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原作崩壊した世界で男装王女は生き抜きたい  作者: 平坂睡蓮
第一部 第3章 玉座への道
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9.魔力無き者に資格なし

 フリーデルトには魔力がない。王家の直系なのに魔法が使えない。そんな者ではこのベルン王国を統治するに力不足だ――という、ヘンリーのまさかの裏切りの暴露のせいで、完全にピンチである。


 私だって王になんてなりたくない。できることなら目立ちたくない。命を狙われかねない王太子なんてやりたくない。原作崩壊した世界なんて怖くてしょうがないから、引きこもって生き抜きたい。


 でもヘンリーが王位継承者となれば、もれなくシルビア王妃の“王になる男は全員死ね!”の呪詛が降りかかる。裏切り者とはいえヘンリーに死んでしまえとはまでは思えない。

 あの駄犬は“玉座”という餌をぶら下げられて、ホイホイ貴族派についていったに違いない。騙されているのだと思う。

 それに仮にヘンリーまで呪詛で死んでしまったら、今度は私の推しのセシルがその役を引き継がなければいけなくなる。フラれても推しは推しだ。守らなければ。

 おぞましき呪い”ケイオス”封印の件もあるし王は絶対に存在し続けなければいけない。


 どうあっても私が引き継がなければ駄目だ。

 それにヘンリーが貴族派に寝返ったのなら、もしヘンリーが王になったら貴族派の連中を重鎮に据えるつもりなのは目に見えている。

 そうなったらもう連中の思う壺だ。


 しかしこの局面で、どうすれば切る抜けることが出来るのか。私に魔力がないのは事実だし、それを暴露されてしまっては……。

 どうしたもんかとヘルプミーとばかりに宰相と将軍を見れば、おい万策尽きたとばかりに2人して目を逸らしやがった!


 ……仕方ない。

 黙っているわけにもいかないので、無理くり言葉をひねり出す。


「ヘンリー、貴方は亡き兄の友であり、私にも良くしてくれました。……私が王太子となった時に、エヴァンス家のセシル同様に支えてくれる友であると、そう思っておりましたが、私は不適格だとそう言うのですか?」

「その通りだ。魔法が使えない王では他国に舐められ、この国はいい標的にされる。この国を弱くさせるような王はいらない」


 ヘンリーは貴族派の本当の目的が、国力の弱体化だとは思っていないようだ。完全に貴族派のいいように操られている。単純バカ。まさに貴族派にとって都合の良い操り人形というわけだ。


「それに……イリスはどうするつもりだ? どういうつもりか知らないが、何故正式に王族でもないイリス・バートリーが壇上のその席にいる?」

「イリスは亡き兄の正式な婚約者でした。家族も同然です。それに別の発表もあったのでここにいてもらっています」

「別の発表だって?」

「……イリスには私の婚約者になっていただく、という発表です」

「……――はっ! ははははははっ!! ついこの間婚約者が死んだってのに、さっさとその弟に鞍替えかよ!? とんでもねぇ尻軽女じゃねーか!!」


 そのヘンリーの言葉と嘲笑に、貴族派の連中も同調して嘲るような下卑た笑いが巻き起こった。


 ――ヘンリーてめぇこの野郎。

 イリスをフリードリヒ殺害の容疑者扱いして謝罪1つない上に、今度は何と下品なことか。


「彼女は貴重な治癒魔法使いです。我々王家は何としてもその血を取り込みたい。だから彼女には“無理を言って”私と婚約することにしてもらったのです。そうですよね、イリス?」


 これは私のアドリブだ。事前に打ち合わせしていた話ではない。しかしイリスを侮辱されて、そのままにはしておけなかった。


 イリスは私の意図を察して、話を合わせてくれた。


「そうです。……私も愛しいあの方がいなくなってしまい本当に寂しい。本当ならお城を離れるべきというのは重々承知しておりましたが、せめてこの治癒魔法使いの血を王家に捧げることが出来ればと思い、このようなことに相成りました。ご批判は覚悟の上です」

「はっ! 口だけなら何とでも言えるだろう。……イリス、お前は次期王妃の座を手放したくないだけだ、そうだろ!?」

「ヘンリー、貴方一体どうしてしまったの? どうしてそんなに私を目の敵にするのよ」

「……うるせぇ。とにかく魔法が使えない王太子などあり得ない」


 もう限界だった。私も案外切れやすいのかもしれない。


「思いあがるなよヘンリー・ボルドー」


 自分でも驚くほど冷たい声が出た。もうヘンリーにも容赦は出来ない。

 この駄犬は躾直しが必要だ。貴族派という他の人にホイホイついて行ってしまうような駄犬には、きっついお仕置きが必要だ。


「私を王太子に認める認めぬ以前の問題だ。私は王子で、お前はボルドー公爵家の嫡男。どちらが上かも忘れ浅はかにも我が婚約者を侮辱、更には王の御前にあってそのような不遜な口ぶりと態度。このまま見過ごすわけにはいかない!」

「だったら何だよ? 不敬罪ででも牢屋にぶち込むか?」


 よし、そうしよう。不敬罪で牢屋にぶち込んで頭冷やして貰おう。本人もそれを希望していることだし!


 しかしここで今まで黙って成り行きを見守っていた王が口を開いた。


「2人とも止めぬか」

「しかし父上……」

「ヘンリーよ、そなたがフリーデルトを認めぬな理由は魔力がないという点であるな?」

「……そうです」

「ならばその点は解決可能なことだ」


 は? 何それ初耳。


 議場にいる貴族たちも一様にざわめいた。

 だって魔法使いになれるかどうかは生まれ持って魔力があるかどうかの一点にかかっているし、後天的に取得した前例など――あっ……一人だけ知っていた。


たった一人だけ――。

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