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いとをかし・ワールド ~ 男もすなる異世界転生といふものを女もしてみんとす ~  作者: K
【1冊目】男もすなる異世界転生といふものを女もしてみんとす
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シンク・オブ・ミー

出発の日の早朝。

皆が進軍の準備で忙しそうだったので、

ユメコは邪魔にならない様に予言者の谷で過ごしていた。


何か手伝おうかと思ったのだが、

エビルを倒す為の切り札という事もあり、

安全な場所にいてくれるのが一番だと言われてしまったのだ。


皆に申し訳ないと思いながらも、

ヒジリさんと一緒にお茶をしている時間は穏やかで、

ユメコはこれまでの事が全て夢だったかの様な錯覚に陥った。


「お茶のお代わりはいかがです?」


「いえ、もうお腹いっぱいです!

 いつも美味しいお茶とお菓子をありがとうございます」


「どういたしまして。

 食べてくれる方がいると、作り甲斐がありますよ」


そう言って微笑みながら茶器を片付けるヒジリさんを、

ユメコは懐かしげな瞳で見つめた。


「……ヒミコがいなくなった後は、

 ずっと1人だったんですか?」


その言葉に、ヒジリさんの瞳が少しだけ動揺で陰った。


「すみません、立ち入った事を聞いてしまって」


「いえ、いいんですよ。

 あの方の記憶を、受け継いだのですね……」


「全てというわけではないですけど、

 見てしまいました。ごめんなさい……」


ヒミコはこの場所から世界を築き始めた。


けれど世界が膨大になっていくと、

他の地でも予言者や巫女を表現せねばならず、

彼女はここから旅立つ事となる。

この場所に、ヒジリさんを残して……


彼は、ヒミコがはじめて表現した予言者だった。


「ヒジリさんは、ヒミコの事を恨んでいないんですか?」


「どうしてそう思うんです?」


「いくら世界の為とはいえ、

 こんな場所に1人で置いていかれるなんて……」


本があれば1人でも平気だと思っていた頃のユメコとは、

少しだけ考え方が変わっていた。

きっとヒミコも、当時はそう思っていたのだろう。

まだ本しか知らなかった頃の私たちは、その寂しさを知らなかった。


「私はあの方を、とても愛おしく思っていますよ。

 この先何が起ころうと、それだけは決して変わらない。

 永遠に終わる事のない孤独を、

 あの方との想い出だけが埋めてくれる……」


何度も、何度も。

擦り切れるまで思い返す日々。

それだけで胸が暖かくなる様な時間……


ユメコの脳裏に、

ヒジリさんがヒミコの元へと駆け寄る姿が浮かび上がった。

その手には、一輪の花が握られている。

いつかの夢で見たエビルの様に、

ヒジリさんはヒミコの髪に花を添えた。


何故ヒミコは気付かなかったのだろう。

自分の表現に、こんなにも愛されていた事を。

1人ではなかった事を。

気付いていれば、

きっと100年の孤独も紛れただろうに……


表現を務めとしていた彼女にとって、

ヒジリさんは作品のひとつに過ぎなかったのだろうか?


そう考えた瞬間、ユメコはそれを否定した。

それが必然で作られた歯車だったとしても……


「ヒミコは、ヒジリさんの事を大切に想っていましたよ」


たとえ手放そうとも。

傍にいなくても。

生み出した時の感情は本物だ。


それはヒミコの記憶を受け継いだ、ユメコだからこそ分かる。

だってヒミコの中に残っていたヒジリさんとの想い出は、

こんなにも色鮮やかだ……


離れても。失くしても。どれだけの月日が過ぎ去ろうとも。

その瞬間は、決して褪せる事がない。


「……道中、どうかお気をつけて。

 ユメコさんの幸せを祈っていますよ」


そう言って微笑むヒジリさんの表情は、とても美しかった……


想い出は、時に人を縛り付けて苦しめる。


けれどヒジリさんの様に全てを受け止めて、

愛おしく思える日々が来るのなら。

いつか全ての後悔が拭えるのなら……


ページを先に進めるしかないんだと、

ユメコは思えた。


「ありがとうございます、ヒジリさん。

 行ってきます!」


ユメコを迎えに来たツカサの声が、遠くから聞こえる。

今はただ、この声を辿って前に進もう。


さぁ、旅立ちの時だ。

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