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実はまだ

「お、ようやく髪を切ったのか。やはり君は短い方が似合っているぞ、長塚後輩」

「そいつはどうも」

 先輩に言われたから切りに行った訳ではない。そういう事にしておいて欲しい。

 いつもの部室に今日は珍しく市ヶ谷さんもいて、今はどうやらレポートを書いているのかノートPCと向き合っている。

 これは気を使った方が良さそうだ、と思った瞬間に市ヶ谷さんが大きく背伸びをした。体格がいいからそれだけの動作でなかなかの迫力である。

「今日は差し入れはない。済まないな」

「いやいや、何言っているんですか。たまにでも持ってきてくれる事だけでありがたいのに、催促なんてしたらバチが当たりますよ」

「そうか。立川あたりは持ってきていないとブーイングをしてくるからな」

「あいつが無礼なだけです。そういう時は怒ってください」

 たまには怒られないとあいつは調子に乗りすぎる。

「長塚後輩もたまには怒られておいた方がいいんじゃないか? 私に対する態度が市ヶ谷に対するそれと乖離しているようなのだが! 具体的には敬意というものが私相手だと感じられない!」

 先輩がぷりぷりと怒っている。どうでもいいがこの表現は些か古いのではなかろうか。

「ソンナコトナイデスヨー」

「棒読みだね!?」

「……以前から聞きたかったのだが、君達は付き合っているのか?」

 市ヶ谷さんが愉快な事を聞いてきた。

「ないです」

「即答とは中々いい度胸じゃないか長塚後輩」

 短くなった髪でパイナップルをするのはやめてください。

「まあ実際、交際しているわけではないよ」

 先輩の微妙に含みを持たせた言い方で察したのか、市ヶ谷さんもこれ以上聞くつもりはないようだ。

「そういや今まで聞かれた事なかったですね」

 距離感からして確定だと思われているのだろうか。

「微妙な感じだから聞き辛い、とは別の奴が言っていたな」

 ノートPCの畳んで鞄に仕舞いながら市ヶ谷さんが言う。

 立川ではない。アイツは疑問に思ったら考えずに聞くタイプだ。というか既に先輩あたりに直接聞いていそうである。

「レポートも終わったので失礼する」

「おつかれさまでーす」

 大きな体でのっそのっそと市ヶ谷さんが出て行った。

 きっと次はお菓子を取ってきてくれるだろう。大きな体に優しい心を搭載した我らの良心、それが我らのグレート市ヶ谷さんだ。

「先輩、いい加減パイナップルチャレンジは辞めてもらえます?」

 切ったばかりで短いので、なかなか髪ゴムで纏められないらしい。

「即答したのは流石に傷付いたから腹いせも兼ねている!」

 今日の先輩は唸り声が多い。ぐぬぬーと髪を引っ張っているがそれは貴女の髪の毛ではないのでやめてください本当に痛い。

「あだだだだだだだ!」

「もう少し素直になっていいんじゃないかな、長塚後輩!」

 年貢の納め時は近いかもしれない。

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