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原作崩壊した世界で男装王女は生き抜きたい  作者: 平坂睡蓮
第一部 第1章 こうして原作は崩壊した
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1.意外! それは異世界転生

 ある朝起きると転生していた。

 突然の事態で意味が分からないのだが、目覚めた私はフリーデルト・シルビア・ベルンという8歳の王女様に転生していた。


 前世でどのようにして死んだのかは全く記憶にないが、何となく風呂場で寝落ちして溺死した気もしないでもない。


「うそでしょ、私死んだ!? 確かに会社が繁忙期で忙しかったから、過労?」


 私の水死体見つけた人、マジドンマイ。


「うぅ……死んじゃうなら会社の後輩ちゃんにスマホの破壊とオタクグッズ処分頼んでおくんだった」


 心残りはオタクグッズやR18の薄い本がそのままになっていたことだ。会社の後輩ちゃんが偶然同じ趣味だったから、私が死んだら全部処分してくれるように遺言を残しておくべきだった。


 それに私は鉱物を集めるのが趣味だった。水晶とかヒスイとか、カットされた宝石とか……。イベントに買いに行ったし、自分で採集しにも行っていた。

 さほど高いものは持っていなかったけれど、それなりに量があるコレクションだったから、あれらが処分されてしまわないか心配だ。


 ……もう過ぎたことだ、今更考えても仕方がない。そう割り切るしかない。



 転生していると自覚する以前の記憶は酷くあいまいだった。

 いつもボーっとして魂の抜けたような子供と言われていたのは何となく覚えている。


 フリーデルト・シルビア・ベルン、今生での私の名前だけれど、この名前は前世で聞き覚えがある。


「フリーデルトって、死ぬ前にプレイした乙女ゲームの“悪役の王女様”の名前だよね」


 オタクなら一度は夢見る異世界転生を果たしたにも関わらず、よりにもよって悪役に転生してしまったのだ。


 酷すぎる!!



 ◇◇◇



 私が転生を果たした乙女ゲームの概要はありがちなものだ。


 主人公イリスが一般人ながら特例で貴族の子供たちが学ぶ王立学院に入学し、王子フリードリヒ・リチャード・ベルンや宰相の息子ヘンリー・ボルドー、将軍の息子セシル・エヴァンスといった名だたる令息との恋愛をする。

 所謂、恋愛シミュレーションゲームだ。時代的には現代で言うところの1600年程度の西洋をモチーフにした、なんちゃって中世。


「困った……フリーデルトってどのルートでも必ず処刑されてるじゃん」


 問題は私フリーデルト・シルビア・ベルンの役どころだ。


 王女であるフリーデルトは、イリスを目の敵にして様々な嫌がらせをした。

 貴族ではないイリスが王立学院にいることや、王子や貴族令息と親しくしているのが気に食わなかった——というのが表向きの理由である。


 主人公イリスはとても可愛いく庇護欲をそそられる女の子だ。

 天涯孤独の身である彼女だが、非常に珍しい治癒魔法を使えることから教会から“治癒の聖女”の二つ名を与えられた。教会が後ろ盾となり王立学院に特例で入学していた。


「あの超絶可愛いイリスにフリーデルトが勝てる要素って、王女様って身分以外ないよね……。あー絶対イリスと敵対したくないわ」


 フリーデルトは王女という一応は高貴な身分だ。


 しかし国の慣例で王女はいつか他国に政略結婚で嫁がされる。

 だから自由に恋愛をするイリスが羨ましかった。


 フリーデルトの容姿は美しかったのだが、イリスとはベクトルが違う美しさだった。

 美青年フェイスとでもいうのだろうか? フリーデルトは男と間違われることが多く、可愛い女の子の容姿ではなかった。


「ゲームでフリーデルト見た時に、美青年がドレス着てる? って思ったくらいミスマッチだったもんな……。男に生まれたらよかったものを、宝の持ち腐れというかなんというか。あれじゃイリスのことを羨むのも当然だよね」


