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恋愛相談はとにかく長くて退屈なものだ

 恋愛相談。それはときに甘酸っぱく、それはときにほろ苦いと言われる? 文字通り恋愛に関する相談のことだ。恋愛と言えば、思春期のうちに一度は経験するであろうもので、かく言うこの俺もこれまでに一度や二度は……いや、無いね。おかしいな。不思議なことに俺の十数年の人生には色恋沙汰なんてものはなかった。我が人生に一片の桃色ナシ……。


 と、まあ。そんな俺の恋愛事情は置いといて。修学旅行の夜でもなければ、脳に『恋愛』二文字の花が湧いちゃっている系女子の集い──通称、女子会(俺の独断と偏見)に参加しているわけでもないのに、なぜか俺の目の前では恋愛相談が繰り広げられていた。


「──という訳なの。彼氏ができてうれしいのはわかるけどさ、友達のあたし達とあんまり遊べなくなるのは違うって言うか……。あ、でも。別に彼氏優先したい気持ちはわかるし、そこは優先してもらって構わないんだけどさ……」


 先まで俺が座っていたパイプ椅子に座り、そんなことをペラペラと話しているのは高木的(たかぎまと)だ。あだ名はマトちゃん。旭陽の隣のクラスらしく学年は一年で、パッツン前髪が特徴の女の子。恋愛相談とやらで部室に連れて来られたお客さん……というのは表向きの理由で、実際のところは旭陽のおともだち候補第一号である。旭陽による旭陽のための安全に友人を作る装置────それがこの部活の本当の姿なのだから。


 初めの方こそ旭陽に連れ込まれて可哀想な被害者だなぁなどと思っていたのだが、マトが悩んでいたのは本当のようで、旭陽の簡単な紹介が終わるや否や切って落とされた口火は留まることを知らず、三十分近くノンストップでしゃべり続けていた。

 恐らくこのまま何もしなければ、マトは下校時間ギリギリまで話し続けてしまうだろう。けれど、それは流石に困る。基本、定時には帰りたい俺である。それに加えて今は床に正座してマトの話を聞いているのだ。まず先に足に限界が来てしまうだろう。というか、もう来ている。こんなことになるなら、空気椅子で待機なんていうボケをしなければよかった。じゃなかったら、旭陽に『ちょっと、先輩……さすがにそれはキモイんで、そこで正座していてもらえます? あと、話の邪魔なんで私が良いって言うまで待機で』なんてことも言われなかっただろうに。もう一度やり直せるなら、ボケずに最初から正座で待つというのに……て、あれ? なんかこれも違うような。


 と、そんなどうしようもないことを考えながら現実逃避しつつ恋愛相談が終わるのを待つことさらに十数分。ようやく、マトの話もひと段落着いた。要約すれば、友達に彼氏が出来て構ってくれないから寂しい。それだけの話なのに、こんなに話し続けられるなんてマトはなんて恐ろしい子なのだろう。マトほんと恐ろしい子。


「旭陽ちゃんありがとうね。なんかおかげでスッキリできたよー」

「いえいえー、私でよければいつでもお話聞きますから」


  営業スマイルで思ってもないことをスラスラと口から吐き出す旭陽。うん、こっちも十分恐いわ。

  だが、表向きの顔を出しているということは、マトは今のところ旭陽が本性をさらけ出すには信用、もしくは握っている弱味とやらが足りないのだろう。

  しばらく二人のやり取りを見ていると、どう触れていいものかと悩んだ様子のマトと目があった。……ごめんね。正座してる先輩なんて、わけわかんないよね。まじごめんなさい。

 

「まあ、マトちゃんの悩みはだいたい把握できましたし、先輩も何か話しておっけいですよ。なんなら、サクッと解決案の三つや四つくらい出して下さいね」

「いや、そんなサクッとでないから! 恋愛経験の乏しい俺には無理だから! てか、しれっと出さなくちゃいけない解決案の数多いな!?」

「ナイスツッコミありがとです。と、まあ……先輩はこんな感じの人なので、変態ですけど悪い人じゃないから安心してください。一応、男目線からの意見も聞けるかなぁって思って先輩も連れてきてるので、聞きたいことがあれば何でもどうぞ」


  お前、ちゃんと相談内容聞いていたよな? と目線で確認してくる旭陽。あまりに冷たい視線は性癖に突き刺さりそうだったが、なんとかそれを堪えて頷いた。

  それを確認した旭陽は、多少強引だったがマトの相談役を俺にバトンタッチした。

  ただ、マトにとって俺はまだ信頼に足らないのだろう。何を言おうかと悩んでいる様子だった。まあ、無理もない。案内された部室に入ったら見知らぬ先輩が空気椅子で待機してるわ、一年生に言われるがまま正座で話を聞いているわ……俺がマトの立場だったら、そんな先輩絶対に信用できない。てか、これだいたい旭陽のせいじゃね?

