた資金の隠匿場所としては格好の場所であった。もちろん、これらの計画立案や実行は、バディなくしては無しえなかった計画であった。




 一方、同じころ東京・霞が関にある証券取引等監視委員会(SESC)では、井上拓也が山田の動きを追っていた。彼のデスクの上には、膨大な取引履歴が並べられ、同僚たちが次々と追加のデータを運び込む。


「井上さん、これが香港とシンガポールの取引履歴です。」


若手の同僚がデータを差し出すと、井上は疲れた目を細めながらそれを受け取った。


「ふむ……見ろ、この取引だ。」彼はモニターを指さした。「すべての送金に共通する署名がある。『Y.K』だ。」


「『Y.K』ですか?」


「そうだ。おそらく犯人が意図的に残した痕跡だろう。この規模の資金を扱う人間が、こんなミスを犯すはずがない。挑発しているんだ。」


 井上の声には苛立ちが混じっていた。この事件の追跡はすでに数週間に及んでいたが、犯人の手口はあまりにも巧妙だった。特に仮想通貨の取引を利用した資金洗浄は、従来の捜査手法では追跡が難しく、井上たちの捜査班は何度も行き詰まりを経験していた。


「井上さん、これを見てください。」別の捜査員が報告を持ってきた。「香港とシンガポールで同時に動いたウォレットがあります。このタイミングで分散送金が行われています。」


「分散したか……」井上は腕を組み、画面をじっと見つめた。「カリブ海かスイスだな。この動き、やっかいだな。」

 スイスは強力な銀行秘密法を維持しており、犯罪行為が立証されない限り個人情報や企業情報の開示は許されないため、嫌疑の段階での捜査協力は得られない。ここから先の追跡は難しいのである。


「仕方がない。今はこの『Y.K』だけが手掛かりだ。他の資料も当たれ」


 何か事件が起きても、物的証拠に乏しいのはいつもの事。自分たちは結果から原因を調査する。それはまるで、長い紐の途中にいくつも結ばれたコブを下から順番に解いていくようなものだと感じていた。例えどんなに固く結ばれたコブがあっても、時間をかけ丁寧に解いていけば必ず先頭に辿り着くはず。井上はそれを信じて少ない証拠に取り組んでいた。



 山田の部屋では、バディが冷静に次のプロセスを進めていた。

『カリブ海諸国の取引完了。現在、スイス銀行、匿名口座に資金移行中。』



「SESCの動きは?」山田がバディに聞く。


「捜査員:井上拓也。エイベックスの資金追跡中。」


 山田はクスリと笑った。「井上か……そいつに興味はないが、ここまで来れるかな?」


 ”興味はない”言葉の通り、すでに彼の視線は、パソコン画面に表示されたデジタルウォレットの残高に向けられていた。資金洗浄は最終段階に差し掛かりつつあった。




捜査陣の苦境


東京都内、証券取引等監視委員会 

 会議室の壁に張り出された膨大な相関図と取引記録、そしてモニターにはSNS投稿のスクリーンショットが無数に並べられている。井上拓也と山本優子を中心としたチームが、徹夜での捜査の疲労感を隠せないまま報告会を続けていた。


「井上さん、これが問題のアカウント群の分析結果です。」

山本がスライドを切り替えると、@MarketMaverickや@DeepFinanceReportsといったアカウントの投稿内容が表示された。それはどれも市場の動向を分析したものや、特定銘柄の情報を拡散したものだった。


「全体的に見ると、これらのアカウントが短期間で株価を刺激したのは間違いありません。ただし……」山本は言葉を詰まらせた。


「ただし?」井上が眉をひそめて先を促す。


「投稿内容自体には、市場操作を目的とした意図がある証拠が見つかりません。むしろ、多くの投稿は他の投資家に情報を提供しようとする善意に基づくものです。」


 井上はしばらく黙り込んだ。モニターに映る投稿をじっと見つめる。投稿には煽りや過激な表現も一切なく、冷静かつ事実に基づいた内容が並んでいる。それが市場操作を目的としたものかどうか、証拠はどこにもない。


「善意の第三者……か。」井上は皮肉気味に口にした。「しかし、その善意の投稿がこんな結果を招くとはな。」


 山本は言葉を選びながら説明を続けた。「問題なのは、これらの投稿がタイミング的に市場を刺激した可能性がある点です。株価が急騰した直後に、この情報を信じた投資家たちが一斉に買いに走り、その結果、短期的なバブルが発生した。」


「そして、その直後に売り抜けた奴がいる……。」井上が鋭い視線で資料を見つめる。「その中心にいるのが、このY.Kってわけだ。」


 山本が頷きながら別のスライドを出す。「はい。仮想通貨の取引記録からも、Y.Kと名乗る人物が関与していたことが濃厚です。ただ、SNSアカウントの所有者も、情報を拡散した投資家たちも、どれも悪意があったとは言えません。むしろ、彼ら自身も情報に踊らされた可能性すらあります。」