 更に決定的なのは、フリーデルトは魔法を使えないということだ。


 この世界には魔法が存在する。魔法が使える者は生まれつき使えて、使えないものは一生使えない。

 魔法を使えるかは血筋による影響が大きく、基本的に王家の直系は魔法が使えるはずだった。


「フリーデルトはベルン王国300年の歴史の中で、初めて生まれた魔法が使えない王家直系の子ども……。魔法を使える人はとっても少ないけれど、王族はみんな使えるし、貴族も使える人が多いのに。そこに一般市民なのに魔法が使えて、しかもそれが超レアな治癒魔法じゃね。フリーデルトが嫉むのは分かるけど、太刀打ちできる相手じゃないよね」



 そんなこんな理由があり、原作のフリーデルトはイリスの邪魔ばかりした。

 どのルートでもフリーデルトは様々な嫌がらせや妨害工作をして、なんやかんやあって最後は処刑されてしまう運命だ。


 トゥルーエンドである王子ルートの終盤で、業を煮やしたフリーデルトがイリスを刺し殺そうとする。しかしイリスを庇ったフリードリヒに刺さってしまう。イリスの治癒魔法でフリードリヒは一命をとりとめ、イリスとフリードリヒは婚約。

 王子を刺し殺そうとした咎で、フリーデルトは処刑。


「今のフリーデルトは8歳でイリスとフリードリヒの一つ下。原作でフリーデルトがやらかすのは、フリーデルト17歳、イリスやフリードリヒ等の主要人物が18歳の時だから、まだかなり時間に余裕があるわ」


 転生したと気が付いたのがこの早い時期で本当に良かったと思う。



 自分が生き残る戦略は簡単だ。


「とにかくイリスとフリードリヒの恋を邪魔せずに応援しよう。そうすれば処刑エンドは回避できるはず」


 実に単純明快。


 フリードリヒルートの他に、イリスの攻略対象のお相手は何人もいる。

 宰相の息子ヘンリーや将軍の息子セシルなどが代表格だし、彼らとくっつけてもいいけれど……、何といってもフリードリヒは自分の兄である。身内であるから口を出したり手助けするのもやり易そう。


 それに他のキャラだと原作が始まるまで待つしかなくなる。

 イリスたちが王立学院に入学するのは16歳の時だから、あと7年処刑の恐怖に怯えなら生きていかなければいけなくなる。


 しかし、フリードリヒだけはイリスと9歳の時夏祭りで一度会っているという設定がある。


 フリードリヒは9歳の時、お忍びで一人で城下の夏祭りを見に行って暴漢に襲われる。その時にイリスに助けられ、一目ぼれする。原作のイリスは、フリードリヒに治癒魔法のことを秘密にしてほしいとお願いしてそのまま去ってしまう。


 そこに私が介入したらどうだろうか? イリスを引き留めそのまま王城に連れて行ったら?



 王家の魔力は年々弱まっている。

 ついには私のような魔法が使えない王女が生まれてしまった。


 魔法が使えるかどうかは血筋の影響を強く受ける。

 イリスが希少な治癒魔法使いだと知れば、父である国王リチャードは何としてもイリスの血を取り込みたいと思うはずだ。


 それを利用する。


 早々にフリードリヒとイリスを婚約させてしまえば、何も原作通り王立学院に入学するのを待つ必要はなくなる。


 王女であるフリーデルトは将来他国に政略結婚で嫁がされる身の上だが、17歳で王子フリードリヒ殺害未遂の咎で処刑されるよりは何倍もいい。


 生きててなんぼ。



 ちょっと気になったのは隠しストーリーの存在だ。


 発売前から公式が隠しストーリーがあるとアナウンスしていて、多くのプレイヤーが隠しストーリーに挑んだ。しかし誰もそのストーリーに入ることはできなかった。


「確か私が死んだ翌日に攻略本が発売されるはずだったんだよね、読みたかったな。無念」


 隠しストーリーは気になったけれど、今は隠しストーリー云々を探求するよりも、自分が生き残ることのほうが重要である。


 フリードリヒルートは王道のトゥルーエンドだ。

 それを目指して進んでいくしかない!



 ◇◇◇



 起床してから約30分ほどで今後の生存戦略を練った私はとにかく気分が良かった。


 原作知識があるって最高! イージーモード!!


 この時私は最高にハイってやつになっていた。

 この後に起こる原作崩壊の悲劇も知らずに。

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[良い点] 読者の目線を意識しているのか読みやすい文章です [気になる点] 続き、、、続きが気になる、、、引っ張り方が上手い [一言] 続きが気になります。頑張ってください
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