俺にとってのプロローグ
今回は昼の話なのでギャグ多めで送っております。
これは、非日常に憧れを抱きつつも日常に生きる男……上村優作と、日常に憧れを抱きつつも非日常に生きる男……アラタ。
鏡あわせのような彼ら二人の物語である。
……って、いやいや。これは少し違うね。
優作とアラタは切っても切れない関係なのだ。
正確にはこうだろう。
────これは、平凡で少し不思議なことが起きてしまう素晴らしいこの世界を舞台に、 二重人格者の彼が昼も夜も駆け抜ける……なにかそういった訳のわからない物語である。
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突然だが俺の名前は上村優作。どこにでもいるごくごく普通の高校生だ。こう言うと、一昔前に流行った量産型ラノベ男主人公(ついでに鈍感で耳も悪い)みたいだが、俺は本当に平凡なただの高校生なのだ。
ていうか、ああいう展開を切望してもう五年は過ぎているぞ。いつまで待たせるんだよ。ハーレムや異世界はいつ俺の元にやってくるんだよ……やっぱり、そういう展開は現実じゃ絶望的なんですかね?
そんなことを常々、考えているあたり。俺は平均的な高校生と言えるだろう。
……ははーん。さては、まだ疑っているな?
仕方がない。少しだけ俺のプロフィールを教えておこう。
とりあえず俺の容姿についてだ。
これはけっこう重要だったりする。お前!結局、イケメンじゃん!……みたいな詐欺があってはいけない。しっかり確認しておこう。
俺はそこそこの身長にそこそこの体重。部活にも入ってないので筋肉質というわけでもない。一言で言うと中肉中背っていうやつだ。前髪は目にかかるかかからないかくらいの長さ(校則ギリギリのやつ)でぱっとしない顔を持つ。
女の子に告白されたこともない平均的な高校生のものと言えるだろう。うん、普通は女の子からの告白とかないよね?ね、ないよね!?
それと、性格についてだが……あーうん。これについては平均以下だと思う。
俺は自他共に認めるクズだ。クズと言っても俺の場合は面倒くさがりなタイプのやつである。
やらなくていいことは絶対にやらないし、やらなくちゃいけないことは最低限の労力でやる。それが俺の中にあるクズの美学だ。
だから、部活なんてものには入らないしバイトを頑張っているわけでもない。自堕落な一日をぼーと過ごしている。
あ、あとMである。まあこれは性癖だからノーカンだよね。
とまあ、長い自己紹介も終わったところで本題だ。
これまた突然だが俺には今、危険が迫っていた。
それもけっこうヤバいやつ。
彼女は俺の弱点を知っている。
だからだろう。
あざとい小悪魔が、計算され尽くしたカワイイ笑顔を作って、廊下の向こうで俺に向かって手をふっていた。
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「あっ!せ~んぱ~い!!会いたかったんですよぉー!」
どこから声出してんの?とツッコミたいくらいに甘ったるい声。こんな声音で俺のことを『せんぱい』と呼ぶのは旭陽(名字は忘れた)しかいない。
旭陽は俺より一つ年下の後輩で、中学校時代は一緒に生徒会に所属していた。生徒会活動は俺の美学に反するので、ちょっぴり黒歴史だったりしている。思い出したくもない無休無給労働の日々……。
ただ、一年ぶりに再会した旭陽はかなり見た目が変わっていた。
清楚系だった中学校時代の面影はどこへやら。かつての黒髪ロングは髪を染めたのだろう、明るい茶髪のセミロングに。
元々顔も整っていた方だったので可愛らしかったのだが、そこにナチュラルメイクが施されており、中学の頃とは可愛いさのレベルがダンチだ。
それに、俺とは構成成分が違うのか、旭陽が近づいてくるだけで柑橘系の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
ふつうは、こんな可愛らしい旭陽に声をかけられたら喜ぶだろう。
俺だって初めはそうだったさ。
だけど今の俺は違う。
対象Aが俺のことを知っているように、俺もこいつのことをよく知っているのだ。
だから、このとき俺は心底嫌そうな顔を浮かべていたに違いない。
「げっ……旭陽」
「げっ、とは失礼ですね。優作先輩?」
旭陽はクエスチョンマークのタイミングで、俺のことを上目遣いに見てくる。
