使者
使者様の先触れが来たのが、それから3日後だった。
明日にはソラギの領地に到着するらしい。
その報告を受け取ると父は、兄と俺を執務室に呼び出した。
「先ほど、使者となる方の先触れが参った。
明日には領地内に到着されるらしい。
出迎えのために護衛を連れて領地境まで参ろうと思う。
その際には、お前達も付いてきなさい」
「かしこまりました父上」
兄が、そう言って頭を下げるので、俺も真似をして頭を下げる。
使者様の一行にも当然護衛がついているだろう。
何故、わざわざみんなで迎えに行くのだろう?
そのような疑問が顔に出ていたらしい。
「フリッカー、不思議そうな顔をしているな。
領主とその子息全員で出迎えること自体が歓待の意味を持つんだ。
領地境まで行くというのは、最大限の歓迎を示すためだよ」
そう兄から教えられ、納得した。
兄と俺のやりとりを微笑ましそうに見ていた父が言う。
「では明日の朝、出発するからな。
寝坊などするでないぞ」
「「かしこまりました、父上」」
翌朝。
護衛10騎を引き連れ、馬に乗って領地境まで向かう。
目的地まであと少しというところで、向こうから1騎の騎馬が駆けてきた。
警戒をして待ち受けていると、どうやら帝国の騎士のようだ。
近づいてみると、傷を受けて鎧も血や泥などで汚れている。
「ソラギ領主殿とお見受けする!
至急、援護をお願いしたい!」
騎馬兵は、そう叫びながら更に近づいてきた。
「何事だ?」
代表して父が詰問する。
「領地境を越えようとしたところで、賊に襲われた。
賊の数は、およそ50。対して、我らは20騎。
皇子をお守りしながら戦い、苦戦を強いられている。
至急、応援をお願いしたい!」
え!?
いま、皇子とか言わなかったか?
高位の貴族が使者じゃなかったのか?
俺と同じ疑問を父も兄も感じたのだろう。
2人とも苦い顔をしている。
しかし、傷だらけの騎士の言葉に嘘は感じられない。
「我が領地で皇族を害されるわけにはいかん。
至急、お助けするために向かうぞ!」
父がそう号令をかけ、馬を駆けさせ始める。
全騎がそれに続く。
兄が馬を駆けさせながら、応援を要請した騎士に向かい声をかける。
「あなたは、ここでお休みください。
我らが必ずお助けいたす」
しかし、騎士は首を振ると俺たちの列に加わった。
兄もそれ以上は言わず、前を向く。
しばらく馬を走らせると、1台の馬車が見えた。
馬車を守るように10騎ほどの騎士が戦っている。
しかし、みな傷だらけで明らかに苦戦している。
「ソラギ領主リンゼイである!ご加勢つかまつる!
ものども、賊どもをけちらせ!」
父の叫びに、騎士たちは喜色を浮かべる。
「父上に遅れをとるな!ソラギの強兵さをみせつけよ!」
兄も父に続いて兵を鼓舞する。
俺もその言葉に応と叫ぶ。
ここで賊を初めてよく観察した。
賊の割りに装備がしっかりしている。
騎士たちはよくふんばっていたな。
しかし、父と兄は大陸でも数少ない魔法剣士。
剣に魔法をまとわせ、縦横無尽に敵を葬っていく。
2人の強さを再認識させられた。
だが、俺もぼーっとしているわけにはいかない。
雄叫びを上げながら、大き目の火球を2人の前方にいる賊へ放つ。
そして剣に火の魔法を纏わせながら、自分も後に続いた。
思わぬところで初陣を迎えた。
だが、思ったより人を殺すことに動揺はない。
いまは、そんな余裕がないだけかもしれないが。
とにかく目の前の賊を次々に切り捨てていく。
戦いは、父の突撃から一気に形勢が逆転した。
挟撃の形になったのも効を奏しているのだと思う。
聞いていた通り50騎ほどいた賊は、すでに10騎ほどまで数を減らしている。
逃げようとする賊を切り捨てながら、父が叫ぶ。
「1人か2人は生け捕りにせよ!」
斬撃を避けた拍子に馬上から落ちた賊をソラギの兵が何人か取り押さえていた。
捕虜の確保も問題ないようだ。
残りの賊も息を吹き返した帝都の騎士たちと共に無事討ち取った。
現在は、父と兄が帝都の騎士の中で1番偉いだろう人と話をしている。
話が終わったようだ。
取り急ぎ、我が家まで護衛しながら、すぐに移動するらしい。
血の臭いに誘われて、魔獣が出ても厄介なので妥当な判断だろう。
帰る途中、馬車の護衛をしていると、窓が突然開いて子どもが顔を出した。
「おい、そこの子ども!」
ん?俺か?
俺よりも年下であろう子どもだが、見るからに立派な服を着ている。
とりあえずは丁寧に対応をしておこう。
「はい、なんでしょうか?」
「お前、子どものくせに強いな!気に入ったぞ!」
そう言って笑顔を見せると、窓が閉まった。
「…ありがとうございます」
聞こえないかもしれないが、一応お礼の言葉を言っておいた。
その後、伏兵に気をつけながら、無事我が家へと帰りついたのであった。