くそっ、騙された!
「……で、どうしてこんなことを?」
「あ? だから土産を買うためだって言ってるだろ?」
「はぁ……」
土産を買うために僕たちが現在店の前に並んでいる、というのは理解できる。
どうやら買わないといけない土産とやらは、一日の数量が限定の物で並ばないと手に入れるのが困難な代物らしい。
「私が聞きたいのはそっちではなく、なんでこんな小芝居を打っているのかってことです」
特に説明を受けることなく、街にやってきた途端に「お嬢様」と呼ばれたことは非常に驚いた。
明らかに周囲に聞こえるような大声で何度も「お嬢様」と呼ばれて正直かなり恥ずかしかった。
「ん? いやいや、そりゃ分かるだろ。 俺は王族だぞ? そんなのがただの土産屋に来たら驚かれるだろ?」
何を当たり前のことをと言いたげな表情でそう語るサーチェであるが……令嬢とその執事が土産屋に来ることを不自然には思わなかったのだろうか?
そもそも王族の顔だなんて誰も知らないのだから普通にしてるだけでいいのでは……。
「そうですけど……まぁいいです。 それで……あとどれくらい待てばいいんですか?」
「そうだな……今からあと6回鐘が鳴るくらいだな」
「……はい!?」
当然のごとく言ってみせるサーチェに僕は驚いた。
この国では一定の時間が経過するごとに鐘が鳴り、鐘が6回鳴る程度と言えば、王宮内を掃除できるくらいの時間である。
それ程の時間を待たねばならないとは……。
「ま、観念することだな。 一応暗殺を試みてもいいが、こんな街中で俺を刺し殺したりしたら大惨事になっちまうぜ?」
「うぐ……」
本当にやることがない。
一体どうしたらいいのだろうか……。
「……ん? というか、そもそもこれ私が来る必要ありました? ご主人様だけで買えばよかったのでは……」
「……ぎくっ!」
思い浮かんだ素朴な疑問に、サーチェは分かりやすく肩を震わせた。
……くそっ騙された。
僕は拳を握りしめてサーチェをジッと睨みつけるのであった。
★
「いやー良かった良かった! これでアイツに怒られないで済む!」
手に入れた土産を大事そうに持ちながら、サーチェは満足そうな表情を浮かべていた。
「…………」
「おいおい、いい加減機嫌直してくれよ。 ほれ、俺の分もあげるから」
「……む。 ……仕方ないですね」
僕はサーチェから菓子を受け取ってそのままかぶりついた。
薄い皮が破けると共に、中から溢れだすクリーム。
その甘さを感じていた最中、勢いよく溢れだしたクリームは僕の想像を遥かに上回り、そのまま顔にまで飛び散ってしまった。
「ぷぷぷ。 お前って何でもできそうだけど、意外にどんくさいよな」
「……心外ですね。 このしゅーくりーむとやらが食べるのが難しいだけです。 逆にご主人様は上手く食べられるのですか?」
初めて食べたしゅーくりーむと言う菓子は非常に美味であった。
しかし、異様なほどに食べるのが難しい。
僕を馬鹿にしているサーチェだって、きっと食べるのに苦労をしているはずである。
「俺? 俺はそもそも一口で全部食べ切るからそんなことにはならねぇな」
「……品がないですね」
「うるせえよ。 ……よし、準備できたぜセリカ」
何やら先程から座り込んで作業を続けていたサーチェは、ようやく立ち上がってクリームにまみれた僕の顔を見つめ、吹き出した。
「……笑わないでください。 というか、どうしてわざわざ王城まで戻ってきたのですか?」
「ん? あぁ説明してなかったな。 アイツの住処はこの近くには無いからな。 この魔法陣を使って移動するんだ」
「へぇ。 便利になったものですね」
魔法陣での移動だなんて、僕の生きていた時代では膨大な魔力を使ってようやく一人を送ることができるようなコスパの悪い魔法であったが、どうやら改良に改良を重ねたことでかなり使いやすいものになったようだ。
「……んじゃ、行くぞセリカ」
「はい!」
僕の身体の秘密を知るサーチェの師匠とはどんな人物なのだろうか?
僕は胸を躍らせながら、魔法陣に飛び乗るであった。




