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其の伍

 ある月の眩しい晩のこと。

 蒼が眠るのを待って私と鷹雪君、そして土方君と斎藤君は夜道を並んで歩いていた。鷹雪君は白を基調とした服装に、(しゃく)(じょう)を持っている。如何にも今から怨霊調伏しに行くに相応しい得物である。土方君も斎藤君も腰に大小を差しているし、私は一応、竹刀を携えている。鷹雪君はああ言ったが、念の為ということもある。加州清光ばかりを当てにして、それが出現しなかった時には笑えない。

 (くだん)の竹林は隣町の住宅街にぽつんとあり、私たちはそこまでの道のりを密やかに、言葉少なく進んでいた。

 否応なしに思い出す記憶がある。

 もう遠い過去のことだ。しかし私はあの時、今と同じように忍びやかに人を殺した。

 慚愧(ざんき)の念は、そうそう消えるものではなかった。

 そうこうする内に竹林へとついた。成程、歩み入る前からでも判る淀んだ空気。怨念、無念、残念。それらが死した時の彼らを形どり、(うごめ)いている。土方君が和泉守兼定を抜刀し、斎藤君も刀を抜く。

 ……待って。加州清光、出てくる気配ないんだけど。

 言っている暇はなかった。私は土方君たちと共に怨霊の群れに突進した。


「オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ」


 鷹雪君が私にはよく解らない真言を唱え、錫杖を振るう。土方君、斎藤君も流石、鮮やかな剣捌きだ。それに対して私はしのいでいるものの、竹刀ではいまいち、相手へのダメージが少ない。話が違うよ、鷹雪君。

 その時、ぬかるんでいた地面で私は足を滑らせた。直視するもおぞましい、鎧甲冑姿の怨霊が嬉々として襲い掛かって来る。目を瞑れば死ぬ。私は目を見開いたまま、本来であれば何もない筈の腰に手を遣った。しっくり収まる柄の感触。いつの間にか私は、加州清光を佩いていた。抜刀すればそれは眩いばかりに輝いて、怨霊を薙ぎ払った。足でぐんと地を踏みしめ、体勢を立て直す。お前たちも口惜しかったのだろう。憤怒の情が極まったのだろう。けれどもう、休んでも良い頃だ。私は、途中から寧ろ憐憫の情で怨霊たちを斬っていた。

そうして小一時間程過ぎて、竹林は清らかな空気を取り戻した。鷹雪君が呪符を手に何事が唱えている。


「終わった」


 ぽつりと鷹雪君が呟く。

 彼もまた、怨霊たちに思うところがあったのだろうか。とにかく皆(とりわけ私)、消耗していた。誰からともなく照る月を見上げ、注ぐ光に身を委ねた。


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