6.答えは”はいorイエス”
王家が存続しなければいけない意味は分かった。
まぁ情報過多で脳が処理しきれず、若干頭がピヨピヨ状態になっている感は否めないけれど。
もう私には男装の王になるしか選択肢がないようだ。
「父上、事情はよく分かりました。しかしです。私の代はそれでいいにしても、その次はどうするのですか? 私は女なのでイリスに子どもは産ませられませんよ」
イリスの治癒魔法を手放したくない王は、婚約者のフリードリヒを失ったイリスを兄婚約者からスライドさせて、私の婚約者に据えるとか馬鹿なことを言っていた。
……私の顔が大好きなあのイリスなら寧ろ狂喜乱舞して受けそうな気がひしひしとするものの、結局私より先へ血脈を伸ばすことは出来ない。
流石に性転換薬とかいう恐ろしいものはないだろう。そんなものがあるなんて転生してから聞いたことがない。……あったらどうしよう。ないよね?
「イリスはそなたと結婚して、ヘンリーかセシルの子を産めばよい」
おい、そういうところだぞ。てめーがくそ野郎なのは。人の人生なんだと思ってるんだ。
「もしくはそなたが秘密裏に子を産むか、ヘンリーかセシルの子を養子に迎えるという手もある。ルイが子を産めばその子を養子にするという案もあるな。いずれにせよ、シルビアの呪詛が解けない限りは、数代は女が性別を偽って王になるしか方法はあるまいな。……女王という建国以来300年間存在しなかったものを国民が受け入れられるように世論を作るまでは」
もっともらしいことを言う王にそれ以上反論することもできず、最早私の返事は“はいorイエス”しか残っていなかった。
そこまで話したところで王の体調が悪くなり、2人して必死で長い階段を上り部屋に帰還した。
部屋に帰って王から聞いた情報を日記にまとめながら思った。
おぞましき呪い”ケイオス”については古来からのもので、作為的に生まれたわけではないから仕方がない。
でもシルビアの呪詛は違う。それは王のせいだ。あいつがクソ野郎だったから、男を王に据えることが出来なくなったんじゃないか。その尻拭いを何で私がせにゃならないんだ。
やはり鈍器のようなもので後頭部とガツンと一発やっておくべきだったのではとも思うが、最早後の祭りだった。
◇◇◇
王女は王子だったので次期王位継承者はフリーデルト、というまさかの迷案で突き進むことになってしまったベルン王家。
それらの発表は、第一王子フリードリヒの死と共に、王国貴族議会といういわゆる国会的な会議を開いてその場で公表する運びとなった。
流石に私が性別を偽って王子としてやっていくには協力者が必要だったので、ごく限られた人にだけは真実が伝えられた。
伝えられたのは、ボルドー宰相、エヴァンス将軍、セシル、イリス、マーガレット妃、ルイ。それと私のことを8歳まで世話をしていて本当に女だと知っている侍女のミラ。
彼らには、王家にかかっている“何者か”の呪いのせいで、男が王になれば死の危険があるから王女の私を王子だったということにしてやり過ごすという説明がされた。
誰の呪いかは分かっているものが大半だったが、宰相と将軍はシルビアの名前が出なかったことにあからさまに安堵していた。
王家の親戚の中で唯一はぶられたヘンリー。
最初は彼にも協力者になってもらうつもりだったのだけれど、宰相が待ったをかけた。
宰相は、ヘンリーの反抗は未だに酷くそのような重大機密を打ち明けたらばらしかねないということを言っていた。
確かにヘンリーは最近おかしい。イリスを犯人扱いしたこともそうだけれど……ヘンリー本人か断定はできていないものの、モーリスメディスン商会と何らかの関わりがある可能性もある。
彼についてはもう少し落ち着いてからタイミングをみて打ち明けようということになった。
ちなみに私が王子としてやっていくことに対する各々の反応だが――。
まず宰相、将軍、セシルは王の迷案を名案だとばかりに歓迎した。フリーデルトなら絶対にバレないし、むしろそのほうが自然だとまで言い出す有様だった。
ちくしょう! お前ら私が王になったら全員ただじゃおかないからな!
マーガレット妃とルイは、私が王子になること云々よりも、自分たちの希望通りに王位継承者から外れたことに大喜びだった。
ちなみにルイの本当の性別は皆に共有されたが、彼女にはこのまま王子として生活してもらうことになった。そのほうが混乱もないし、私が王になった時に王弟としてサポートする役割を担えるだろうという判断からだった。
侍女のミラは「本当の性別について、絶対に他言しませんから命だけはお助けください!」とボロ泣きだった。
そうだよね、彼女は身内ではないし口封じしちゃったほうが早いって思うよね。いや、そんな鬼畜の所業はしないし、身の回りの世話をする侍女にも協力者は当然必要だったから口封じしたりしないよ。
ちなみに、侍女長のクラリッサには打ち明けるか迷うところだった。しかし、彼女は身内ではないしこれ以上秘密を知る人物を増やしてもいいことはないという結論になったため除外された。
さて――問題はイリスだ。
彼女はフリードリヒの婚約者という身分からフリーデルトの婚約者という身分にスライドすることに対して、狂喜乱舞した。ぴょんぴょん跳ね回って喜んだ。挙句の果てには興奮しすぎて鼻血を流してミラに介抱される始末だった。
……もう何も言うまい。
とにかく協力者たちは一応に“何とかなるんじゃね?”って反応だった。
いくら何でも楽観的すぎないか? こんな無茶苦茶で、王国の貴族たちを納得させることが出来るのだろうか?
しかし突っ込み不在のまま時は流れ、とうとう王国貴族議会が開かれる日になってしまったのである。
◇◇◇
案の定、議会は紛糾した。
「何ということだ! 一体誰がフリードリヒ様を呪い殺したというの!?」
「フリーデルト様が王子であらせられたことは別にどうでもいい! それよりも殿下を害した輩がいると言うほうが問題だ!」
「その通りだ! フリーデルト様が王女と言うほうが違和感があったが、王子であったというのならば問題ない! それよりもフリードリヒ様を暗殺したのは誰だ!? 教会の調査はどうなっている!? 陛下にかけられた呪いは大丈夫なのか!?」
おーい、私のことはどうでもいいって……。
私が王女ではなく王子なので、亡きフリードリヒに代わって王位継承者となることには特に皆抵抗感がないようだった。跡継ぎがいればそれでいい。病弱なルイ王子よりも、賢いと噂のフリーデルトの方が希望がある……そういうふうに彼らは考えた。
それよりも王国の第一王子暗殺というほうが重要な事項だったようで、私のことは華麗にスルーされた。
こうして始まった王国貴族議会。
この後フリーデルトには転生後最大の危機が降りかかることになる……。
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