指輪
14話です。
家の外には出れない。いや、この場所に
ずっといて修行しなきゃいけないと
わかったとき、体の中から何かが
抜けていくのを感じた。
悲しさとかやる気とかいろんなものが
抜けていった。ただただ心に、ぽっかりと
穴が空いてしまった。
あの後家中を調べた。
ドアノブから外に出れないなら窓なら!
と思ったが、俺が窓を開けようとすると開かない。
空いてた窓から抜け出そうとしたら
窓が勝手に閉まる。
完全に、俺が外に出れないようになっていた。
(認証付与って、かなり使い勝手よすぎないか?)
言葉自体あまり強そうな付与術じゃないのに
あまりにも便利な付与術を前に、
俺は無力化され、
現在は、テーブルの上でうなだれていた。
「あ~~~。」と小さくうめき声を
出すことしかできない。
前を見ると師匠が彫刻刀で
何かを削っている。
「師匠、何を削っているんですか?」
と質問してみた。
「待っててね〜。もう少しで出来上がるから。
出来たら教えるね〜。」と
師匠は黙々と何かを削っていく。
「できた!!」と
完成したことを嬉しそうに喜んでいる。
「2人共!これ、プレゼントだよ。」
師匠が机に何かを置いた。
木で作られた指輪だ。
余った木材で、俺がうなだれている間に
作ったのだろう。
「私の弟子になった証さ。ぜひつけて欲しい。」
師匠はにこやかに言った。
こんな美人の笑顔を壊すわけにもいかないし、
つけたくない理由もないので
指輪をつけることにした。
指輪自体は、木を指輪の形に削ったものだった。
指輪の側面には波模様が彫ってあった。
商品に出来そうなクオリティの装飾に
「すごっ!」と驚く。
アリーの指輪のには、花の花びらみたいな模様が
彫ってある。とても、可愛らしい雰囲気だ。
「先生ありがとう!!これからよろしく!」
アリーは、嬉しそうに笑った。
「うん!こちらこそよろしくね!」
師匠も笑顔だ。
こんなに平和な雰囲気なのに
帰れないことだけが悲しい。
「よし!指輪も完成したし、ご飯にしようか!
2人とも手伝ってくれるかい?」
と夜ご飯を、作る準備を始めることになった。
もちろん腹ペコなので手伝う。
「せっかくだから、外で食べよう。」
と師匠が言った。
師匠は、一旦ドアの認証付与を
外してくれた。あとでかけ直すらしい。
俺とアリーは、余った木材に
創造付与を
一瞬かけて、斧を振る方法で薪を作る。
さっき、ポーションを飲んだから
魔力が回復していた。
楽々と、薪を大量に作ることができた。
一方、師匠は近くの湖で魚を取ってくると
言っていた。
遠くには、湖の淵に立っている師匠が見える。
「水流(付与)!」
師匠が何やら付与術をかけた。
すると、巨大な水の竜巻みたいなものが
湖から現れた。
ごぉぉぁぁぁぁぁ!!!!と
水が上に回りながら上がっていく。
上を見ると、水しぶき以外に
黒い影が見える。
「重力付与!」
師匠は黒い影に付与術をかけて、
黒い影を浮かせながら、こっちに帰ってきた。
「魚を取ってきたよ!」と
大量の魚を取ってきたみたいだ。
さっきの黒い影は、全部魚だった。
「師匠さすがに食えないですよ・・」
アリーはこの魚の量を見て
顔色が明らかに悪くなっていた。
そういえばアリーは魚が苦手だ。
これは、きついだろう。
「ちなみに山菜とか、鹿肉とかは??」
顔を引きつりながら、笑顔のアリーが
恐る恐る聞く。
だが現実は無慈悲だった。
「そんなものはない!!」
と師匠の一言で、アリーの希望は一刀両断された。
とりあえず、魚が取れたので
夜ご飯を作ることになった。
師匠が魚のお腹をさばき、内蔵を取る。
バケツの中に水付与をして、
水を満杯にいれる。
魚のお腹を洗う。
その間に俺は、余った木材で串を作る。
創造付与で柔らかくした木を
細くナイフで切る。ナイフは
父が持たせてくれたリュックに入っていた。
師匠から下処理済みの魚をもらい
裁縫の並縫いのように
頭近くまで串を魚に刺す。
塩を魚全体にかけて
お腹の中にも少々、塩をかける。
アリーは、さっき作った薪に
火付与する。
地面に串を差し込んで
焼いていく。
これを数回繰り返して、夜ご飯が完成した。
「おお!うまそう!」
魚の塩焼きなんて、久々だったから
少し嬉しい。
お腹の所をかぶりついた。
魚特有の旨味と塩っ気を舌で感じる。
口の中でホロホロと身が崩れる。
癖もないし、臭みもほとんど感じない。
「うまい!!!」
ただの魚の塩焼きがなぜこんなに美味いのか
不思議だ。
師匠も、黙々と食べてる。
お腹が空いてたのだろう。
一方アリーは、塩焼きを両端に持って
食おうとして、魚から顔を離すという
