髪型
「なあ、長塚後輩」
「なんですか先輩」
例によって例のごとく部室にて。今日も先輩は先輩だった。
「こうして君の髪を弄っているわけだが、なんだろう、普通はこう逆だったりするものなんじゃないかな?」
最近伸ばし放題にしている髪の毛を相手に、背後に立った先輩があーでもないこーでもないと四苦八苦している。
「いや女性の髪の毛はそう簡単に触っていいものじゃないでしょう」
「変な所で古風だね君は。まあ髪というのはみだりに触って良いものじゃないのは確かだ」
何も言わずに唐突に髪を弄りだした人が言うと説得力が違う。
髪留めやらゴムやらを鞄から取り出して使っているあたり、妙に気合が入っている。
「染髪している割には傷んでいないな。もしや長塚後輩は毎日マメに手入れをしているのかな?」
「そりゃ風呂かシャワーには毎日入りますが……なんか実家から生活必需品が送られてきてまして、もしかしたらそれで送られてくるシャンプーやらがお高いやつなのかもしれません」
食料ではなく石鹸やらボックスティッシュが送られてくるのはどういうつもりなのか一回聞いてみたい。まあ実家に帰れば忘れている程度にはどうでもよい案件だ。
「……君はもう少し身の回りの事を気にするべきだと思うよ」
「そこら辺はまあなるようになるかと」
生意気を言ったら強目に髪を引っ張られた。痛い。
「これなんか可愛いんじゃないか? どうかね、長塚後輩」
「えー」
いつの間に置いたのか、机の上には大きめの鏡があった。
そこに映っているのは無駄に満足した表情をしている先輩と、前髪をゴムで上方向に括られた自分の間抜けな顔だ。
「パイナップルというやつだな。うん、可愛い可愛い」
微塵も嬉しくない。
「人の髪で遊ばないで貰えます?」
「髪を切らない君が悪い。短い方が似合っていて私は好きだぞ」
そう言われると切りに行こうかという気が湧いてくるから困る。
最近、すっかり先輩にいいように操縦されている気がする。
この人のそういう所は本当にずるい。
悪気がないのでまあ操縦されてもいいか、と思ってしまう所が特に。
「何か反撃の手を考えねば……」
「何か言ったかい?」
「とりあえずそのシュシュは置いてもらえます?」
「いや似合うと思ってだね」
「やめんかい」
しょんぼりした顔したってダメです。