  そんなことを考えること数秒。微妙な間を置いて、マトはようやく口を開いた。


「じゃ、じゃあ……とりあえず一個だけ。上村先輩って、あの伝説の人間花火をした先輩であってますよね!?」

「ぶふっ……!!」


  マトの言葉に、隣で呆けていた旭陽が思いっきり吹き出して笑っていた。

  一瞬、マトが何を聞いてきたのか分からなかったが、旭陽の反応を見てピンと来た。

  人間花火。そう言えばそんなこともあったな。中学時代の黒歴史を思い出しながら俺はマトの質問に答えた。


「残念ながら、あってます。……はい」

「やっぱりー! 後でいいんでサイン下さい!」


  ちょいと食い気味でそんなことを言うマト。どうやら、さっきの微妙な間は俺が『人間花火』で合ってるか確認するかどうかで悩んだ時間だったらしい。さっきの間を変に旭陽のせいにしてしまったので、心の中で謝っておいた。


「確かにアレは傑作でしたね。まさか、本当にやるとは思いませんでしたけど……っぷふ!」

「よくよく考えたら俺が飛ぶ羽目になったのって、旭陽のせいだったような……」

「まあまあせんぱい。そんな過去の栄光より今はマトちゃんの悩み相談を進めて下さい。あと、せっかくなんで私にも人間爆弾のサイン下さいね」

「誰が人間爆弾だ! んなことやったら死んでるわ! いや、アレも死にかけたけども!?」

「人間爆弾!?」

「高木さんも食いつかなくていいから!」


  ボケが二人だと!?

  妙な忙しさに焦りながらも、なんやかんやで二人に人間花火のサインをすることになってしまった。

  マトには彼女が持っていたノートに。旭陽には彼女が持っていたポケットティッシュの袋に……。


「「大事にしますね」」


  一人、嘘つきが混じっている気もするが、マトも少しは打ち解けたのだろう。

  話が落ち着いたところで、俺にも一つだけ聞いてきた。


「先輩は、どうしたらいいと思います?」


  どうしたらいい? と聞かれても少し困る。

  恋愛経験に乏しい俺には、マトの悩みは難しすぎるし良い解決案なんて一個も思い浮かばない。

  だから、ありきたりな方法で解決することにした。


「高木さんはどうしたいんだよ?」


  どうしたらいいのか悩んだときは、自分がしたいことをするのが鉄板だ。安牌だ。

  ありきたりだけど、それが俺的ベストアンサーだ。


「あたしは……前みたいにもっと一緒にいたい。でも、別れてほしいわけじゃないし。やっぱり、彼氏彼女なんてよく分からないから、どうしたいかなんてわからないよ……」

「なるほどな。だったら……」

「だったら、マトちゃんも試しに彼氏作ってみたら?」


  あれー。おかしいなー。

  俺のセリフ……一番美味しいところ横取りされたんですけどー?

  と、抗議の目をむけるが、旭陽はあっさりとそれをスルー。俺が言いたかったことをよく分かっていないマトに説明し始めた。


「マトちゃんも彼氏作ってみたら友達の気持ち分かると思うの。それからでいいんじゃないのかな? 自分がどうしたいか決めるのは」

「でも、彼氏なんてそう簡単には……」


  旭陽の言わんとすることは理解したのだろう。マトはまだ、俺の考えた解決案をする前段階にいる。だったら、そこから進めば良いわけなのだから話は簡単だ。

  彼氏の一人や二人作ってしまえばいい。そうすれば、友達の気持ちもわかるし、なんなら案外、彼氏の方で忙しくなって友達の時間も今くらいで丁度よくなるかもしれない。マトが望む形ではないかもしれないが、それはそれでいいはずなのだ。

  だが、マトが言い淀むように、この方法には問題がある。

  彼氏なんてそう簡単にできないのだ。

  ……と、そんなことは旭陽もわかっているようで、チラリ旭陽を見やるとスモールデビルちっくな笑みを浮かべていた。まあ、悪い笑みってやつである。


「うん、だから。代わりと言ってはなんだけど、先輩貸すから一回デートでもしてみたら?」

「え、人間爆弾先輩と?」


  おいそこ。勝手に俺を爆弾に昇格させるなー。

  てか、花火から爆弾て昇格なのかしらん? よくわからないな……。

  あまりなマトの反応と旭陽の発言に俺は、心の中で突っ込むだけでなんとかこらえる。

  この場で下手に話の鼻を折っても長引くだけだ。それに、すぐに反応できなかったのは、俺もマト同様に動揺していたからだろう。


「そうそう。まあ、先輩は顔も悪……い方じゃないし?」


  おいそこ。なんで言い淀んだよ? しかも何故に疑問系なんですか。このヤロー。


「誰かに見られても、まあ、そこまでマトちゃんの評価下げるほどじゃないかなと。それに、先輩は女の子に変なことをするような度胸もないから、安全かなーって。……どうでしょう?」

「え、えと……」


  これまたどうしたものかと悩んだ様子のマトと目が合った。

  旭陽の言わんとすることは理解できた。

  彼氏を作る……とまではいかなくても、異性とのデートは多少なりにその代替えになるはずだ。

  ただまあ、マトからすれば。それは俺に迷惑をかける話しであって……。

  だから、俺は後輩の為に一肌脱ぐことにした。それに、俺は女の子は優しくしないといけないのだ。例えそれが作られた優しさだとしても、残された選択は一つだけだった。


「まあ、俺はべつに……」

「それに、先輩は年下好きですから……ね?」

「いや、えー……それ、どこ情報よ。もういいやそれで。ま、とにかく俺はそんなに迷惑には思ってないってことなんですので」


  変なタイミングで、旭陽によく分からないことを言われたせいか、語尾が変な感じになっていた。

  けれど、俺と旭陽の気持ちは伝わったようで……。


「じゃ、じゃあ……よろしくお願いします」


 

  そんなこんなで。

  俺は週末にマトとデートすることになった。


「あ、面白そうなんで私も陰ながらついていきますねー」


  おまけに旭陽つきで。

 






次回は夜の部の予定

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