079 人間と日本語で会話した
……いや、待てよ?
こいつ何で俺達のことが見えてるんだ?
俺達はインビジブルブレスレットで透明化しているのに。
「魔物のくせに私のおやつを食べた罪は重いわ。覚悟しなさい!」
くそ、こいつ攻撃しようとしているぞ。
ポチとシュルはもう戦闘態勢に入ってるし。
このままじゃまずい……なんとかしないと。
「ま、待ってくれ! 俺達はポテチに目が眩んだだけなんだ。許してくれ!」
俺の言葉を聞いた女は目を丸くしてる。
流石に無理な話だったか?
人の食べ物を勝手に食べておいて許してくれは都合良すぎるかも……。
「あなた……日本語が話せるの?」
え?
なんで急に日本語が出てくるんだ……あ、そうか。
咄嗟のことだったから俺は【念話】じゃなくて口で話した。
つまり俺は今さっき日本語を話したってことだ。
……あれれ、おかしいぞ?
どうして目の前の女は日本語が分かるんだ?
「会えた……ついに会えたわ! 私の運命の人に!」
えぇ……(困惑)
なんか態度が一変したんですけど。
「とりあえずハグしましょう! さあカモン!」
そう言うと女は俺に抱き付こうとする。
そんな彼女を俺は華麗に避けた。
「な、なんで避けるのよ!」
「え、だって初対面の人と抱き合うとか嫌だし……」
「どうしてよ! 私みたいな美少女にハグされたら嬉しいはずでしょ!」
自分で美人とか言っちゃうのか。
いやまあ、確かに可愛いけどさ。
自称美人はすごく残念な感じがするぞ。
「お前は誰だ? どうしてここにいるの?」
「私がここにいるのは私の手紙がここにあるからよ」
「手紙……?」
手紙ってあの日本語が書かれた紙のことか?
え、じゃあこいつってあの手紙を書いた出会い厨かよ。
「あなたは私の手紙を読んで持ち帰ったんでしょ?」
「……まあ、そうだな」
持ち帰ろうって言ったのはポチだけどな。
俺は捨ててもよかったんだぞ。
「とにかくこれで私の苦労が報われたわ。本当に長かった……」
そんなに長い間、手紙をばら撒いてきたのか。
暇人かよ。
「苦労が報われたって言うけど、俺はただの吸血鬼だぞ?」
「でも前世は日本人なんでしょ? 種族の違いなんて些細なことだわ!」
「そ、そう……」
興奮の冷めない彼女。
こいつどんだけ会話に飢えてるんだよ。
まさか現地の言葉が話せないとか?
「もしかしてこの世界の言葉が分からないの?」
「そんなことないけど? 私ってこの世界の人間の言葉話せるし」
「じゃあ別に嬉しがることないじゃん」
「分かってないわね。異世界で日本人同士が会うなんてロマンあるじゃない」
ロマンねぇ……。
そういえばあの紙にもロマンって書いてあったっけ。
こいつロマンって言葉が好きなんだな。
「本当に奇跡だわ。こうして私達が巡り会えたのは運命なのよ」
「ほんとか? ほんとに奇跡か?」
「何よ。疑り深いのね」
「奇跡でこの場所が分かるかよ。どうしてここが分かったんだ?」
「そんなの簡単よ。あの手紙にはマーキング機能が付いてるんだから」
「マーキング機能? それでずっと俺を追跡してたのか?」
「そういうこと。だからここを見つけてからずっと待ってたのよ」
まさか俺がリザードマンの集落で寝込んでた間ずっと待ってたの?
なんて執念深い奴なんだ。
っていうかあの紙に追跡機能なんてあったのか。
普通の紙にしか見えなかったけどな。
「アイ、その人間と何を話してるんだ?」
あ、そういえばポチとシュルは日本語が分からないんだったな。
傍から見れば俺が意味不明な言葉を喋ってるようにしか見えないよね。
ちゃんと説明しないといけないようだな。
「アイ殿はその人間と知り合いなのか?」
いや知り合いなんかじゃないから。
誤解なんだシュルよ。
「初対面だ。でも彼女は俺の知ってる言語を話してるんだ」
「アイの知ってる言葉? 前に言っていた日本語というやつか?」
「そうそれそれ……っていうかよく覚えてるな」
「そうか。だから俺とシュルには分からない言葉だったのか」
ポチはそれなりに納得してくれたみたいだ。
シュルもポチと似たような反応だな。
こんな突拍子のない話を信じてくれるなんて器が広いね。
「あの人間は何と言っているのだ? 拙者達にも教えてほしい」
「簡単に言うと俺に会えて嬉しいんだとさ」
「ほう、初対面なのにアイ殿と会えて嬉しいとは……」
「誤解するなよ? 変な意味じゃないからね?」
「ふっ……了解した」
くそ、なんかまだ誤解されてる気がするぞ。
あとでしっかり誤解を解いておかないとな。
「じゃあようやく出会えたことだし、これからよろしくね」
「え、あ、うん。よろしく」
「私はこの部屋に住むからあなた達はあっちで暮らして」
「は?」
いきなり何を言ってるんだこいつは。
ここは俺の住処なんですけど。
っていうか彼女の「よろしく」という言葉は一緒に住むって意味かよ。
これはちょっと返事を訂正する必要があるな。
ポチとシュルの意見も聞いてないのに勝手に住むなんて許さないからな。
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