1.三度目の正直
二度あることは三度ある。
三度目の正直という諺もある。
二日連続で王に面会できなかったので、今日こそはと思いつつ、まさか今日もダメだなんてことはと心配になりつつ、王の部屋にきた。
丁度部屋からエヴァンス将軍が出てきた。
「王女殿下、今日こそは大丈夫ですよ。陛下に今すぐにでもお会いになれます」
「本当ですか!? いやー、今日もダメだったらどうしようかと思いましたよ」
マジで安心した。
今日もダメだったらマーガレット妃に何て詫び状を送ろうか頭を悩ませることになっただろう。
「ところで、昨日宰相へ報告してくださったことですが……我々の不徳の致すところで、貴族派の陰謀についてこれまで暴くことが出来ずに放置してしまい誠に申し訳ありませんでした。殿下とイリス様にはなんとお礼とお詫びを申し上げればよいか……」
昨日私とイリスの考察したことは宰相に伝えた。
宰相は青い顔をしてすぐさま重鎮を集めて会議すると言っていたが、本当にすぐさま動いてくれたようで良かった。スピーディーなのは良いことだ。
「結局どのように対応することになりそうでしょうか?」
「今すぐに貴族派の資金源を奪うことはできないので、貴族派に買収されないように傘下に入っていない小売店……医薬品に限らずすべての分野においてですが、意思にそぐわない買収を執拗に迫られた場合国に相談できる窓口を設置することにしました」
ん~、相談窓口か。ないよりはましってレベルにしかならないよね。
「それと合わせて、買収そのものに対して規制を設けることにしました」
「規制と言いますと?」
「簡単に言えば、60%以上のシェア率を持つ会社が他社を買収しようとする際には国の許可を必須とするという規制をおこないます。既に高シェアになってしまっている場合は除くしかなかったのが残念ですが」
「それはよさそうですね、寡占状態になるのは国民の利益を損なうとして許可しなければいいだけの話になりますから」
とりあえず即効性のありそうな対策があってよかった。
医薬品は貴族派のモーリス男爵に支配されてしまい手遅れとしても、他の生活必需品はこれで守ることが出来そうだ。
「将軍、出来たらその規制にプラスして欲しいことがあります。複数の貴族派店舗がカルテルを組むのを規制したほうがいいと思うんです」
現代で言うところの反トラスト法や独占禁止法に準ずるものだ。
それよりは遥かにゆるゆるだけど、経営者の違う複数店舗が結託して商品価格を吊り上げることを規制しなければ意味がない。
将軍はカルテルという言葉にイマイチぴんと来ていないようだ。見た目はセシルそっくりのインテリ系でも、中身は案外脳筋なのかもしれない……。
「連中のことです、一つの会社が60%のシェア率を持たなければいいと解釈して、異なる二つの会社で各40%のシェア率を持とうとしてくる可能性があります。見た目はシェア率を分け合っているように見えますが、“貴族派”という括りで見れば、シェア率は80%になります」
そこまで説明して将軍はようやく納得できたという顔をして、規制法案に盛り込むと約束してくれた。
フリードリヒ暗殺の混乱もある中で、しかもそれを貴族や国民へ知らせるのは今からという状況で大変だとは思うけれど、何とか頑張ってほしい。
それにしても……宰相も将軍も、他の重鎮たちも、そして国民も。もう少し経済とか市場原理を学んだほうがいいと思った。
多分そういう知識は一般的じゃなくて、現代人が学校で習う程度の知識でもこの世界にとっては専門的なことなのかもしれない。
それは仕方ないと思う。しかしだ、貴族派にはそれを理解している人がいて、国に対して経済戦争を仕掛けてきていると言っても過言ではない。
結局王族派たちはそれに気が付かずに、何か物価が上がってるな、何かあの店勢力伸ばしてるな、あくどい商売してるな、そんな断片的な情報しか見えていなかった。
こんなんで貴族派と戦えるのか心配すぎる。
こういう時、転生者が現代の知識を生かして悪を成敗するというのが物語の定石なんだろうけれど、一般ピーポーの私ではオタク知識か鉱物知識くらいしかない。
豆腐くらいは作れるかも……金になるのかそれ?
残念なことに石鹸や洗剤は既に開発されているし、化粧品類は私に作る知識がない。
唯一思い当たる節も今すぐに同行できる話ではないし……。
異世界転生を果たした先人たちは、転生するべくして転生した天才たちではないかと、そのように思う次第なのです……。
ブックマークや評価、本当に励みになります! とても欲しいので、よろしくお願いします!