井上は拳を机に叩きつけた。

「つまり、あの野郎はこの“善意”を利用して、まるで自分の手を汚さずに市場を操ったってことか。」


山本は静かにうなずいた。

「はい。そして、その手口があまりに巧妙で、現行法ではこれを違法とすることは難しいです。」


部屋に沈黙が広がる。捜査陣の苛立ちは、井上の表情に如実に現れていた。


「どんなに情報を追っても、すべての糸が途中でぷつんと切れる。善意の第三者を罰するわけにもいかない。そして、このY.Kという奴の正体すらつかめない。……本当に腹立たしい話だ。」


井上は自嘲するように笑った。

「SNSで投資家たちを操るなんて、時代は変わったもんだな。」


 その時、山本が冷静に提案を口にした。

「井上さん、この状況を打破するには、別のアプローチが必要です。例えば、東京証券取引所の市場関係者への聞き取り調査を強化するのはどうでしょうか?トレーダーたちは普段から市場の動きを間近で見ている分、何か違和感を覚えているかもしれません。」


井上は腕を組んで考え込んだ。

「……確かにそれは一理ある。現場の声を聞けば、新しいヒントが見つかるかもしれない。」


「特に、七夕の悪夢のあたりで動きが目立っていたトレーダーたちの行動を洗えば、何か手がかりが出てくるかもしれません。」


井上は頷き、決意を固めた。

「よし、次は証券取引所だ。市場関係者から徹底的に聞き出してやる。」


 捜査陣は再び動き出す。だが、井上の胸には、いまだ言いようのない悔しさと焦りが渦巻いていた。「あのY.Kって奴……必ず引きずり出してやる。」と心の中で誓いながら。





 井上拓也は、捜査本部のメンバーと共に、東京証券取引所に向かっていた。山本優子は助手席で資料を広げながら、目を通している。道中、彼女が口を開いた。


「井上主任、海外の取引所からの協力も得られましたが、ログデータに不完全な部分が多いです。匿名性の高い取引所には、どうしても追跡が難しい…。」山本の声に少しの疲れが滲んでいた。


「わかっている。だが、これ以上の進展を求めるには、国内の関係者に聞き込みをしっかり行うしかない。」井上は運転席で前を見つめながら答えた。


「了解です。」山本はさらに続けた。「仮想通貨の取引履歴も含めて、あれだけの市場操作が誰の手によるものか、はっきりさせないと。」


 東京証券取引所に到着し、井上と山本は急いで建物内に向かう。目的は、トレーダーたちへの事情聴取だ。中でも、佐藤翔太、 高橋真紀、そして中村修一の3人に、彼らが関与している可能性のある取り引きの詳細を尋ねることが最も重要だった。


 会議室に通され、井上はまず佐藤と高橋に向かって声をかける。


「佐藤さん、高橋さん。お時間いただきありがとうございます。」井上は静かに席に着き、二人を見つめた。


 佐藤翔太は冷静に応じた。「いえ、どういたしまして。」


 高橋真紀は、少し神経質そうに腕を組みながら言った。「私たちは何も知らないんです。いつものように取引していただけで…。」


 井上は深く頷きながらも、言葉を続けた。

「しかし、あの日の取引所での急激な株価変動には、少しばかり疑問を感じていませんか?」


 佐藤が一瞬考えた後に答える。

「株式市場って、常に動いてますから。どんな時にも、こんなことはあると思います。」


「そうですね。でも、今回は異常すぎました。」

井上の目が鋭くなる。

「市場全体に影響を与えるような操作が、意図的に行われた可能性はあります。」


高橋は少し視線をそらす。「それは…」


 その瞬間、扉が開き、中村修一が入ってきた。井上は目を細めて彼を迎え入れる。


「あっ、お邪魔してます、中村さん。」井上は軽い挨拶をする。


 中村は微かに笑って言った。

「すみません、少し立て込んでいて遅くなりました。」

座席に腰を下ろし、ゆっくりとした口調で続けた。

「で、今日はどういったことで…?」


 井上は資料をテーブルに広げ、「あなたにも関わりがありそうな取引についてお話を伺いたい。」と言った。


 中村は目を落とし、少し考え込むようにしてから話し始めた。「ああ、あの取引か…。実は、少し気になることがあるんです。」


井上は興味深そうに中村を見つめた。「それは?」


 中村はしばらく言葉を選んでから話し始めた。「あの時、私も少し嫌な予感がしたんです。あまりにも、株価が急変動しすぎた。それで思い出したのが、2018年に起きたニューヨーク市場の事件です。」


井上と山本は互いに顔を見合わせた。中村は続ける。


「あの時も、誰がやったのか分からなかった。市場の動きを誰かが操作していたことは間違いないんです。でも、結局、誰の仕業かは明らかにされなかった。それが今回の事態と似てると感じているんです。」


「似ている? どういう点で?」井上は中村をじっと見つめた。


中村は、彼の目を見つめながら言った。「ステルスパイロットってご存じですか?」


井上と山本は、言葉の意味がすぐには理解できなかったが、中村はそれを説明し始めた。


「それは、都市伝説みたいなものです。見えない手で市場を動かす、『見えない株価操縦士』って言われてる。私たちはあくまで市場で目に見える部分だけを見ているけど、奴はその裏で動いているんです。いまだに捕まったって話は聞いたことがありません。」


