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快適空間

 やはりエアコンというのは偉大な発明と言わざるを得ない。

 外は一足早い夏が到来しているというのに、少しの騒音と電力とを引き換えにしてこの室内は快適な温度で保たれている。

 エアコンの稼働音。紙をめくる小さな音。そして寝息。

 部室の中は今まさに静寂というものに包まれていた。

 とても珍しい状態だというのは間違いない。

 何しろ先輩が居るというのにこの静けさだ。天変地異の前触れかと思ってもしょうがないけれど、実際のところはただ先輩が眠りの世界へと旅立っているだけなのであった。

 すぴー、すぴーと幸せそうな寝息である。こいつ熟睡してやがる。

 ここのところ忙しいとか寝苦しいとか言っていたので、疲れが溜まっていたのだろう。

 眠りを妨げるのも忍び無いし、半端な状態で起こして不機嫌になられても困る。

 なのでこうして身動ぎもせず静かに読書をしているのである。

 この前邪魔された新刊の続きを読むのに丁度良い。

 すぴー。ぺらり。

 すぴー。すぴー。ぺらり。

 ぺらり。すぴー。ぺらり。

 部室の時計は秒針がシームレスに動くタイプなので本当に静かだ。

 だからだろう。部屋に近付いてくる足音がやけに鮮明に耳に届いた。

「おぉ、開いてるな」

 鍵が空いているか否かを確認してから入ってきたのは、どこぞの駅名のような苗字の市ヶ谷さんだ。

 部屋に入る際に頭を下げるくらいの長身は、正直羨ましい。

「差し入れだ、適当に食って……」

 言葉を途中で止めたのは、先輩が寝ていることに気がついたからだろう。

 申し訳なさそうな顔を浮かべた先輩に、苦笑して会釈する。

「置いていくからいつものようにしてくれ」

「分かりました」

 互いに小声で必要最低限の言葉を交わしたあと、市ヶ谷さんは音を立てないよう気をつけながら部室を後にした。

 市ヶ谷さんが置いていったのはいつものようにゲーセンの景品だ。お菓子やら小さなぬいぐるみやらが入っているのだろう。

 先輩はいまだにすぴーすぴーと無防備な状態で熟睡している。

 夜には冷えるからと鞄に上着を入れておいて正解だった。ブランケット代わりに掛けておいたが、何もないよりはマシだろう。

 再び紙面の文字へと視線を移す。

 すぴーすぴーぺらりぺらり。

 肩に乗った先輩の頭の重みで若干腕が痺れているのだが、果たしていつになったら起きるのやら

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