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6話 光の魔法

 俺は小さな岩の陰に隠れながら、その恐ろしい光景を目の当たりにしていた。

 広間いっぱいに群がるツタの生えたオーク、“ヘデラ”。

 奇妙で不気味な唸り声が洞窟内に響いている。

 俺が所属していた傭兵部隊全員で突っ込んでも勝ち目がないのは一目瞭然。100体ものヘデラを殲滅するには同数以上の傭兵が必要だろう。

 それを、俺は今からたった1人で殲滅しようとしている。傭兵部隊の中で最弱であろうこの俺がだ。

 逃げるなら、今だ。まだ奴らには見付かっていない。


『逃げようってか? メル。ま、無理もないか、お前にはまだ早過ぎる量だよな。でも、もし逃げずに私の身体を取り戻してくれたなら、お前の願いを1つ聞いてやってもいいぞ。もちろん、私に出来る範囲でだがな』


『願いって……?』


 俺は頭の中で質問する。


『願いは願いだ。お前が今脳裏に過ぎらせた“結婚相手を斡旋して欲しい”とか“童貞を捨てたい”とか“ブーゲンビリア様の乳を揉みたい”とか──』


『ま、待ってください、それ以上言わなくていいです!』


『“ヘデラ共を駆逐して、俺を追放した傭兵部隊を見返してやりたい”とかな』


『あ……』


 その願いは確かに叶えたい。元々俺は、人々を襲う害悪な化け物ヘデラをこの世から消す為に傭兵になった。オークも邪悪で危険だが、奴らはまだ言葉が通じるし取引も出来る。お互いの住む世界に干渉しなければ害はない。ここ数百年、オーク達との戦争は起こっていない。

