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8話 死神再び

 真っ黒いローブは洞窟内の闇に溶け込んでいた。

 それが動いたので俺は目の前に死神・モルスがいるのだと認識した。


「くそ!」


 右手は肩に担いだブーゲンビリアの遺体を押さえているし、左手には杖を持っているので剣が抜けない。

 俺は目の前のモルスがゆっくりと剣を振り上げたのを見た。その剣は4本。背後の空間からの明かりに反射し煌めいた。

 洞窟の暗闇には追い払ったはずの4体のモルスがいたのだ。

 背後にはしつこい弓使いのミモザ。


『引き返せ!』


「了解!」


 ブーゲンビリアの指示に従い俺は反転して元来た道を引き返す。


「え?」


 突然の後退に、俺を追って来たミモザは驚いて立ち止まり身構えた。そうしている間もしっかりと鏃は俺に向けられている。


「君も来い、ミモザちゃん。モルスに殺されるぞ」


「モルス?」


 キョトンとした顔をするミモザ。どうやらモルスが見えないようだ。状況を把握出来ていない。

 しかし、モルスは今も剣を振りかぶり俺を斬らんとしている。煌めいた4本の剣は俺に襲い来る。


「くっ……!」


 咄嗟に左手の杖で身体を庇う。


『ルークス=デーフェンシオー』


 ブーゲンビリアの詠唱が頭の中に聴こえた瞬間、モルスの4本の剣は俺の身体に触れずに眼前で弾かれた。まるで俺の身体の周囲にバリアが張られているようだ。さっきからミモザの矢を防いでいた防御魔法はこれのようだ。


『今だ、広い空間へ戻れ! モルスから距離を取ったら杖を掲げろ。今度こそモルス共を滅殺してやる』


『了解!』


 再びミモザの方を見ると、何故かミモザは青ざめた顔をして震えていた。


「な、何この黒いの……」


「見えるのか? なら話が早い。奥へ戻れ!」


 ミモザは頷くとすぐに踵を返して奥へと走って行った。理由は分からないが、ミモザにもモルスが見えるようになったようだ。


 俺が逃げるのを見てモルス共も追いかけて来る。何の音も立てず、ただ浮遊している黒いローブ共は執拗に俺を狙う。


『もっと早く走れないのか、ノロマ!』


『うるさいですね! 貴女の遺体を捨てれば速く走れますとも!』


 人の気も知らないで……いや、知ってるのか。ともかく、走るのは俺自身なのだから黙ってモルスを何とかして欲しいものだ──と、俺が嘆いたその時、何故かモルスの1体が、俺を追い越し先に走って行ったミモザの前へと回り込んだ。


「ひぃっ!? 化け物め!」


 ミモザにはやはり完全にモルスが見えているようだ。目の前に現れた剣を持った黒いローブへすかさず矢を放った。

 だが、その矢は黒いローブをすり抜け洞窟の広間の壁に当たってカランと地面に落ちた。


『無駄だ。モルスは人間やドワーフの武器では倒せない。だが、モルスは人間も殺せる』


『え!? そういう事は早く言ってください!』


 今にもミモザに斬り掛かろうとするモルス。俺はブーゲンビリアの遺体を担いだままミモザのもとへと走った。


「うおおおおぉ! ルークス=デーフェンシオー!」


『おい! お前、勝手に……!?』


 ミモザの華奢な身体を杖を持った左手で巻取りながら俺はブーゲンビリアの防御魔法を叫ぶ。すると、モルスの振り下ろした剣は光に阻まれ、邪悪な剣をその手から弾き飛ばした。


『馬鹿な! 私が詠唱しなくても発動しただと!?』


『いいから、ブーゲンビリア様、今です! めっちゃ強い魔法教えてください! 一緒に詠唱します!』


 剣を弾かれたモルスは動揺しながらも、落とした剣を拾い上げる。

 他の3体も、剣を構えて俺を殺しに掛かる。俺は杖を天に掲げ、そして、ブーゲンビリアの詠唱に合わせて声を出す。


「『ルークス=フルクトゥス=アムレートゥム!!』」


 その瞬間、俺の持つ杖の先端の石が激しく光り、広間いっぱいに光の波動を放った。あまりの眩しさに俺もミモザも目を閉じ、光から顔を逸らした。


「……!?」


 モルス共は光に呑まれると苦しそうに悶え始めた。やがて、声も発さないままに黒いローブの死神達は黒煙となって消滅した。


 光が消えると、また辺りはもとの静かな自然光だけが差し込む広間に戻った。


「はぁ……」


 脚の力が抜けた俺は、崩れ落ちそうになる身体を左手の杖で何とか支えた。そして一旦ブーゲンビリアの遺体を地面に下ろした。

 すると、背後で「ふぁ……」と、気の抜けた声が聞こえた。


「ミモザちゃん、大丈夫?」


 ブーゲンビリアの遺体の前で片膝を突いた俺は、ヘナヘナにくたびれているミモザに声を掛けた。


「大丈夫です……まさか、あんなクリーチャーがいるとは……」


「俺もさっきのは初めて見た」


「でも、メルさん、貴方初めて見たというわりには何故クリーチャーの名前を知っていたのですか? 確か、“モルス”て」


 あの混乱した状況でも、俺の発言を覚えているとは中々の子だ。


「それは、だな……」


「あと、何故貴方を殺そうとした私を助けてくれたのですか? それと、その女性の遺体の事。ただのレイプ殺人鬼じゃなさそうですね」


 荒い呼吸を繰り返しながらもミモザは冷静に状況の確認に務めている。いやぁ、俺なんかより遥かに有能そうだ。


「分かった。全部説明するから聴いてくれ」


 先程から大人しいブーゲンビリアに、ミモザへの説明の許可を取ると、俺は今日起きた出来事を順繰りに説明した。


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