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原作崩壊した世界で男装王女は生き抜きたい  作者: 平坂睡蓮
第一部 第6章 破滅の顕現
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8.終焉の時

 大ガラスが飛び去って行った方角を見て、皆唖然としている。皆思うところは一緒だ。


「神様は助けに来てくださったのではないのでしょうか……?」


 誰かが呟いた。ホントそれな。

 でも私としては想定内だし、早くイリスに王の杖を使ってみて欲しかった。これでホントにホントに最後のチャンスだ。


「イリス、その杖を使ってみて欲しい!」

「……分かったわ、駄目で元々よ。でももし万が一奇跡が起きるのならどうか、お願い! “アニマムンディの使徒が命ずる、コスモスに融けよ”」


 眩い光が杖から放たれる。柔らかくもあり、優しくもあり、美しくもある光が。

 これで原作の乙女ゲームの通り、イリスが“王の杖”の力でパワーアップして、シルビアの呪詛の本体を消し去ることが出来る!


 しかし――。


「どうしてっ! どうして消えないんだ!? ちゃんとイリスの魔法は発動しているはずなのに、何で!!」


 どういうことなのか、これは。

 光を浴びてもなお、顕現したシルビアの呪詛は消えることがない。それどころか更に勢いを増して、この塔に這い上がってくる。

 最後の抵抗に近い感じもするし、相手が苦しんでいるのは間違いない。光に照らされのたうち回っている部分も確かにある。消滅した箇所もある。


 しかしまだ弱い、本体が消えない!


「呪詛の抵抗力が強すぎる? それともイリスの治癒魔法のレベルが足りない? ゲームみたいにフリードリヒを助けたいって必死な気持ちじゃないから? そんなバカなっ!!」


 イリスの治癒魔法の光に照らされて、弱い部分から消滅しているのが確認できる。しかしこの塔に這い上がってくる本体部分は、未だに健在だった。


 光に当たり余分な箇所がどんどん削ぎ落されている。這い上がってくるその姿が徐々に人型を成していくように見える。

 四つん這いになって塔を這い上がってきたそれは、とうとう屋上に到達し我々の眼前で立ち上がった。

 どろどろになって呪いと怨嗟を撒き散らしながら、無数の触手に守られるように埋もれながら、それは確かに女の造形をしていた。


 次の瞬間イリスの悲鳴のような叫びが聞こえた。


「危ないっ! 避けてっ、フリーデルト!!」


 人型のどろどろに気をとられていたのが悪かったのだろう。

 気付いた時には、死角から忍び寄っていた巨大な暗黒の触手が、今まさに私の方向に向かって叩きつけられようとするところだった。


 避けられない!


 酷い衝撃と共に私の意識は闇に沈んだ。



 ◇◇◇



『おお勇者よ、死んでしまうとはなにごとだ!』


 そう仰々しく話す女の声が響いた――この声は、試練の際に聞いたアデライドの声と一緒だ。

 ……私は死んだのか? あの触手に飲み込まれたのか潰されたのか。

 つーかアデライドは突然どうした、キャラ変したのか? 狂王様も大変だなー。


『あーいや、それは冗談だ。一度言ってみたかったんだ。――それよりもお前、血を捧げるのを欠かすなっていったよな? なんでこんな有様になってるんだ?』


 そんなの知るか、もう知らない、なーんにも知らない。ヘンリーの奴が悪いんだ、クーデターなんてくだらないことするから。


『いいか、よく聞け。カラスが落としていった短剣、アレは私が“致死の呪い”を付与したものだ。いいか、それでシルビアを終わらせるんだ』


 終わらせるって言ったって、シルビアはとうの昔に死人じゃんか。死人に向かって致死の呪いをかけたって意味ないでしょ。


『シルビアは生前の呪詛のせいで魂だけが現世に引っかかっている状態、つまり昇天できない状態だ。その短剣でシルビアを刺して、致死の呪いを与えてやれ。そうしてから治癒の娘が浄化するんだ』


 浄化――イリスはレベルが足りないのかもしれない。王の杖を使ったのにアレを浄化できなかった。やっぱり原作みたいに、愛する人を助けるためとかそういう理由がないとダメなんだ、きっと。


『――心配するな。もう理由ならある』



 ◇◇◇



 はっ、と意識が覚醒する。今のは……。

 周囲が慌ただしい。皆混乱しているようだ。私が意識を飛ばしていたのは一瞬だったようだ。

 誰かが私を抱き起こす。心配そうに私を覗き込む顔。イリスや王たち。


「おぉ……そなたは無事であったか! 奇跡だ」

「フリーデルト大丈夫!? 私が分かる?」


 状況が飲み込めない。てっきり死んだと思ったのに。アデライドの声を確かに聴いた。あれは幻だったのか?


