女神、襲来!?
「まったく……やっとまともに料理ができるようになったと思ったら……砂糖と塩を間違えるなんて鉄板のミスをやらかすなんて……」
「いやぁ……申し訳ない……」
ぷくーっと頬を膨らませるスクナさん。
僕自身少し仕事に慣れてきたと思っていたが、まさかのミスをやらかしてしまった。
「まったく……優しい先輩に当たれて良かったですね〜。 他の人だったら普通に廊下に立たされるレベルですよ?」
スクナさんはそう言いながらもテキパキと料理をテーブルの上に並べていく。
「でも、そのおかげで新たな味が発見できましたし、これはこれで良しとしましょう。 うん…………美味し、いです。 このまま頑張って夕食にも出せるような出来にしていきましょう」
「ありがとうございます……」
そう言ってスクナさんは残ったステーキ(激甘)を口に運んだ。
料理のスキルはまだまだ発展途上だが、スクナさんはとても面倒見がよく、そして何より優しかった。
「それじゃあ私は仕事に戻りますけど……ちゃんとお皿洗いとか片付けはしておいてくださいね? あと明日は朝早いんですから寝坊しないでくださいね?」
「分かりました」
「……というか? セリカちゃんって午後は何をしてるんですか? サーチェ様からの命令で午後は空けておくように、と言われてますから何かやってるんでしょうけど」
おっと……これは困った。
僕が午後に行っているのは不定期に数冊ほど送られてくる魔族の本を解読することなのだが……流石に馬鹿正直にそれを伝えるわけにもいかない。
何なら本なんてほとんど送られて来ないから、大半を紅茶を飲んだり、サーチェに暗殺を仕掛けたりして過ごしているくらいなのだ。
つまり……ほとんど働いていない。
かといって……適当に誤魔化すのも少し心苦しいな。
「ええと……私は図書室で本を漁ってますね」
悩んだ末の答え。
とりあえず嘘は言っていない。
「あぁ……なるほど。 確かセリカちゃんっていいとこのお嬢様なんですよね? 少しでも知識をつけようと頑張ってるんですね〜。 偉いじゃないですか!」
「あはは……それほどでは……」
「謙遜しないでいいんですよ! 私は学がないから尊敬しますよ! とりあえず頑張ってくださいね!」
スクナさんの優しさに思わず感動してしまう。
僕は魔王時代に女神にもあったことがある……というか、僕を唆した悪友というのが女神なのだが……この人は本当の女神より女神をしているのではないだろうか。
「……っと、もうこんな時間ですか。 じゃあそろそろ失礼しますね? 食器は洗っておくこと! いいですね?」
「了解しました!」
そう言い残して去っていったスクナさんを見送り、僕はいそいそと皿洗いを始めていく。
「そういえば……あいつは今何をしているのだろうか?」
あいつ、というのは言わずもがな僕の悪友の女神のことである。
数少ない女神のうちの一人でそこそこ権力を持っていたそうだが……僕と繋がっていたことがバレて天界を追放された、ということは風のうわさで聞いたことがあるが……今は何をしているのだろうか?
「……まぁあいつの事だからどこかでしぶとく生き残っていることだろう」
そう結論づけて残りの皿を一気に片付けようと意気込んだ、その時であった。
『やほやほ! ヴァイスくん元気してた?』
「ふわっ!?」
突如として、頭の中に衝撃が走り直接声が響いてきた。
懐かしい感覚……これはまさか……
『そうそう! そのまさか! 元女神のサヤちゃんです! イエイ☆』
姿が見えていなくても、思わずその脳天気な姿が浮かんできそうな自己紹介。
やはり僕の悪友、女神サヤであった。
『久しぶりだな。 生きていたのか?』
『それはこっちのセリフだよ! 久々にヴァイスくんの気配がしたと思ったら、何日も王城の中でウロウロしてるみたいなんだもん! なんで連絡してくれなかったのさ!』
対変わらずやかましいサヤに辟易しながらも、どこか懐かしさを感じていた。
『いや……それは悪かったな。 色々あって連絡する手段を失っていたのさ』
新しい身体は魔力の通りが悪く、少しずつ慣らしていかないと昔のように魔法を使うこともままならない欠陥品なのだ。 だから自分から魔法通話を行使することが不可能であったのだ。
『ん? それはどーいうことかな? 弱体化でもしたの?』
『いや……それがだな……』
僕は事の顛末をサヤへと伝える。
『キャハハハ! 何それ! ヴァイスくん間抜けすぎて面白いよ!!! あーお腹痛い! ハハハハ!』
『……』
僕が話を終えると同時に、サヤの笑い声がうるさいほどに脳内で反響した。
『そうは言うがだな……こちらも色々と大変だったんだぞ?』
『あー笑った笑った。 なるほどねぇ……大変そうだし今度そっちに遊びに行ってあげるよ! ヴァイスくんのメイド姿? も見てみたいしね! ……ププッ』
未だに笑いが収まらない様子のサヤに辟易する。
そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。
『それこそ、サヤはどうなんだ? 僕が封印されている間に天界には戻れたのか?』
『………………え? わ、私? そりゃあ……ねぇ! もちのろんですよ!』
『……おい』
つい先日誰かさんの似たような反応を見た僕は、それが嘘をついている態度であるとすぐに見抜いていた。
これからそれを追求してやろうとしていた矢先……。
『…………』
一方的に切られてしまった。
魔法通話をこちらからかける手段がない僕は、なんとも言えない表情で皿洗いを続けるのであった。
明日はお休みかもしれません