 だがヘデラは違う。奴らは人間やオークさえも襲い、寄生し、その肉を喰う。ヘデラの上位種、イド・ヘデラに至っては、人間の女に種子を植え付け孕ませる。

 言葉の通じぬまさに完全なる害悪。


 だから俺はヘデラ共をこの世界から消し去る為に傭兵になったのだ。

 ただその願いは、俺の弱さのせいで遠のいた。

 しかし、その遠のいた願いが、ブーゲンビリアに叶えてもらえるのなら、勇気を出す価値は十分にある。


『分かりました。ブーゲンビリア様。俺は覚悟を決めました。貴女のお身体を回収します』


『良いぞメル。ヘデラ狩りの第一歩だな』


『まずはどうしたらいいでしょうか?』


『杖がないとどれ程効くか分からんが、またその剣を杖代わりにする。私が呪文を唱えるからお前は剣を振り上げていろ』


『了解です!』


『剣先から光属性の攻撃魔法を出す。狙うのは中央の群集。中央が魔法で崩れたら、お前は走ってまず杖を取り返せ。そしたら今度は杖を掲げろ。それで私達の勝ちだ』


『よし! やりましょう! ブーゲンビリア様!』


 覚悟を決めた俺は勢い良く岩陰から剣を振り上げた。


『煌々たる光の使徒よ。邪悪を滅する光をこの剣先に集約し、裁きの矢の如く放ち敵を居殺せ。“ルークス=フルゴル=サギッタテルム”』


 ブーゲンビリアの魔法詠唱。同時に俺の剣先が突然眩い光を放ち、矢印のような形の光が連続でヘデラ共の群れの中央へと刺さっていく。


「グロロロ……!?」


 いっそう大きくなる唸り声は叫び声へと代わり、光の矢印に射抜かれたヘデラは次々とその場に倒れていった。


『万全なら5千発は打ち込める。ほら今だ! 剣を敵に向けながら走れ!』


 ブーゲンビリアの指示に従い、俺は光の矢印を放ち続ける剣を敵に向けながら走り出した。

 その光量のお陰で、光の矢印が当たっていないヘデラ共も動けず狼狽えている。


「グギギギギギギ……」


「邪魔だーー!!」


 目が眩んでウネウネ動いているだけのヘデラ共の身体を光の矢印を放ち続ける剣で叩き切る。

 どす黒い血が吹き出て俺に掛かる。だが、俺はそんなもの気にしない。だって信じられないくらいにチートの魔法の剣を振り回しているのだから。

 まるで負ける気がしないのだ。


「こりゃ爽快だ! 光がバリアになってるみたいでヘデラ共が俺に近寄ってこない!」


 初めは恐怖しかなかったが、今や恐怖はほとんど消え失せた。邪魔な棒立ちのヘデラ共を蹴り飛ばし、斬り捨て、遠くのヘデラ共には光の矢印を見舞う。

 これが大魔法使いブーゲンビリアの魔力か!


 ──と、調子に乗っていたその時、突然剣の光が消えた。光の矢印も出なくなった。


「え!? た、弾切れ? まだ5千発打ってないだろ??」


『チッ! やはりこの身体の状態じゃ詠唱してもこの程度か』


「そんな……こんな敵の真ん中で」


『お前が一緒に詠唱しないから悪いんだぞ、メル。私だけの詠唱だと無詠唱と変わらん!ほら、ぼさっとするな! 来るぞ!』


「それ先に言ってくださいよー!」


 とは言いつつも、ブーゲンビリアも俺の身体に入ってまだ間もない。全てを完璧に把握出来ているはずもないか。


「グギギギギギギ!」


 怒り狂ったヘデラ共が一斉に押し寄せる。

 俺はとにかく剣を振りながらヘデラを薙ぎ倒し、ブーゲンビリアの杖を探した。


「あれか!」


 一瞬視界に入った見るからに魔法使いの杖。

 ヘデラのツタだらけの腕をしゃがんで躱し、その両脚を叩き斬る。

 ズシンと身体が地面に倒れ藻掻く……だが、その身体を踏んで次のヘデラが襲い来る。


「ブーゲンビリア様! 次の魔法! 何でもいいから早く!! 俺もう死にます……!」



『泣き言を言うな! “ルークス=フラルゴ!!”』


 俺の剣から、一瞬光の玉が爆発したような衝撃か走った。

 瞬間、周りに蠢いていた10体くらいのヘデラは弾けて吹っ飛んだ。俺の周りには今誰もいない。

 ──今だ!

 迷うことなく視界に入っていた杖を、地面を転がりながら左手で回収しすかさず天に掲げる。


「ブーゲンビリア様! お願いします!」


『ルークス=フルクトゥス=アムレートゥム』


 杖の先端の白い石のようなものがブーゲンビリアの声と共に光り輝き周囲に拡散。光の波動となり洞窟の空間を埋めつくした。俺はあまりの眩しさに目を瞑り腰を抜かす。


「グギギギギギ……!!」


 ヘデラ共の断末魔が響く。

 俺は目を瞑ったまま杖を掲げ続けるが、光の波動の衝撃は風圧をも発生させているようで気を抜けば吹き飛ばされそうだ。


 やがて光と風は収まった。

 ヘデラ共の声はなくなり気配も消えた。

 俺は剣を背中に戻した。


「やった……んですか?」


 俺はゆっくり目を開きながら立ち上がる。


『ああ。終わった。ご苦労だったな、メル』


 辺りを見回すと、ゴツゴツとした岩ばかりの地面にはヘデラ共が何十体も倒れている。

 オークに寄生していた邪悪なツタは水分を失ったかのようにシワシワに枯れ果て、完全に絶命しているのが分かる。


「終わったのか……めちゃくちゃ凄い魔法でしたね、ブーゲンビリア様」


『当たり前だ。私は大魔法使いの1人だぞ。それより、そこだ。そのヘデラ共の死体を退けろ』


 俺は言われるがままに、何体もの干からびたヘデラの骸を杖で退かしながらその下に埋もれているものを掘り当てた。


「うおっ! こ、これは……」


 そこに埋もれていたものは紛れもない、ブーゲンビリアの身体だった。


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