其の陸
帰宅すると、まだ妻は起きていて私たちを出迎えてくれた。それどころかテーブルの上には酒と肴がある。私たちへの労いだろう。こんな時、私は本当に良妻を持ったと思う。私には出来過ぎの妻だ。流石は彼女の生まれ変わりと言ったところか。私たちは有難く着座し、酒を注ぎ合って、肴として用意された鮭とばと、帆立に酢味噌をつけたものを食べた。鷹雪君も、今では合法的に呑める年齢だ。涼しい顔でくいくいやっている。意外に酒豪なのかもしれない。まあ、土方君とかには負けるだろうけど。
「あの幽霊たちはいつ頃の人たちなんだい?」
「応仁の乱の頃です。このあたりでもあの時代は荒れていた」
私が疑問に思っていたことを尋ねると、鷹雪君がきちんと答えてくれた。そうなると、土方君たちよりだいぶ、先輩の幽霊ということになる。
「お父さん……?」
「まあ、蒼、起きちゃったの?」
私たちが出発する頃にはとうに眠りの国に旅立っていた蒼が、目を擦りながらパジャマ姿で起きて来た。
「ん~……。ん。……ご亭主。お疲れ様でした」
蒼がまるで沖田君であるかのように言った時、私たちは咄嗟に反応出来ず固まった。
「蒼……?」
しかし蒼は尚も言うのだ。
「良い名をつけてくださり、ありがとうございます」
よくよく見れば、蒼に重なるように、在りし日の沖田君の姿が透けて見える。
「生まれ変わったんじゃないのか……?」
「いえ、これは蒼君の中に内包された沖田総司。転生は確かに果たされています」
またも鷹雪君が律儀に答えてくれる。
最も順応が早かったのは土方君だ。流石は鬼の副長。
「おい、総司。起きたんなら膝に乗れ」
そう言って、自分の膝をポンポンと叩く。蒼は些かむくれた表情になった。
「嫌ですよ、土方さん。そうやって僕をいつまでも子ども扱いして」
「実際、今は子供じゃねえか」
「何とか言ってください、ご亭主」
「うん。座るなら私の膝だよね、沖田君」
「…………」
そういう問題ではない、という表情を半透明の沖田君と蒼が同じようにする。だが私は、この不意の再会に、涙ぐまんばかりに喜んでいた。沖田君だ。また逢えた。蒼がいる限り、これからも沖田君とは逢うことが出来るのだ……。