十年越しの再会
ラブコメを頑張る。
高校三年生の最後の春。
それは、多くの人にとって掛け替えのない大切な一年。
受験勉強に励みつつも、残された残り僅かな自由な時間を、今まで過ごしてきた友人たちと笑って泣いて分かち合う。
彩りの溢れまくった一年に──なる筈だった。
今現在、俺──花道縁は一人悲しく、電車に揺られて、窓から見える自然の景色に懐かしさを覚え、思いを馳せていた。
この景色を見るのも…かれこれ十年ぶりくらいだろうか。
…漫画やアニメで良くある両親の海外出張、それがまさか現実に起こるなんて、俺は思いもしてなかった。
兄弟姉妹もいなければ、住んでいたのは都内、海外出張と言うだけでも大変なのに、金を無駄には掛けられない。
親父のその判断により、俺は小学校低学年くらいまで住んでいた、祖父母の実家に行くことになった。
見知らぬ土地より、そっちの方が良いだろうというお袋の配慮でもある。
色々と手配は済ませてくれており、高校への編入手続きや学費の振込に諸々の雑費等々。
親父にお袋よ…そこまでしてくれるなら、俺にアパートで一人暮らしでもさせてくれ。
「…はぁ」
ため息まで吐いて、俺がアパートの一人暮らしを願う理由は、一つ。
祖父母の家の隣に、恐らく今でも住んでいる幼馴染。
その、幼馴染が問題なのだ。
悪い奴ではないし、嫌いでもないのだが……ただ、会うのが気不味い。
彼女──蒼神総花との最後は、所謂喧嘩別れだった。
喧嘩した理由は今ではもう覚えてないが、物凄く些細な事だった気がする。
今更ながら、なんでアイツが俺なんかと連んでいたのが不思議でしょうがない。
記憶の美化がなければ、総花は、紛うことなき美少女だった。
サラサラとなびく紺色の長い髪、夜空の輝きをそのまま落とし込んだかのような瞳。
強く抱き締めたら折れてしまうんではないかとも錯覚する、線の細い体に、端正に整った顔立ち。
もし、彼女の欠点を上げろと言われたら、一つしかない。
しかも、その一つは彼女自身ではどうにも出来ない代物で、現代の人権的な考えからすれば個性の一つ。
蒼神総花には、右腕がない。
事故によって失くしたのではなく、生まれた時から欠損している。
学校に居た先生や同級生の何人かは、彼女を偏見の目で見ていた。
容姿が整っていても、身体的欠損なんてハンディキャップも良い所だ…と。
取り敢えず、幼馴染の話はこれくらいにしよう。
考えると、胃が痛くなってくる。
「今でも、怒ってんのかな…アイツ」
憂鬱な気分になるのを回避しようと、俺は目的の駅に着くまでスマホで音楽を聞いて過ごした。
春は、もうそこまで迫っていたと言うのに。
◇
田舎と都会、その中間より田舎寄りな町、三日月町。
私──蒼神総花は、産まれてからずっとここで過ごしている。
両親が言うには、田舎に近い方が、お前が暮らしやすいから…だそうだ。
私は、特に暮らしやすいとか暮らし難いとかは考えた事ないけど、自然に溢れていて落ち着ける場所だとは思う。
十年ぶり程に会う幼馴染を迎えに行く為、私は一人駅までの道程を歩く。
徒歩で行くには少し遠い道程だが…自転車に乗れないのだからしょうがない。
昔、片手でもヘッチャラだと言って、お父さんの前で大転倒した日から、自転車には乗ってない──正確には乗らせてもらえてない。
だけど、それも今日で終わりだ。
ゆーくんが来ればモーマンタイ!
甘えっ子ちゃんスキルを総動員して、彼に動いてもらうんだ。
…あんな別れ方した仕返しに、ちょっとくらい痛い目を見てもらう。
そんな、未来の明るい計画を立てながら、ルンルンとスキップをして駅に向かっていると……一人の青年とすれ違った。
やる気のない、と言うよりは気だるげな顔に黒い瞳に、テキトーに切りそろえられた焦げ茶色の髪の毛。
身長は、百五十ちょっとの私より頭一つ分以上大きい。
懐かしい匂いが…した。
そして、私の特別の印、右手の甲にある傷跡が、青年の右手の甲に見て取れた。
嬉しさのあまり飛び跳ねる想いを、私は無視なんて出来ず、人間違いを恐れぬ片手の抱擁を青年──いや、ゆーくんと交わす。
「ひっさしぶりー! ゆーくん!!」
「痛てぇ!? …おい! いきなり…なに…すんだ…よ?」
「忘れちゃったのかにゃ〜? 可愛い可愛い幼馴染の顔をさぁ?」
「総花…か?」
「ピンポンピンポン! だーいせーいかーい!」
彼の胸板に顔を押し付けるように、強く抱き締める。
リュックを背負い、ボストンバックも手に持っていたが私には関係ない!
私が抱き着きたいと思ったその時に、相手の意思や状況など関係なく抱き着くのだ!!
突然の行動に驚いているのか、ゆーくんは顔を赤くして固まっている。
赤面して、固まるような事、私したっけ?
抱き着きながら思考を巡らせると、一つの正解に思い至った。
…ふっふっふ、なるほどなるほど。
分かったよ、ゆーくん!
答えは単純明快だったよ!
「えっへへ〜! 照れる程、私に会えたのが嬉しいんだな、このこの〜!」
「ちょっ、やめろ! 動くな! それ以上動くな!?」
「な〜ん〜で〜?」
「幾ら人通りが少なくても! 道の真ん中で抱きつく奴があるか!?」
「む〜、しょうがないなぁ」
片腕だけの私を、無理矢理剥がさないのは彼なりの優しさなんだろう。
…昔から、そうだ。
私を特別扱いしないって言ってる癖に、本当に変な所で気を使ってくる。
各言う私も、そう言う所が好きだから一緒に居たのだが……
まぁ、昔の事は今は気にしないで行こう!
また、彼と同じ学び舎で過ごせるのだから。
◇
高校生活最後の春。
少年少女の、空いてしまった溝を埋める物語が始まった。
忘れてしまった過去を取り戻す、そんな物語が始まった。
次回もお楽しみに!
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