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原作崩壊した世界で男装王女は生き抜きたい  作者: 平坂睡蓮
第一部 第3章 玉座への道
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10.男装王女はドナドナされる

「皆には公開されていないことだが、王家には建国に関わる詳しい伝承が残っておる。それによれば初代様――“狂王”は魔力を持たなかったが、カラス神が試練と引き換えに魔力を得る方法を教え、狂王はその試練を乗り越え魔力を得たとある」


 確かにそうだ、狂王。彼はおそらく唯一、後天的に魔力を獲得した人であろう。


 でも方法は? どういう試練なのか?


「ラフィール教皇、300年を生きる貴方も知っているのではないか? 狂王が元々は魔法使いではなかったことを」

「……ええ、確かに」


 教皇はいつものうすら寒い笑みを浮かべてはいたものの、一瞬返事を迷ったようなそぶりを見せた。

 その伝承が残っていたことが意外だったのか、他の意図あってのことか。


「……すっかりその話は歴史の中に埋もれてしまったものと思っていましたが、王家には伝わっておりましたか。ええ、そうですよ、確かにそれは事実です。間違いなく狂王は後天的に魔法使いとなったお方でした」

「フリーデルトにはその試練を受けてもらおうと思うのだが、唯一気がかりな点がある。王家には試練の内容の大まかなところは記されているが、危険度が分からぬ。……もう私は我が子を失いたくはない」


 成程、王が始めからその話を持ち出さなかったのはそのためか。

 後天的に魔力を得る方法があるのであれば、ヘンリーが魔力云々の暴露をした際に反論していても良かったはずだ。

 危険度……流石に命の危険があるものはやりたくない。


 教皇はじっと私を見つめて、答えを返してきた。


「それならば心配はいらないかと。そうですね、あの試練は“王家の直系の方”が受けられる分には命にかかわるような試練ではありません。それ以外の方が受けた場合は命の保障はありません。フリーデルト殿下ならば、試練をお受けになれば必ず魔力を得ます。……が、しかしですよ。あれはとても精神を抉られ、身を刻まれるよりも更に酷い苦痛を味わうものだと聞き及んでおります。――フリーデルト殿下にはそれを受けるだけの勇気はありましょうか?」


 なんかめちゃくちゃ痛いらしいけれど、死ぬようなものではないというお墨付きであれば……。異世界転生で魔法使いになるとか、オタクの血も騒ぐ。

 ……とでも思っておかないとやってらんないわ。何? “身を刻まれるよりも更に酷い苦痛”って!? 本当に命の危険はないんだろうな?


 不安はあったものの、最早やるしかないのは明白だった。


「……それが玉座への道であるというのならば受け入れましょう」

「よくぞ申した我が息子フリーデルトよ! さてこれで懸念事項は払拭され、王になる条件は整ったということでよろしいかな?」


 意義なし。

 その言葉が方々から発せられた。

 ヘンリーや貴族派の面々は悔しそうにこちらを睨みつけているが、もう反論のしようがないように見えた。


 教皇を見れば、先ほどよりも笑顔度が増している。

 何というか、面白い展開になって満足とでも言わんばかりの表情だ。

 ……生理的に受け付けないわ、あの笑み。


 だがここにきてコナー伯爵がまたしても待ったをかけてきた。


「陛下! 皆様方お待ちを! まだ私の疑問が晴れておりませぬ。本当にフリーデルト殿下が男であるか否か、何卒我らに見分の機会を!」


 くそーっ! この爺、まだ性別確認を諦めていなかったのか。

 他の貴族派の連中も、思い出したかのようにコナー伯爵に加勢して見分を求める声を発してくる。

 ヘンリーの余計なちゃちゃのせいで、コナー伯爵に考える時間を与えてしまったのが痛かった。先ほどは私の脅しで一旦は引き下がりかけていたものを。


「では、私がその役目を務めましょう」


 そう名乗り出たのはラフィール教皇。


 マジかよ……。


 事前の打ち合わせでは、コナー伯爵とか貴族派連中が何かしら要望を突き付けてきた場合、最悪の王が無理くり拒否するという算段だった。心証は非常に悪くなるけれど、ばれてしまうよりはましだ。


 しかしラフィール教皇、300年を生きる彼を拒否することは王でもなかなか難しいものがある。

 教皇や枢機卿は王国貴族議会に参加はすれども、今まで口出しをしてきたことはただの一度もなかった。だから警戒対象から彼を外してしまっていた。

 まさかここにきて出てくるとは予想だにしない事態だった。


「教会は“中立”。教皇である私が確かめればいいでしょう?」


 教皇のその言葉に、コナー伯爵が渋々と言った様子で頷いた。


「……あなた様がそのようにおっしゃるのであれば従いましょう」


 その答えに教皇は更に笑みを濃くすると、あっという間に壇上に上がり私をお姫様抱っこ状態に!


「何処か別室で見分してまいります。15分程度で戻ります。皆さま、その間無用の議論や発言はなさらないよう。ささ、殿下参りましょうね」


 私はお姫様抱っこ状態で抵抗できず。

 必死で王や宰相、将軍にヘルプミーの視線を送るが、全員最早これまでとばかりの諦めの表情を浮かべている。


 ラフィール教皇にドナドナされていく私を助けるものは誰もいなかった。

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