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056 ポチが余計なことをしてくれました

「皆の者、聞くがよい。我はアイ様の下僕、ポチである」


 いきなりポチが芝居を始めた。

 なんでポチが俺の下僕になってるんだよ。

 意味が分からないよ。


「アイ様はただの吸血鬼ではない。奇跡の神人である」


 奇跡ねぇ……。

 まあ、異世界転生したことが奇跡って言えるかもしれないけどさ。

 なんかそんな呼ばれ方されるとむずむずするんだよなぁ……。


「アイ様は皆の無礼な態度に大変お怒りだ」


 いや、別に怒ってないけど?

 誤解を招くような言い方は止めろって。

 ちょっと調子に乗りすぎでしょこの食いしん坊ウルフめ。


「どうすればアイさんは機嫌を直してくれるの?」


「リーシャ! さんじゃなくて様で呼びなさい!」


 敬称なんていらないから。

 普通に呼び捨てでいいから。

 自分より強い奴に低い腰でいられるとヒヤヒヤするわ。


「アイ様は皆の誠意ある態度を期待しておられる。お前達は何ができる?」


「……申し訳ありませんが、少しだけ相談させてください」


「うむ、構わんぞ」


 3人は相談を始めた。

 しかし、かなり悩んでいるみたいだ。

 なんだか悪い気がしてきたぞ……。


 というかポチはいつまで調子に乗ってるんだよ。

 そろそろ口を挟まないとダメか。


「ポチ、悪ふざけもいい加減にしろよ」


「向こうが勝手に勘違いしているだけだ」


「だからってお礼をふっかけるとかどうかと思うぞ」


「あの女の呪いを解いたのは間違いない。俺は正当な報酬を要求しただけだ」


「うーん、確かにそうだけど……」


 ポチは冗談で言ったんだろうが、リーシャ達にはそんな風に聞こえてない。

 もうちょっと気を楽にさせてあげないと可哀想だ。

 となると、分かりやすいお願いをした方がいいよね。


「……あの、できればリザードマンの所に行けたら嬉しいんですけど」


 俺の言葉を聞いた3人は驚きの表情をした。


 俺、何か変なこと言った?

 ちょっと無茶なことをお願いしちゃったか?

 というかお願いすること自体が失敗だった可能性も……。


「……そんな簡単なことでよろしいのでしょうか?」


 マチルダがそう言った。


 どうやらリザードマンのところまで送るのは簡単なことらしい。

 なら、それでお願いしまーす。


「それで充分です」


「……分かりました。ではリーシャに転移魔法を使わせます。リーシャ、お願い」


「分かった! それじゃみんなは少し離れてて」


 リーシャの言葉に従い、俺達は少し離れる。


「大地を繋ぐ魔導の門よ現れよ! トラベルゲート!」


 リーシャが叫ぶと目の前に巨大な門が現れた。


「この門を潜れば、アイ様の望む場所へ行くことができます」


「ありがとうございます。じゃあ俺達はもう行くので……」


「……あの、本当にこれだけでよろしいのでしょうか?」


「充分ですよ」


「ですが……」


 なんかマチルダはまだお礼し足りないって感じだな。

 俺達をリザードマンの所まで送ってくれるだけで充分なのに。


 うーん……あ、そうだ。


「1つお願いがあるんですけど……」


「え、何でしょうか?」


「川の巫女を探して川に吹く死の風を鎮めてほしいんです」


「……なるほど。それならすぐにできます。リーシャ!」


「うん、分かったよ! じゃあ私は川の鎮静化に向かうね!」


 リーシャは川のある方へ向かって走っていった。


 川の鎮静化をするって言ってたな。

 もしかしてリーシャが川の巫女だったりするの?

 そういえば川の巫女はアラール山脈に住んでるって人間が言ってたな。


「では、私とタロスもリーシャの後を追いますので、これで失礼します」


「あ、はい。どうぞどうぞ」


「アイ様の旅の無事を祈っております」


 マチルダは俺に深く頭を下げてからタロスと一緒に走り去っていった。


「……さて、俺達も行くか」


「そうだな。いつまでもトラベルゲートは開いているわけじゃないからな」


 俺達はまず外していたインビジブルブレスレットを装着する。

 それから俺はクロサクラに乗った。


 そして俺達はトラベルゲートに入っていった。

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