井上はその言葉に、背筋が少し寒くなるのを感じた。しかし、彼はそれを打ち消すように頷きながら言った。「しかし、それは単なる都市伝説なんでしょ?」


中村は肩をすくめて言った。「そうかもしれません。でも、少なくとも私には、あの時の株価操作もあの『ステルスパイロット』の仕業だという気がしてなりません。」



ボルマゲドン事件の影響


井上は中村の言葉を慎重に受け止めながら、さらに質問を投げかけた。「ステルスパイロット……その話、もう少し詳しく聞かせてくれませんか。」


中村は少し考え込みながら、ゆっくりと語り始めた。「まあ、あれは2018年のニューヨーク市場で起きた、大規模な株価暴落事件です。あの時、ある特定の銘柄が異常な値動きを見せて、市場全体に波紋を広げたんだそうです。」中村は眼鏡の縁を指で押し上げるようにして、話を続けた。


「その銘柄、急に急騰したかと思うと、次は急落して、また急騰。全く予測がつかなかったと。最初は何かの誤報だろうって噂されていたようですが、最終的には、それが本当に意図的な操縦によるものだって結論が出た。あっ、トレーダーの仲間内でね」


 井上は興味深そうに耳を傾けていた。

「でも、そんなことがどうしてニュースにならなかったんだ?」


中村は笑みを浮かべ、話を続けた。

「それが面白いところなんです。事件の調査には乗り出したが、最終的に捜査機関は『犯人は不明』という結果を出したんです。証拠が全く掴めなかった。理由は簡単。犯人はすべてを見えない形で操っていたからというんです。」


井上の眉がわずかに開かれた。

「見えない形で?それはどういう意味だ?」


中村は真面目な表情で、さらに語り続けた。「その犯人が、実は“ステルスパイロット”って呼ばれていて正体不明。個人なのか組織なのか、システムなのかも分からない。目立つこともしないし、市場のどこにも顔を出さないけれど、取り引きの裏で株価を操る技術を持っている。まるで操縦席に座っているパイロットのように、見えない手で市場の動きを操る。それが、ステルスパイロットの特徴だそうです。」


「まるで空を飛ぶパイロットのように?」

井上は少し笑ってみせたが、すぐにその冗談が通じないことに気づき、話を続けた。

「だが、それではどうして彼が市場に影響を与えられるんだ?」


中村は再び頷き、さらに詳細に説明し始めた。「簡単に言うと、あの事件の犯人は、何かしらのアルゴリズムやシステムを使って、あらかじめ設計された取引戦略を隠れた形で実行していたんだと思います。証券会社や取引所に残る証拠は極めて薄い。まるで“タービンミキシング”のように、取引の流れをかき混ぜて、誰の目にも留まらないようにしていた。それに加えて、特定の匿名性の高い取引所を使うことで、さらに証拠隠滅を図っていた。」


井上はその説明に納得しきれなかった。

「でも、それならどうしてその後もその“ステルスパイロット”は捕まらなかったんだ?」


「それが、もっと怖いところなんですよ。」

中村は少し黙ってから、低い声で言った。

「実は、その事件が起きた後、業界内では一種の都市伝説が生まれた。“ステルスパイロット”って言葉が広まり、トレーダーたちの間で何度も語られた。取引所のシステムが完全にハッキングされているわけじゃないけれど、だれも見えない形で市場を動かすことができる力を持った人物が、今もどこかにいるんじゃないかって。」


「それが、あの“ステルスパイロット”か?」井上は少し顔をしかめて言った。


「そう。その名の通り、“ステルス”――見えない存在。見えない手で株価を操る。誰も気づかないうちに、市場を支配する。それが、あの事件、ボルマゲドンの真相だと信じているトレーダーもいる。」


井上は深く考え込んだ。「それが本当なら、今回の件にも関係があるかもしれないということか?」


中村は一度頷き、「そうだと思う。」と続けた。「ただし、すべての証拠が曖昧です。それに、ステルスパイロット自体が本当に存在するのかどうかも疑問です。だが、市場内であの時と同じような異常な動きがあると、どうしても思い出さずにはいられないんですよ。」


井上は、その話を聞いてもすぐには結論を出せなかったが、何か得体の知れない恐怖を感じずにはいられなかった。

「どうにかして、その『ステルスパイロット』が関与している証拠を見つけ出さないと、何も始まらないな。」


中村は一度肩をすくめ、「証拠が見つかるといいですね。」とだけ言った。


 井上はその後も、何度も中村の言葉を反芻しながら、捜査の方向性を考え続けた。市場の裏で誰かが操っているのか、それとも単なる偶然か。だが、証拠が何一つ見つからない現状では、どちらも確証を持てない。しかし、ひとつだけ確かなことがあった。それは、今後の捜査がただの金銭的な問題だけではなく、もっと複雑で暗い何かに繋がっていく可能性があるということだった。


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