表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原作崩壊した世界で男装王女は生き抜きたい  作者: 平坂睡蓮
第一部 第2章 呪詛と陰謀
15/73

1.意外! それは王子の死

 こんな展開原作にはなかった。


 フリードリヒは紅茶を飲んだ瞬間大量の血を吐きぶっ倒れた。

 もがき苦しみのたうち回った。

 そして今はピクリとも動かない。


 しっ、死んでる……。


 何故こんなことに? フリードリヒとイリスが婚約した時点で原作の乙女ゲームはエンディングを迎えたはずではなかったのか?


 もしかして原作崩壊!?


 頭の中は大混乱だった。


 しかし混乱している場合でもなかった。伊達に6年間王族やってないし、精神年齢は30オーバーだ。王族として今やれることをやらなくては。



「殿下! フリードリヒ殿下!」

「おいおい、マジかよ……」


 我に返ったセシルとヘンリーはフリードリヒを抱き起そうとした。


「待って! 2人とも触っちゃダメだ!」


 大慌てで2人がフリードリヒに触れようとするのを制止した。


「どう見てももう手遅れだろう……。下手に現場を荒らしてはいけないし、触れるだけで危険な毒かもしれないからそのままで」

「しかし、殿下をこのままにしておくわけには……」


 セシルの言う通り、無残な状態で床に横たわるフリードリヒが哀れなのは分かる。

 しかし余計なことはするべきではない。


「このままにしなきゃ駄目だ。教会の調査官が調べてくれるまでは動かしちゃだめ。……フリードリヒは紅茶を飲んで倒れたんだから毒?」


 でも毒程度ならイリスが治癒魔法をかけたんだから治らなかったのはおかしい。


「だったら犯人はイリスじゃねーか」


 そう冷たい声色でヘンリーは言い放った。


「そんな……私そんなことしてない!」

「お前が入れた紅茶を飲んで倒れたんだぞ? 毒だってわざと治さなかったんじゃないか!?」

「でも! でも違うわ!! フリーデルトは私のこと信じてくれるでしょう!?」


 犯人はイリス……。


 その可能性は私も思ったし、イリスには動機もあることにはある。


 イリスはフリードリヒのことを凶悪生物Gのごとく嫌っていた。

 しかし先日、イリスは王立学院卒業まではフリードリヒとの婚約関係を我慢すると言っていた。

 それなのにいきなりフリードリヒ殺害に走るとは、どうしても考えにくい。


「ヘンリー待って、毒だとしても紅茶に入っていたとは断定できないよ。レモンは? ミルクは? カップそのものについていた可能性は? 茶葉に毒が仕込まれていた可能性は?」

「どっちにしたって用意したのはイリスだろうが!」

「イリスとクラリッサだ」


 ヘンリーは刑事だったら冤罪作るタイプだな。


 私に名指しされた侍女長のクラリッサは青くした。


「ごめんクラリッサ、貴女が犯人だって言いたいわけじゃない。私が言いたいのは、今こうして犯人捜ししても意味がないってことだ。セシルとヘンリーは衛兵を呼んできてくれ。父上と宰相、将軍にも伝えて」

「……ちっ、分かった行ってくる」

「分かり、ま、した……グスッ」


 ちょ、お前、セシル泣いてんのかよ! 場違いにも推しの泣き顔超萌えるとか思ってしまった。


 まぁセシルが泣く気持ちは分かる。

 彼は、将来国王となるはずのフリードリヒに幼いころから使えてきたのだ。長年護衛騎士だったわけだし。主君であり友だったフリードリヒが、まさかこのような無残な最期を迎えるとは思ってもみなかったことだろう。


 セシルの氷の様に綺麗なお顔は、既に涙と鼻水でベショベショだった。セシル、お前意外と熱いパッションを秘めた男だったんだな。



 さて、2人が父上たちに事件を知らせに行ったところでだ……。


 えーーーーー! 嘘でしょ!? 何これ!? 何がどうなってこうなっちゃったの!? なんでやねん、なんでやねーん!!


 再び頭の中は大混乱状態に逆戻りした。

 一体この大事件はどうとらえればいいのだろう。確定ではないけれど暗殺? 一体なんでこんなことに。


 ……もしかして私が原作を無視してさっさとフリードリヒとイリスを婚約させたから? それとも私という存在そのものが原因?


 もう何が何だか分からないよ!!



 ◇◇◇



 ほどなくして、セシルとヘンリーから事態を聞いた父上たちがなだれ込んできた。


 父上は血まみれで床に臥せったフリードリヒを抱き上げようとしたが、危険かもしれないという理由で宰相と将軍に制止されていた。

 もうフリードリヒが死んでいるのはどう見ても明らかだったので、介抱するのではなく現場を荒らさないことが重要だった。


 父上は嘆き悲しんだ。


「何ということだ、フリードリヒ、我が息子が、息子が……まだ15だぞ、来年には王立学院に入学するはずだったのに、私の跡を継いでこの国の王になるはずだったのに……」


 ここ6年ですっかり弱ってしまった父上にとって、これは精神的にも大きなダメージになるのは目に見えていた。


 フリードリヒが死んだことで王位継承権は第二王子のルイに移行する。王女である私に王位継承権はない。しかしルイ王子は病弱で王としてやっていけるかどうか……。

 とりあえず王家の男児が絶えたわけではない、それだけが救いだ。


「父上、兄上のことは哀れでなりませんが、この場を荒らさぬことが先決です。現場を荒らしたことで犯人特定が困難になってしまっては、兄上の無念も晴れません。間もなく教会から調査官が参ります。父上はお部屋にお戻りください、ここは私がおりますので」


 これ以上父上に体力を消耗されては困ると思い、父上には退出してもらった。王は衛兵数人に支えられながらヨタヨタと出て行った。


「フリーデルト様、息子が申しておりましたがイリス様が毒を盛ったのではないかと……」


 ボルドー宰相は申し訳なさそうにそう言ってきた。ヘンリーめ、余計なことを告げ口したな。


「宰相、そのようなことを不用意に口に出してはいけません。教会の調査官の調査が終わるまでは……私を含めて同席していた全員が重要参考人です。もちろん貴方の息子ヘンリーもです」


 そう言い返してやればヘンリーは憎々しそうな顔をした。

 昔は宰相同様に真っ直ぐな性格でワンコみたいだったのに、しばらく会っていない内に随分と捻くれたのか? 反抗期の影響というやつか?


 どちらにせよ不用意に誰かを疑ったところで意味はない。


 教会の調査官が来るまで、重い沈黙だけが部屋を支配していた。


ブックマークや評価、本当に励みになります! とても欲しいので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