行動をずっと繰り返してた。
「アリー食べないと。明日まで持たないよ?」
と食べるように促す。
だがアリーは涙目で
「魚苦手だと知ってたでしょ!!!!?」
と怒ってきた。
何をそんなに怒るのやらと呆れていたところ。
「アリーさん、魚を食べるのは付与術を
学ぶ上で重要なことなんだよ?」
と師匠が言ってきた。
「な、何でですか?」
アリーは、戸惑いながら聞く。
確かに聞いたことがない話だし
食べ物で付与術の能力が影響するって
思ってもいなかった。
「魚を食べるとね。頭の働きが良くなる成分を
摂取できるの。実際に私の所属している騎士団
で研究して、肉を1ヵ月食べた騎士団が、
付与術を使って内容を記録し、その後に魚を1ヶ月食べて、付与術を記録した結果、肉だけを食べてる時より、かなり付与術の性能に、差が出てるの。
だから食べなさい。」
と理論的根拠に基づいた答えだった。
そういえば前の世界もそんな感じだった。
魚を食べると頭が良くなるとかいう歌もあったし。
付与術は想像力が武器になると言っていたし
頭の働きを良くしたほうがいいのだろう。
ここまで言われたアリーに、逃げ場はなく、
目をつぶり、魚にかぶりついた。
拒否反応だろうか?
上を向いて、苦しそうに食べてる。
だが苦しそうな顔はどんどん無くなり。
魚を夢中で食いだし始めた。
「えっ!!!美味しい!!!
魚を美味しいと思うの、初めて!!」と
目をキラキラさせて、魚を食べるアリー。
どういうことだろうか?
アリーは魚が苦手なのに。
「師匠!何か付与術かけたんですか!?」
と質問するアリー。
だが、師匠は首を横に振った。
「多分、君たちは7歳だろ?成長期だから
成長して、味覚が変わったのかもね。」
だそうだ。
「そうなんですかね!?
こんな美味しいなら何本でも食べれますよ!」
とアリーは、むしゃむしゃと食べる。
付与術が好きなアリーは
付与術の性能を良くする魚が好きになった。
将来がすごいことになりそうで
少しだけ背筋が震えた。
背筋が震えたせいか
用を足したくなった。
「師匠。用を足しに行っても?」
と言いながら森の方角に指を差す。
「いってらっしゃい。もう夜遅いから
遠くにいかないようにね。」
俺は森の中に走っていった。
女性2人から見えないくらい離れて
木の根本に放尿する。
(ジョジョジョジョジョジョ)と
排泄していく。
この瞬間て、凄く気持いい。
すっきりする。
全部、出しきって2人のところに
戻ろうしたとき、邪な考えを思いついた。
「このまま、家に帰れるくね???」
森の中を通って、バレないように帰れる。
そう思いついた俺は、2人がいる方向と
真反対に走った。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、よっしゃ!帰れる!!!!」
俺は、歓喜の気持ちでいっぱいだった。
(あんなきつい思いをせずに
また、のんびりできるぞ!
家に帰ったら親に叱られるかも
しれないが、それは後で考える!
今は、家に帰るために走る!)
普段の無気力な俺も、このときばかりは
かなりはしゃいだ。
疲れなんて、なかったかのように走る。
(師匠の家から100mくらい離れただろうか?
よっしゃ!)
「ん?なんか指が痛いぞ??あれ?
なんか・・・指・・・赤くなってる・・・・
痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
急に指が痛みだした。なんで!?
この指輪のせいか!!?
指輪をしている指がめっちゃ痛い!!
急な痛みに戸惑う。
足が動かない。
なんか、遠ざかったらまずい気がする!
「やっぱり逃げたね〜。」
上から声がした。
「し、師匠。」
上から重力付与で浮いている師匠がいた。
「君が用を足しに行くときに、もしやと思って
上から君の姿を見てたんだよ。」
と尾行してたことを話す。
「え??もしかして出してるときも?」
「うん。ばっちり。」
と親指でグッドポーズをしてきた。
「ちなみにこれ以上離れない方がいいよ〜。
指が使い物にならなくなるかも。」
と恐ろしいことを言い出す。
「その指輪にだけ認証付与をかけたんだよ。
あの家から100m離れたら、指をかなり強く
締め付けるように認証せよって。
離れたら離れるだけ、強くなるから。」
恐ろしいプレゼントだ。
前の世界であった。西◯紀みたいだ。
「ちなみに、5年間外れないように認証せよって
認証付与してるから、指輪も外れないよ。」
と更に絶望に落とされる。
「ううっ・・と」
俺は泣く泣く、師匠の家に帰るしかなかった。
読んでくださってありがとうございます。