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ゴブリンにも伝説の装備

「……あら? セリカちゃんその服で行くんですか?」

「えぇ……恥ずかしながら服を持っていないもので……」


 王城の庭にある噴水にて、合流したスクナさんは僕の格好を見るなりそう問いかけた。

 やはりローブは良くなかっただろうか?

 しかしこれ以外の服は持ち合わせていないために今日はこれで我慢してもらうしかない。


「なるほど……それなら今日、街で服を見てみましょうか」

「……え、ですが私まだお給金貰ってないので、対してお金を持っていないですよ?」


 そもそも給料のことに関して何も聞かされていない。 

 もしかして無賃労働!?

 そんなことを考えている僕に対して、スクナさんはどこか得意げな表情を浮かべていた。


「ふふっ。 ご心配なく。 今日の分は私が持ちますよ」

「えぇ!? 良いんですか?」


 願ってもない申し出に、僕は勢い良くそう返した。

 僕の剣幕に少し気圧された様子のスクナさんであったが、すぐににっこりと笑顔を浮かべる。


「大丈夫ですよ。 少しくらい先輩にもカッコつけさせてください!」


 サムズアップをしながら答えるスクナさんを頼もしく思いながら、僕はお言葉に甘えることを決断するのであった。

 我ながらいい先輩を持ったものである。


「それではお買い物へと行きましょうか!」

「はい!」


 僕はスクナさんの後に続いて、街へと繰り出した。


 ★


 ……しくじった。

 僕は一体どこから選択を間違えてしまったのだろうか?


「さぁセリカちゃん! 次はこれも着てもらいますよ!」


 ……僕の眼前ではまるで手品のように次々と服を持ってきては着せてを繰り返すスクナさんの姿があった。

 先ほどまでの落ち着いた女性然としての姿はどこへやら、まるで人形で遊ぶ少女のようにキラキラとした瞳で着せ替え人形となった僕を見つめていた。……僕は一体何を間違えたのか?


「スクナさん! まだ着るんですか!? もう結構疲れましたよぉ……」


 かれこれ数時間ほどこうして着せ替え人形として遊ばれている。

 既に僕の体力は限界に近いというのに、スクナさんはまるで疲れた様子などなく、むしろまだまだ物足りないといった様子だった。

 流石はメイドと言ったところか、服を畳んで新しいものを取り出すまでが恐ろしく早い。

 僕じゃなきゃ見逃していただろう。


「何言ってるんですかセリカちゃん! 楽しいのはこれからですよ!」

「ひぇー!!!」


 そしてようやくスクナさんの着せ替え人形遊びから解放されたのはそれからさらに数時間後のことだった。


「はぁ……はぁ……つ、疲れました……」


 体力をほとんど使いきった僕は、ふらふらと近くのベンチに腰を下ろした。

 そんな僕を、スクナさんはどこか申し訳なさそうに見つめている。


「す、すみません……つい我を忘れてしまって……」

「いえ……っ……まぁ……この服ありがとうございました」


 僕はスクナさんが用意してくれた服に目を落とす。

 黒を貴重として所々でレースをあしらった落ち着いたデザインだ。

「かわいい系も良いですけど、セリカちゃんには落ち着いた服装のほうが似合いそうですね!」というスクナさんの意見に全てを任せて選んだ一品である

 が、僕としても嫌いじゃない。

 上の服と合わせるように黒で統一したロングスカートも、スカートに対する抵抗感はあるもののそれ以外ではなんの問題もなく思える。


「ふふっ。 気に入ってもらえたなら良かったです! こちらとしても選んだ甲斐がありました!」


 にっこりと笑顔を浮かべるスクナさんの表情は、再び大人の女性らしさが戻ってきていた。

 気がつけば夕日が傾き始め、街は昼とはまた別の顔を見せていた。


「そろそろ帰りましょうか? 今日は楽しかったですよ、セリカちゃん」


 スクナさんのその問いかけに、僕は笑顔で答える。


「はい! 今日は本当にありがとうございました」


 ほとんど服屋で過ごしたものの、昔から大きく発展した街中を歩くのは非常に楽しかった。

 お礼を言った僕を見たスクナさんはふとどこか言いづらそうな表情をしながら口を開いた。


「……あのぅ……そのぉ……」

「……?」


 なにかを言い淀んている様子のスクナさんに僕が首を傾げると、彼女は意を決したような表情を浮かべて口を開く。


「……また一緒にお買い物に行きませんか? 誰かと遊びに行ったのなんて久しぶりで……」

「えぇ、もちろんですよ。 次は街中を案内してもらえると嬉しいです!」


 どこか照れたように問いかけるスクナさんに、僕はにっこりと微笑んで答える。

 そんな僕に対してスクナさんは心底嬉しそうな表情を浮かべて大きく頷いて見せた。


「……はいっ! 喜んで!!」


 ★


「ご主人様、ただいま帰りましたよー」

「んお? ようやく帰ってきやがったなセリカ。 お前が休暇のせいで今日は朝寝坊を…………っておお」


 城に帰ってきた後、明らかに僕のせいでは無いことに関していちゃもんを付けようとしてきたサーチェは、僕の格好を見て目を丸くしていた。


「へぇ……『ゴブリンにも伝説の装備』だな」

「……なんですかそれ」

「んにゃ、分からんなら別にいい」


 何やらよく分からない言葉をかけられたが、悪口ではない事を願うのみである。


「それにしても……うーん」

「……あの? 何ですか?」

「…………! おいおい、危ないからやめとけって」


 僕の身体をマジマジと見つめながら唸るサーチェ。

 暗殺するべくこっそりナイフを取り出した時も、普段より明らかに反応が遅かった。

 おや……! もしやこれは……


「ふふん。 もしかして私に見惚れて……」

「いやー実に惜しい。 もう少し胸があれば完璧だったんだが」

「「…………」」


 僕とサーチェの言葉が重なり、気まずい沈黙が流れる。


「…………普通に最低ですね、失礼します」

「いや……おい待てセリカ。 違うぞ、似合ってはいるんだからな!? ただ発育上伸び代があるってことだからな!?」


 背後からフォローにもなってないようなフォローが聞こえてきたが、聞こえないふりをして立ち去る僕であった。

 ……実に恥ずかしい勘違いは早く忘れるとしよう。

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