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原作崩壊した世界で男装王女は生き抜きたい  作者: 平坂睡蓮
第一部 第4章 試練の刻
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5.諸悪の根源

 浄玻璃の鏡、起動します。

 再生しますか――YES。



 ◇◇◇



 画面には若き日の王――リチャード・フレデリック・ベルン。彼は談笑する若い女性たちを覗き見ている。

 若い女性たち――中心には若き日のマーガレット、近くには現在侍女長のクラリッサ。確か以前マーガレット妃はクラリッサのことを、昔からの親友と言っていたっけ。


 1人の女性が立ち上がり、その場を離れる。――王の視線は彼女を追っていく。

 ……シルビアだ。肖像画では何度か見たフリーデルトの生母であるシルビア、こうして動いているところを見ると、成程、気の強そうなマーガレットとは真逆のタイプだ。守りたくなる小動物系。

 イリスと同系統。……イリスの場合は見た目詐欺で、実態はアグレッシブ系だけど、シルビアは外見と中身が一致系なのだろう。マーガレットが“浮舟”と例えていたように。




 場面が変わる。




 三人の人物が言い争いをしている。

 見たことのないジジイ、若き日のケニー・エヴァンス将軍、シルビア。


『リチャード陛下はボルドーの娘ではなく、シルビア、お前を王妃に迎えたいと仰せだ! ボルドーは宰相で序列二位、うちは万年三位、ずっと憎々しく思っていたんだ! これで連中の鼻を明かせる!!』

『私は嫌です!! お父様、どうかお断りください。これではマーガレット様にあまりにも失礼です! どうか、どうか。お兄様もこんなことおかしいって、お父様を止めてください!!』

『何を言うかシルビア、王妃の誉れを断るなどと。既に承諾したことだし、何よりも教会がラフィール教皇の後ろ盾もある! マーガレットなどという小娘1人に遠慮はいらんっ』

『……私もシルビアの言う通りだと思います。このようなことはいくら陛下の意向や教会の後押しがあったとしても道理に反するのでは』

『何を言うか愚か者!』


 ジジイは将軍を激しく罵倒し殴り倒す。とんでもない野郎だ。

 あのジジイは先代のエヴァンス公爵か、将軍とシルビアの父親、フリーデルトの祖父。既に故人と聞いたけれど、死んでてくれてよかったわ。




 場面が変わる。




 シルビアが王妃になった後のようだ。

 物陰にいるシルビアは涙を流している。

 その先では侍女たちがシルビアのことを罵っている。侍女の中にはクラリッサもいる。


『マーガレット様を裏切った恥知らず』

『マーガレット様にお仕えするはずだった私たちが、何故あのような女に仕えねばならないのか』


 ……そうか、クラリッサはシルビア同様に、本当だったら王妃となったマーガレットに仕えるはずだったんだ。ところが前代未聞の王妃候補の交代劇で、王妃の座を奪い取る形になってしまったシルビアに仕えることになった。

 罵りたくなる気持ちも分からなくはないけれど……。




 場面が変わる。




 マーガレットが扉を背に寄りかかり座り込んでいる。

 扉の向こうからは泣きながら許しを請うシルビアの声。

 マーガレットは何度も扉を開けようか開けまいか迷っている。――結局彼女は扉を開けられなかった。




 場面が変わる。




 憔悴しきったシルビア。向かい合うのはラフィール教皇。


『ご懐妊おめでとうございます』

『……もう嫌よ。跡継ぎの王子は産んだじゃない。もう子どもなんていらないわ。……でも私が陛下を拒否すれば、マーガレット様に手を出すでしょう。それだけはさせないわ』

『妃殿下、憎いですか? 自身を弄ぶ王が、王家が』

『ええ、憎いわ。あの男も、王子も。自分が産んだ子どもは可愛いだなんて嘘っぱちよ。憎くて憎くてたまらないわ。殺してしまいたい』


 シルビアのその言葉にラフィール教皇は笑みを濃くする。


『でしたら呪いましょうか? これ以上苦しむ女性が生まれないように、王家の男が苦しんで死ぬような呪詛を』

『……無理だわ。私は魔法を使えないのよ、呪い殺すような力はないわ』

『私が手を貸しましょう。その代わり対価を、私と契約して呪詛をおこなう対価を下さい』

『……好きにして。もう私にはマーガレット様を守る以外に生きる意味なんてないもの』

『では魂をいくつか、対価は多ければ多いほど良い。まずは貴女のお父上、エヴァンス公爵の魂をいただきましょう。それから貴女の胎の子の魂も。魂なくともその肉体は成長し産まれ来る、そのまま呪詛の媒介として活用しましょう』


 は? 今何といった? 教皇は何と?

 シルビアの胎の子、王子を産んだと言っていたから胎に宿っているのはフリーデルトだ。魂はジジイともども呪詛の対価に、肉体は“呪詛の媒介”だって!?




 場面が変わる。




 シルビアが赤子の世話をしている。

 そう言えば、王が言っていたっけ。シルビアはフリードリヒの面倒は見なかったけれど、フリーデルトのことはかいがいしく世話をしていたと――。


 シルビアは赤子のフリーデルト――魂のない生き人形に囁きかける。


『……お前のことなんてちっとも愛してなんていないけれど、お前は大切な大切な呪詛の媒介だもの。元気に育つのよ、早く大きく育つのよ。可愛い可愛い私の希望、お前が王家の男どもと接触するたびに呪詛は男どもの身体を蝕んでいく。良い気味よね、フフフ、あはははははっ!!』


 もはや正気とは思えない狂気的な表情で笑い続ける。




 場面が変わる。




 シルビアが病の床に臥せっている。病んだ精神が肉体をも弱らせた結果だ。

 側に控えるのはまたしてもラフィール教皇。


『本当なのそれ? どうしてなの。マーガレット様が懐妊? 何であの男、マーガレット様を? 許さない、マーガレット様に手を出したなんて絶対に許せない』


 どうしてって、そこにいる男が王に「跡継ぎ候補が1人では心配だ」とか唆してマーガレットに手を出させたのだ。以前王がそう言っていた。

 彼女に教えてやりたかった。しかしこれは過去の映像で、既にどうしようもない過ぎ去ったもの。悔しい。


『でしたら、もっと呪詛を強化しましょう。更なる対価をいただけるのでしたら、それが可能です。もっと苦しめて、惨たらしい最期になるように』

『だったら私は……私自身の命を対価に差し出すわ。私自身が呪詛となって、苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて! 未来永劫に、私は王になる男を呪い続ける!』

『――確かに、その契約承りました』



 ◇◇◇



 浄玻璃の鏡、再生を終了します。



 PCは再び暗転。そして浄玻璃の鏡との接続が切られ、画面には再びカラスが映し出されていた。


 諸悪の根源はやっぱりあの野郎じゃないかよ!! ちくしょう!!

 しかもシルビアの呪詛の媒介って“私”かよ!!

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