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料理は普通に難しい

 ストン……ズッ……ズ……ドン。 ドンドンドンドンドン!


「そんな危なっかしい手つきだと怪我しちゃう! ちゃんと猫の手にするんです! にゃー!」

「やってますよ!?」


 なんやかんやで日数は経過し、メイドになってから三日が経過した今日、僕は過去最大の難題にぶち当たっていた。

 おぞましきその難題の名前は……料理である。


「ほらそこっ! 焦げてるじゃないですかー!」

「す、すみません」

「あぁもう、貸して下さい」

「あっ……」

「にゃんにゃん♪」


 そう言って彼女はフライパンの上で肉を踊らせ、瞬く間にそれを皿の上に盛り付けていく。


「はいどうぞ。 今度は気をつけてくださいね?」

「うぅ……」

「なにがそんなに不満なんですか?」

「だって私料理なんてしたことないし……どうして料理なんかしなくちゃいけないんですかぁ!」

「いや……だって今はメイドじゃないですか」

「ぐぬぬぬ……」

「セリカちゃんがどこのお嬢だかは知りませんが、ここのルールには従ってもらいますよ?」


 真顔で返された。

 僕が魔王だと知ったら絶対そんな態度は取らないはずなのに……と思わず苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。

 残念ながら、混乱を避けるために僕の素性を明かすことは禁じられている。 元々僕が封印された氷には、とても精巧な人形が埋められていたし、自分から明かすことがない限り誰も気づかないであろう、とのことだ。


「まぁまぁいいじゃありませんか。 料理が出来ることは女性として魅力的なステータスになり得ますからねぇ〜。 少なくともこの国においては」

「この国においては? 他の国では違うのですか?」


 基本的に女性に求められる条件として挙げられるものが掃除や料理などの家事炊事である。 それは昔の世界でも変わらなかったはずなのだが……。


「そうなんですよ。 私の出身はこのマグノリアではなく、武芸の国と呼ばれるプライトローゼなんですよね。 ……って知ってます?」

「……いえ」


 プライトローゼ? 少なくとも昔には無かった国だ。


「本当に箱入り娘なんですね……。 まぁとりあえず、その国で求められるのは武芸の力でしてね。 男も女も関係なく、強いものが偉い。 家事炊事なんてものは身分の低い人の仕事だったわけですよ」

「へぇ……」


 それはまたすごい国もあったものだ。

 武芸第一で成り立つ国があるとは。


「私の家はプライトローゼの中でもかなりの名家だったのですが……どうも私には武芸の才能がなくて……。 15歳の誕生日に追放されちゃったんですよね……」

「大変でしたね……」

「まぁ、今はこうしてマグノリアで働くことができてますし、毎日楽しいですよ! マグノリアでは私の得意な料理が活かせますし!」


 暗い雰囲気を察したのか、声を張り上げたスクナさん。


「ふむ……でしたらスクナさんはさぞかし異性からモテるんですね。 ……こんなに料理がお上手なんですから」


 これは僕の心からの発言であったのだが……その言葉を発すると同時にスクナさんの顔から表情が抜け落ちた。


「そりゃあ……もちのろんです……よ! はい! 引く手あまたで……困っちゃいますよね! はい!」

「…………」

「……なんですかその表情は」

「……いえ、なんでも」


 これは迂闊だったなと心の中で反省をする。 

 スクナさんは明らかに挙動不審になっていた。


「とりあえず! 早く包丁の正しい使い方くらい覚えてください! やることは山積みなんですから!」

「えー……。 私は美味しい料理が食べられればそれでいいのに……」


 絶望的な宣告を受けながら、僕は包丁を握り直すのであった。


「だから手は猫の手だと言ってるじゃないですか!」

「……む」


 ……前途は多難である。

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