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原作崩壊した世界で男装王女は生き抜きたい  作者: 平坂睡蓮
第一部 第1章 こうして原作は崩壊した
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9.これにて乙女ゲームはトゥルーエンド?

 水面下で物事はとんとん拍子に進んでいった。


 まずイリスはフリードリヒの婚約者として王城で暮らすことになった。

 しばらくは侍女長のクラリッサ・アイビーさんの元、礼儀作法や王家の歴史など様々な教育を受けるらしい。


 イリスが治癒魔法を使えることは明白なのだが、正式に治癒魔法使いであることに認定を神殿で受けて登録をしなければいけない。しかしとりあえずそれはフリードリヒとの婚約発表パーティの後にすることにした。


 今のところ、フリードリヒの婚約者発表のためにお披露目パーティが開かれることしか公表されていない。

 イリスの名前や治癒魔法使いであることも厳重に秘匿されており、知っているものは全員口外することを禁止する魔法がかけられた。


 婚約パーティでイリス・バートリーが治癒魔法使いであることを公表し、フリードリヒの婚約者であることを貴族たちの前で広く周知する。そうすれば教会はイリスを取り上げることが困難になる。

 教会で認定を受けるのはその後で良い。


 フフフ……計画通り! 物語は大団円のトゥルーエンドは目前だ。



 ◇◇◇



 あーマジうぜー。視線がうぜー。コソコソ陰口叩かれんのもうぜー。


 婚約発表パーティの会場で、私はただただムカついていた。

 王族の品格を守るべく、終始表情はにこにこしているものの、心の中では罵倒しまくっていた。


 原因は私がドレスを着ていることにある。似合わないあまりにも似合わなさすぎる。


 今日は正式な場だ。そのためいつも通り男装しているわけにもいかず、本来私の正装である豪華なドレスを着たのだが……違和感しかない。


 私だって可愛い服を着たい願望はある。フリフリの王女様らしいドレスに憧れている。

 しかしだ! どうしたってこのフリーデルトの美少年フェイスにはミスマッチなのだ。いくら美少年フェイスでも、男の子がフリフリのドレスを着ているようにしか見えなかった。


「まぁ、あの方がフリーデルト王女殿下?」

「つい数か月前までご病気とかで人前にはお出にならなかったが、あの容姿で王女? 王子の間違いではないか?」

「いずれ他国に嫁がれるにしても、あのご容姿で貰い手はいるのか?」

「いや世の中には物好きというものが……」


 などという声が方々から聞こえてきた。


 失礼な!


 原作のフリーデルトの性格がひん曲がった理由が良く分かった。

 何も望んでこの顔に生まれてきたわけではない。自分ではどうしようもできないものに対して、このような誹りを受けるのは理不尽としか言いようがない。


「よう! フリーデルト様、そのドレス姿似合ってねーな! いつもの男装の方が最高に似合ってるぜ!」


 明るい調子で酷い暴言を吐いてきたのはヘンリーだった。この無神経なクソガキめ。


「似合ってないのは分かってるよ。私だっていつもの兄上の服装のほうが気が楽だ」


 そうすねて見せれば、ヘンリーはしまったという表情をして話題を変えてきた。


「おっ、マーガレット叔母上もいらっしゃってるのか。親父と話してる。ちょっくら挨拶してくるわ」


 そう言ってさっさと逃げてしまった。ヘタレわんこめ。


 ヘンリーが駆けていったほうを見れば、マーガレット妃とボルドー宰相が話をしていた。お二人は兄妹だしね、積もる話もあるだろう。


 マーガレット妃を見るのはこれが二度目だ。息子のルイ王子は伴っていない。


 聞いた話によるとルイ王子はこのような公式のパーティにさえ、病弱を理由に一度も出席したことがないそうだ。

 本当に病弱なのか、何か理由があってマーガレット妃がルイを表に出したくないのかは分からない。


 原作にルイ王子のルートはなかった。

 まぁイリスとは歳が5つも離れているし、イリス18歳の時にルイ13歳では恋愛対象外だったのかもしれない。個人的には歳の差というのはあり寄りのありだけど。



 こういうパーティには初めてだから、色々物珍しくふらふら会場を散策していたが、向けられる視線が煩わしくさっさと王族の特別席に戻ることにした。

 不快感を味わっただけだった。


 特別席から会場全体を見渡せば、見知った顔もちらほらあるものの、ほとんど知らない顔ばかりだった。知らない顔といっても、今日この婚約発表の場に招待されたのはベルン王国を代表する名だたる大貴族たちである。覚える必要は大いにある。