「私……大丈夫っぽい、一体どうなったの?」

「あなた、あの触手に叩き潰されたのよ。他に巻き込まれたりアレに触ってしまった人はみんな……駄目だった」


 イリスは私も死んだものと思っていたようだ。王やエヴァンス将軍たちも涙目だ。

 そうか――私が無事だったのはアデライドが守ってくれたからなのか。試練の時と同様に、王家の直系の私だから助かったのだろう。


 近くから慟哭が聞こえた――宰相。

 そちらに目線をやれば、宰相はヘンリーを抱きかかえ涙を流していた。その傍らにはセシルも座り込んで、涙を流していた。

 ヘンリーの顔は宰相の身体の影に隠れて見えなかったが、ダラリと力なく垂れ下がった腕が見え、彼がどうなったのかを悟った。


「ヘンリー……」

「アイツ、宰相様を突き飛ばして自分が身代わりに……。本当にバカな奴よ、本当にバカ……私まだアイツのこと殴ってないのに、文句一つ言ってなかったのに」


 ヘンリー、あれだけ宰相に反発していたのに。その最期は父親を庇って死ぬとは。

 宰相は危険を冒して、バルコニーに落ちたヘンリーを助けに行った。それをヘンリーがどう思ったか……。決して和解できたわけではなかっただろう。……もう少しちゃんとお互いに話す時間があったのなら。


 私も全身を打ってしまったようで、体中が痛い。正直身体を起こすだけで精一杯の満身創痍状態だけれど、そうも言ってられない。

 殺さなければ――シルビアにこの短剣を突き立てなければ。


 立ち上がろうとしたけれど、足が生まれたての小鹿のように震えて立てない。

 それを見たイリスが、すぐに全身に治癒魔法をかけてくれた。すぐに痛みが引いていく。――行ける、これならやれる!


 よしイリス! まずは私が呪詛の本体に短剣をぶっ刺すからその隙に浄化してくれ! と言おうとした。

 しかし私が言葉を発するよりも早く、イリスが憤怒の形相で本体の方に向かって行ってしまった。


「よくも……っ!」

「ちょ、イリス! ちょっと待って!!」


 その顔は鬼気迫るものがあり、野生の肉食動物のような迫力に満ちたものだった。鬼だ、般若がいる。


「よくも私のフリーデルトに大けがさせてくれたわね!? 絶対に許さないんだからっ!!」


 その言葉と共に、王の杖はかつてないほどの輝きを放った。そしてその光が収束すると、杖はまるで戦鎚――戦闘用のハンマーのような形状にフォルムチェンジしていた。

 杖時代についていた煌びやかな宝石の装飾はそのままなので、物凄く豪華な戦鎚だった。


「さあっ! 覚悟は良いっ!?  “アニマムンディの使徒が命ずる、コスモスに融けよ”エイヤーッ!!」


 そしてイリスはその杖(?)で暗黒物質をタコ殴りにし始めた。タコ殴りにされた部分は、大きく抉れて消滅してく。凄まじい浄化能力だ。

 暴れまわる触手、ドロドロの人型部分を守っていた触手、どれもこれもイリスの攻撃で消されていく。


 ……魔法使いの杖ってそうやって使うんだっけ? ていうか杖なのかアレは? 疑問しか浮かばなかったけれど、そんなことを考えても仕方がない、分かるわけがない。


「あれは!」


 突然王が感嘆の声を上げた。


「あれこそは伝説に記されし、魔法アイテム“ミョルニル”の真の姿! フリーデルトへの愛が治癒の聖女の真の力を目覚めさせたのだ!!」


 なん王の言ってることは半分も理解できないけれど、この際もうどうでもいいや。

 魔法アイテムとか伝説って何それ? ミョルニルとか北欧神話のトールハンマーじゃん。いきなり全然違う話の要素ぶち込んでくるのやめてよ。


 もういいや、考えるだけ無駄だ。とにかくイリスがパワーアップしたのはよーく分かった。原作通り“愛の力でパワーアップ”ね。はいはい、良かった良かった。



 イリスの攻撃でどんどん消滅する暗黒物質を見つめる。

 行ける――今なら触手たちに阻まれることもなく、本体に短剣を突き立てることが出来る。


 決心した私は、短刀を構えて本体に向かって走った。



 終焉の時がきた――。

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