こいつ。完全に自分の可愛い角度を知ってやがるな。
あいかわらずの小悪魔っぷりに少し驚きながらもできるだけ自然に旭陽と対応する。
「いや、旭陽といていいことなかったし。今のは不可抗力でしょ」
「んもー。相変わらず、先輩は私に〝優しくない〟ですよね」
その瞬間。
旭陽の放ったワードにピクリと体が反応してしまった。
それを見て、旭陽がニヤリと笑う。
……ほんと、こいついい性格してるわ。
「あーあ、私ショックだなぁ。悲しいなぁ」
旭陽はわざとらしくそんなことを言って、キラリ。涙を溢す。
もちろん、その涙は偽物だ。
その証拠に、旭陽の右手にはバッチリ目薬が握られている。
「……っく、今のは冗談だ。じ、じ実は旭陽と久々に会えて嬉しかった……かな」
「へぇー?照れ隠しであんな態度とるなんて、先輩もしかしてツンデレさんですか?」
誰がツンデレだ。
俺はただのMだぞ。いや、ただのってことはないけど。
「そ、そうかな……?」
「またまた~、先輩はただのドMでしょ」
「ドがつくほどのMじゃないんだけど!?」
「まあまあ優作さんや、そんな小さいことは置いといて。お茶にでもせんかえ」
「小さくないんだけど!俺にとってはけっこう大きなことなんだけど!?ていうか、おばあちゃん!?」
旭陽め。完全に俺で遊んでやがるな。
まあ、かと言って逆転の兆しはないんですけどね。
俺が中学の頃から変わらない関係に少し諦めていると、旭陽は小さく笑った。
「ふふっ、先輩は相変わらず付き合いがいいですね。それと、相変わらず〝体質〟の方も治ってないみたいで安心しました」
「こっちはお前が俺のこと忘れてくれなくて最悪だ」
「えー、せっかく手に入ったオモチャ……じゃなくて、都合のいい駒を私が簡単に手放すわけないじゃないですかー」
おい。今こいつ俺のことオモチャって言わなかった?言ったよな。
ていうか、言い直してからの方が酷くなってるぞ。
「あー、はいはい。お前がそういう奴だってことくらい覚えてるよ。それで?俺の体質のことを引き出してまで、お前は俺に何の用なんだよ」
旭陽はいけ好かないやつだが、意味もなく俺に絡んでこない。
その容姿からも分かるように、よくもわるくも旭陽は計算高い人間なのだ。
「そうですねぇ。せんぱい、私と一緒に部活を作りませんか?」
「は?」
つい、素っ頓狂な声がでてしまった。
こいつは今何て言った?
「だから、私と一緒に部活を作りましょうよ」
「いやいや、なんで俺が旭陽と一緒に部活を作らないといけないんだよ」
「うーん、なんかうちの学校てみんな部活に入るみたいじゃないですか?」
「あー、99パーセントの生徒は何かしらの部活に入部してるだろうな」
「でも、私って汗かきたくないじゃないですかー?」
そんなこと俺が知るわけないじゃないですかー。
「じゃあ、中学んときみたいに生徒会でもやれば?」
「いやぁ、アレって面倒な割に注目度低いでしょ。割に合わないっていうか。ぶっちゃけ飽きました」
このときだけ、びっくりするくらい旭陽の声のトーンは低かった。
女の子ってこんな怖い声出せるんだ。まじこわい。
てか君。生徒会嫌いだったんだね。あんだけ私物化してたくせに。
「てなわけで!新しい部活を作ろうと思ったわけです!」
「ふーん、がんばってね。それじゃあ」
「はい、勝手に帰ろうとしない」
言って。旭陽はグイグイ俺の制服を引っ張る。
おかげでその場から逃げられなかった。決して、袖の裾を引っ張る旭陽が可愛かったからではない。断じてない。
俺は別に鈍感なラノベ主人公ではない。むしろ察しもいいし、言いたいことはそれなりにハッキリと言うタイプだ。
だから、ここまで言われれば旭陽が俺に何をお願いしようとしているかくらい文脈でわかる。
そして、俺がそれを断れないことも。
「別に、それが俺である必要はないよな」
「1パーセントを見つけるのは大変なんですよー!それに、せんぱいのこと私はけっこう前からスキデスヨ?」
「それ絶対うそじゃねえかー!」……だって、カタコトだし。
ごにゃごにゃと一悶着すること十数秒。
旭陽はトドメとばかりに魔法の言葉を放った。
「せんぱいが部活に入ってくれないも私、悲しいです!せんぱいが私に〝優しく〟してくれないと嫌ですー!」
それを言われたら負けだ。
なんたって俺は、『女の子に〝優しく〟しないといけない』体質なのだから。
プロローグはもう少し続く。