早朝の強襲
「お嬢様、そちらは危険ですよ」
「……え、えぇ」
透き通るような青い空の下、一組の男女が王都の街を歩いていた。
背筋をピンと伸ばし、黒髪の少女へと手を差し伸べる金髪の青年は、どこか怪しい足取りの少女を完璧にエスコートしていた。
「……あの、ご主人様。 なんでこんな事を?」
エスコートを受ける黒髪の少女……といっても僕なのだが、はこっそりとサーチェに耳打ちをする。
「……しっ! 黙って合わせろ!」
いつもの気だるげな様子はどこへやら、しっかりと身なりを整えたサーチェは必死な様子でそう訴えた。
……まったく、どうしてこんなことになったのやら。
★
「おいセリカ。 今日は約束通り俺の師匠のところに会いに行く日だ!」
約束の当日、驚くことに普段はテコでも起きないサーチェが僕の部屋へとやってきた。
「……あの、ノックくらいしてくれませんか? 着替えしてたらどうするつもりだったんですか」
別に下着くらい見られたところでどうということはないのだが、自分が他人に性的な目で見られることは大いに抵抗感がある。
「ばーか。 俺がお前の裸とか見たところで興奮するかっての。 自意識高すぎだろ」
サーチェは心外とでも言いたげに大きな身振りで否定をしているが、こいつが僕の下着を盗んだのはつい先日のことだ。
その自信満々な面はどこから来ているのやら。
「……そうですか。 まぁいいです。 それはそうと、もしかしてもう出発するおつもりですか? まだかなり早い気がするのですが……」
普段からメイド業務の関係で早起きが板についているから今日も起きていたものの、一般人にとって今はまだかなり早朝だと言えるだろう。
少なくとも他人の家に向かうような時間でないことは間違いない。
「いや、それがよ。 俺としたことが大事なことを忘れててな」
「……大事なこと?」
真剣な面向きで告げるサーチェ。
一体どうしたのだろうか。
「……土産を買うのを忘れてた」
「んな」
あまりにくだらない内容に思わずこけそうになってしまう。
たかが土産程度で何をそんなに焦っているのやら。
「そんなことどうでもいいじゃないですか。 後で向かう途中で買いましょう?」
「だー!!! 説明してる時間も惜しい! とりあえず着替えろ! 今から出るぞ!」
「えー……」
鬼気迫るサーチェに圧倒され、面倒に感じながらもしぶしぶ着替えをしようとする僕であった。
「……あの、すぐ済ませるのでとりあえず出て行ってください」
「いや。 効率化のために俺も支度を手伝う。 ……だから、早く着替えを……」
「出てけ」
「……はい」
このサーチェはまったく本当にどうしようもない。




