其の肆
数日後、青紫に染まる夕景の美しい頃に土方君がやって来た。私は稽古帰りの蒼の手を引いて、縁側でチョコレートパイを頬張る彼に対面した。何となく今日は彼が来る気がしたので、蒼をいつもより早く道場に迎えに行ったのだ。仕事も折よく早く切り上げられた。土方君はしょっちゅう来る訳ではないので、蒼は大喜びである。そしてしょっちゅう来る訳ではない土方君が来たということは、斎藤君あたりから話があったのだろう。チョコついてるよ。
「話は斎藤から聴いた。陰陽師の小僧が厄介ごとを持ち込んだらしいな」
ほらね。口の端についたチョコレートをぐい、と拭く。あ、気づいてたのか。少しつまらない。
「うん。君はその道の先輩らしいじゃないか。鷹雪君を手助けしてやってはくれないか」
「あんたはどうせその積りでいるんだろう」
「うん」
私で力になれるものならなってやりたい。加州清光が今、私の中に眠るとしたら尚更。
私も土方君の横に並んで座り、チョコレートパイを頬張る。甘い、美味い。妻が持ってきてくれたコーヒーを飲むとほろ苦さと見事にマッチする。ちなみに蒼はおあずけである。夕飯が入らなくなるからね。多少、じっとりした視線を背後に感じないでもないが、無視して土方君との話を続ける。
土方君が腰の刀、和泉守兼定の柄に手を置いて嘆息する。色男のそれは大変、様になる。
「あんたの頼みなら」
やった!
「但し、俺には俺の流儀がある。陰陽師の小僧がそれを邪魔するようなら抜けるぜ」
やくざみたいなこと言うなあ。
「解った。鷹雪君には私から伝えておくよ」
ふ、と色男の微笑。私には一銭の価値もない女性にとっては値千金の。
「昔も今も、苦労性だな。あんたは」
「うーん。昔のほうがきりきりしてたよ」
「それもそうだな」
肯定されると何とも。
ともあれ、これで鬼退治ならぬ怨霊退治の道筋はついた。