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第1話 ドールと研究者


 この世界は、王によって支配されている。




 いや、少し違う。この表現は適切でないと思う。

 正しくは、この世界のトップは王である、だ。


 もしかしたら誰かは「皇帝」と呼ぶのかもしれない。

 「天皇」と呼ぶ者もいるのかもしれない。

 「大統領」と呼ぶ者もいるのかもしれない。

 だがそれを総合的に、小さな子供にも分かるように、この世界のものは皆「王」と呼ぶ。


 その王がなぜこの世界の支配者ではなく、トップなのか。

 簡単なことである。この世界を動かしているのは政治家だからだ。

 王にはこの世界を動かすための権力は与えられていない。ただのお飾り、とまではいかなくとも、この世界で一番の発言権を与えられているのは実質的には違うのだ。


 この世界は、すべて政治家が動かしている。だがそれは少しおかしい気もする。

 何故か。

 この世界は、科学が発達しすぎているのだ。

 海底の事から空の事まで、ありとあらゆる事を科学で読み取れてしまう世界なのだ。そんな世界に、王は必要か?政治家は必要か?

 だが誰もNOと言わない。王が君臨し、政治家が支配するのが当たり前だと、とっくに刷り込まれてしまっているから。


 そしてそんな政治家たちによって、王以外の人類は四つの種類に分類された。

 まずは自分たち、政治家。この世界を支配する者だ。

 そしてその下、または同等の位に、貴族。この中には王族も含まれる。王族は貴族の中でも、最高位に位置する。

 そして次に、研究者。科学の発達したこの世界では、必要不可欠とされる存在であるため、彼らは待遇される。

 最後に、市民。簡単に言えば、政治家・貴族・研究者以外のその他多数だ。


 誰か、この区分をおかしいと思った者はいないだろうか?

 そう、この世界では「研究者」が待遇される地位にいる。だが理由は先程簡潔に述べた。これ以上その理由は述べられない。

 今から述べるのは、その研究者の中でも、これまた特別待遇をされている者たちがいるということ。

 それは、ドール研究者たちだ。

 科学の発達した世界で、人間に「仕われる」ために造られた、人型のロボット。それらは十数年前、とある研究者によって生み出された。そしてその利用価値の高さに需要が一気に高まり、ドールを研究し生み出すためだけの研究所が五つ作られた。この結果、ドール研究者たちは高待遇なのだ。


 そのドール研究所の中でも、親となる研究所がある。

 世界で最初にドールを生み出した研究者が所長を務める、第一研究所。

 遅くなったが、この研究所がこの物語の出発点となる。






 暗い部屋があった。


 ただ暗いというだけで、光はある。この部屋の主が部屋の明かりを点けていないだけだ。

 その部屋にある光は、すべてパソコンからの光であった。

 お世辞にも広いとは言い難い部屋にこれでもかというほどに敷き詰められた、大量のパソコンや機械。それらは部屋の明かりが点いていないのにも係わらず、ずっと起動しているようだった。

 するとそんな部屋の扉の真上が、明るい光を発した。


『ドール識別No.0001、ベィト』


 女性とも男性とも取れないアナウンスの声が聴こえたかと思うと、部屋の扉がスライドして扉の向こうに立っている人物が現れた。

 だがその人物は廊下からの光で逆光になり、影になってしまっている。

「もう、まだ寝てるの?」

 するとその影が、少年のような声を漏らした。どうやらその人影は男であるらしい。

 その人影は不満そうに呟いた後、部屋に入ってきた。彼が部屋に入ったのを感知すると、部屋の扉は閉まる。

「んがっ………へ…?」

 扉が閉まる音で目覚めたらしい部屋の主は、間の抜けた声を出しながら座っていた椅子から頭だけを起こす。

 寝るために付けていたアイマスクを外すと、その下から血のように真っ赤な瞳が表れた。

 そんな彼は、ボサボサの髪を掻きながら欠伸をする。

「あ~……おはよ、ベィト」

「何がおはようだよ。もうお昼回ってるよ」

 アナウンスから発せられたものと同じ名前を呟かれた少年は、溜め息を吐く。


 そう、彼こそが冒頭で紹介した、ドールなのだ。


 ふわふわの栗色の髪に、漆黒の瞳。美少年とも美少女ともとれる面立ちを持ち、表情はころころと変化する。手足は華奢で白い。

 どこからどう見ても人間だ。だが彼は正真正銘、ドールなのだ。

 この研究所では、扉の前に立つとその人物のデータを読み取り、危険人物でないかどうかを調べることができる。それはドールも同じことで、ドールが扉の前に立つと識別ナンバーと名前が調べ上げられる。名前は付けれられている物のみにしかないのだがつまり、この少年、ベィトは間違いなくドールという機械なのだ。


「んーそうか……寝過ぎたな」

「そう言いながら反省なんかしてないくせに。白浬(はくり)はいつもこんな時間に起きてくるじゃんか」

「睡眠は人の三大欲求だからねー。本能的な欲求には逆らえないよ」

 白浬と呼ばれた部屋の主は、椅子から立ち上がり掛けていた白衣を取る。それを見たベィトは、なめらかな動作で彼の後ろに回り、白衣を奪った。

 その動作に少しも動じる様子を見せない青年は、当たり前のように腕を伸ばす。同じくベィトも当たり前のように彼の腕に白衣の袖を通す。

「また言い訳」

「もー、ベィトは厳しいなー」

 腕を通し終えると、襟を正すために前に回る。そこでも二人は、目を合わせずに会話する。

「厳しくないよ。ただ僕の創作者が怠け者だと恥ずかしいの」

「怠け者じゃないよー。これでも研究はしてるんだから」

「自分の気分が乗ったときだけでしょ」

 白衣を着せ終わると、ベィトがぽんと白衣を叩いた。叩いたと言っても着せ終わったときの合図のようなもので、力は全然入っていない。

 それを確認した青年は、再び自分の席へと戻る。

「まあねー」

「しっかりしてよ、創作者様」

 ベィトはそう言ったが、コーヒーを煎れようとしているため青年の方を見向きもしなかった。

 青年はその言葉に、手だけをぷらぷらと振って答えた。

 そんな青年の左胸には、『AIZAWA』と書かれた名札があった。


 ここまで読むとお分かりいただけただろう。

 部屋の主の青年は、藍澤(あいざわ)白浬という。ベィト自身が語ったように、ベィトの創作者である。

 一見したところ、かなり若い。大学を卒業したばかりの新人研究者と言ってもおかしくはない。

 だが彼は、ベィトを生み出した。

 ベィトは彼の識別ナンバーが示すように、最初のドールなのだ。

 つまり白浬は、ドールを生み出した最初の研究者である。そしてそれは、この研究所の所長であることを意味する。

 こんな若い人が……と言われることも少なくないが、彼の年齢は正直なところ不詳である。白浬曰く、自分でも詳しくは分からないとのことだ。

 そんな彼が、この世界に大量普及中のドールを作り出した第一人者なのだ。


「はい、コーヒー」

「ありが、と………」

「どうしたの?」

「ねえベィトさん…?俺ブラック飲めないって言ったよね…?」

「飲めるようになりなさい」


 自分が創り上げたものに怒られている彼がとは、到底信じ難い事実だが。

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