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平凡で少し不思議な素晴らしきこの世界 ~二重人格者が行く昼と夜~  作者: 五月七日 外
プロローグというものは大切なのだ。
4/6

新しいウワサ

夜のプロローグ続きです。

 時刻は夜の十時を回ったところ。

 僕は月妃と一緒に学校近くの公衆便所へと向かっていた。

 別に、やらしいことをするためではない。

 外でなんてそんなレベルの高いこと健全な高校生がするわけないし、そもそも僕と月妃の間柄はそういうものではないのだ。

 言ってみれば、仕事仲間である。


「アラタ、なんかやらしい」


 なのに、心外……。

 公衆便所に着いて早々、月妃にそんなことを言われてしまう。


 いつもの癖で、月妃が長い黒髪をファサッと一払い。すると、漆黒の(うるし)みたいな髪が月光に反射して輝いた。

 月妃の容姿を一言で表すなら大和撫子が適切だ。

 腰の辺りまで伸びた黒髪ロングは言うまでもないが、肌の白さもそれに拍車をかける。月妃は昼間、家に引きこもっているのでただ不健康なだけだが、その白は雪そのもの。

 顔のつくりは、双子の姉……旭陽と異なり綺麗系にあたる美人さん。

 ここまで言うと、月妃を褒めちぎるだけになってしまうので……一つ、旭陽との見分け方を伝授。

 何がとは言わないが、黒髪のぺちゃんこが月妃だ。


 ……と、そんなことを考えていたせいか、それとも月妃を無視してしまったせいか。

 月妃にじーと見られていた。

 なまじ美人なので、こういうのは照れる。


「えっと……花子の様子がおかしいんだよね?」


 言って。月妃から目を反らした。


「あの子もいろいろ苦労してるんでしょ?『パンツのウワサ』がネットにあがってたから、大体察しはつくけど」

「ああ、花子のやつ。またアレをやっているんだ……」

 

『パンツのウワサ』なんていう嫌なワードにげんなりしてしまう。

 それは、1ヶ月ほど前にも流行った残念なウワサだ。


 突然だが、『トイレの花子さん』を知っているだろうか。

 そう、学校の会談で皆勤賞並みによく出てくる彼女のことだ。

 地域によって『トイレの花子さん』は〝トイレ〟で死んだ少女の霊、や〝トイレ〟でいじめられて自殺した少女の霊だとか言われ、その出自は多岐にわたる。

 しかし、『トイレの花子さん』であるために、彼女たちは〝トイレ〟という共通のワードを持つ必要がある。

 そこが鍵。

 だから、ただの浮遊霊も〝トイレ〟に根付くことさえできれば、『トイレの花子さん』というネームバリューのある霊として昇格することができるというわけだ。


 神様が畏れられ崇め奉られたのは昔の話。

 現代では、科学の発展によりそういった不可思議な存在はその力のほとんどを失い、存在自体も危ぶまれている。

 もう、誰も神様なんて本気で信じていないのだ。


 そして、彼ら彼女らヴィジターは、人の信仰度によってその存在の強度が変化する。

 認知度が自分の存在価値を決めるのだ。

 人の認知が、信仰が消えたとき。ヴィジターもまたその存在を消す。

 それが、現代の怪異────ヴィジターの姿だ。


 だから、ヴィジターは生き残るため自分を知ってもらおうと必死だ。

 かつては、お祈りや奉納で喜んでいた神も。今ではフォロファー数で一喜一憂する時代だ。

 神様が「映える~」とか言っているところなんて想像もしたくないが、正直、これは自由にしてもらってかまわない。

 困るのは、注目を集めようとした結果、人に迷惑がかかる場合だ。


 僕と月妃の仕事はそこにある。


 ヴィジターを監視し、悪さをすればそれを正す。

 フォロファー数が増えなければ相談にのる。

 ヴィジターの住む場所がなくなれば探してあげる……などなど。


 ヴィジターを助けることが僕と月妃の仕事だ。


 というのも……


「あーん!!!アラタだぁー!!!パンツちょうだーい!」

「あっ、ちょっ!?花子それはやめろ!!ズボンを引っ張るな!」

「えー……だって、他の人間は反応が無くて面白くないんだもん」


 ……普通の人間はヴィジターを見ることすらできないのだ。

 ヴィジターを信仰していれば話は別だが、そうでない限り見ることもできないし、ヴィジターに何をされても基本気づけない。

 その点、僕たちは少し特別で、ヴィジターを見ることもできるしさわることもできる。当然、会話も可能だ。

 月妃に至ってはお祓いもできるため、供養してくれる姫として、逆にヴィジターたちに崇め奉られる始末だ。


 この町には、ヴィジターと関われる人間が僕と月妃の二人しかいない。

 そのため、必然的にヴィジターを助ける役割を担うことになっていた。


「パンツ!パンツ!パンツッツ!」

「ちょっ、ばか!ヨダレがー!ヨダレがつくから顔を近づけるなー」


 ……と、しばらく興奮した花子とズボンの攻防を広げていると、突然。

 パシャリ。

 手を叩く音が響いた。

 やったのは月妃だ。

 瞳を閉じて手を合わせる姿は祈祷する巫女のようだが、その表情はどちらかというと鬼に近い。ピキリと額に一筋の血管が浮き出ていた。


「……それ以上するのなら、アラタ共々成仏しますけど?」

「す、スミマセンでした」

「ねえ、僕はどっちかっていうと被害者なんだけど?」

「両成敗が一番楽でしょ?」


 言って。月妃はニコリと笑うが、残念。

 ぜんぜん目が笑ってなかった。



 それからしばらくして。

 月妃の怒りと花子の興奮が収まったところで、ようやく話をすることとなった。


「花子の様子がおかしいって聞いたけど……なんでまたパンツ取りを?」


『パンツのウワサ』とは、少し前に流行ったのだが……トイレをしている間にパンツがどこかへ消えてしまうという、大変迷惑なウワサのことだ。

 もちろん、花子がパンツを取りまくっていたというのが真相だ。

 しかも取ったパンツであんなことやこんなことをしていたので、こっぴどく月妃に怒られたはずなのだが……。


「えっとね。最近、あたしの信仰度が急に落ちちゃったから慌ててて……だから……その、やっちゃいました」


 花子は申し訳なさからか、おかっぱ頭をさすりながら答える。


「なるほど、生き残るために仕方なくってことか」

「うん、そうなのー」

「けど、何で急に信仰度が?」

「それはこれのせいみたいよ」


 すると、いつのまにか検索していたのか、そう言った月妃がスマホの画面を見せてきた。

 画面には検索結果がいくつも並んでいる。

 そして、その一番上には……



『カミカクシ』



 ……と、表示されていた。




ちょっと説明ばかりに……。

次回から物語がスタートって感じです。

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