 会場全体をよく見ると、微妙にいくつかのグループができているようだった。所謂派閥というものだろうか。

 そしてそのグループは大きく二分されていた。おそらく王族派と貴族派に分かれているのだろう。

 ボルドー宰相やエヴァンス将軍がいるほうが王族派、それ以外のメンツは貴族派なのだろうからその顔よく覚えておこう。


 またどちらにも属さず日和見の人たちも少しいるようだった。


 日和見の中でも目立っていたのは教会の人達だった。5人ほどがカソックのような揃いの服で集まり談笑している。

 ふふっ、彼らはイリスの存在を知り驚くに違いない。


 教会の最高権力者である教皇が出てくることはほぼないと聞いているから、彼らは教皇に近しい高位の枢機卿ということだろう。


 教皇はエルフの血が入っているらしく、建国時から教皇をしているらしい。最低でも300歳ということだろう。しかし30前後にしか見えない美丈夫とも専らの噂だったから、ぜひ一度お目にかかってみたいものだ。



 そうこうしているうちに国王リチャードがフリードリヒを伴い会場に入ってきた。


 一瞬で静まり返る会場。

 皆一様にどの家門の娘が王子の婚約者になったのか興味津々といった目で2人を見つめている。


「皆の者、今日はよく集ってくれた! 既に知っての通り、我が息子の第一王子フリードリヒが婚約することとなった。今日はその披露をしたい。皆が若い二人の今後を祝福してくれることを願うばかりだ。さぁ、入ってきなさい」


 そう促されて会場にイリスが入ってきた。


 めちゃくちゃ可愛い。若草色の上品なドレス姿で、栗色の髪とエメラルドのような瞳によーく似合っている。

 ほんと、私とは雲泥の差だ。


「彼女はイリス・バートリー、貴族ではない。しかしだ! 伝説の“治癒魔法”を使えるのだ!」


 その言葉に会場は大きくどよめいた。特に動揺しているように見えたのは教会の方々だった。


 しかしそのどよめきとは別の異質な音も響いた。


「ぐふっ!!」


 どこかで誰かが盛大に噴き出す音だ。

 その方向を見ると、成金趣味丸出しの服装をした腐った水茄子みたいな男がいた。


 おや、もしやあれは件のウィリアム・モーリス男爵とやらではないか?


 一応彼はイリス・バートリーの後見人という立場なので、招待されていた。

 本来田舎の男爵なんぞ招待されるわけがない。なのにあの男は自分が招待された理由に疑問も持たずに、今日のこのこと王城にやってきたに違いない。

 頭の回る男なら自身が招待された理由とイリスの存在を結びつけることができたはずだ。

 あの驚きようでは、恐らく今日の今日までイリスがあのボロ家からいなくなったことすら気が付いていなかったのだろう。

 そのうえ、ドレスを着ておめかしをして華やいだイリスを見ても、それが自分の姪だとも思わなかったのだろう。


 それにしたってあの男とイリスとは似ても似つかないな。イリスの叔父ではないのか?

 私も両親には似ていないが、いくら何でも美少女の叔父が人外の腐った水茄子というのはないだろう。


「イリスが治癒魔法の使い手であるという教会の認定はこれから受ける予定だが、彼女が治癒魔法使いであることは国王の名において間違いのないことだ。フリードリヒとイリスは縁あって身分の差を超えて出会うことができた。これは正しく天の采配がもたらした奇跡である!」


 父王の言葉は続いたが、私はもうあまり興味がなかった。既に打ち合わせ済みの話が続いたということもあったが、それよりも自分の中で膨らむ達成感に酔いしれていた。


 原作の乙女ゲームはこの婚約発表パーティを持ってエンディングを迎える。


 つまりだ! 私はやり切ったのだ。

 原作のフリーデルトのように処刑されることなく、それよりも遥かに早い時期にすべてを終わらせることができた。


 これをもって乙女ゲームは完結!

 フリーデルトの生存戦略は大成功である!

 イエーイ!!


ブックマークや評価、本当に励みになります! とても欲しいので、よろしくお願いします!

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