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「なあ、長塚後輩」

「なんですー、先輩」

 部室にはいつものように二人きり。最近はここの利用者が減っているような気がする。

 偶々時間帯が重ならないだけで、自分達が居ない間に他の面子が利用しているのかもしれないが、別段そこまで気になっているわけではない。ただ、少しではあるが物の配置が変わっていたり減ったり増えたりしているので出入りはあるのだろう。

「雨だなぁ」

「雨ですね」

 外では雨がしとしと。なんて可愛い表現など出来ない、大粒の激しい雨が降っている。こいつぁやべぇ。

「雨脚強いなぁ」

「強いっすねぇ」

「なんだか生返事じゃないか、長塚後輩」

「そりゃ本読んでる所に話し掛けられましても」

 待っていたシリーズ物の新刊が出たばかりで、さらに言うなら買ったばかりだ。意識をそちらに持っていかれたとしてもしょうがない。

「話し掛けた時点で君に用事があるとは考えなかったのかい?」

 気の利かない後輩だ、とぷんすかしながらお茶を飲んでいる。なんかいっつもお茶飲んでるな。

 この部屋にはお菓子も常備されているのだが、それらを食べている姿は見たことがない。

「それで、先輩は一体全体どんなご用事があるので?」

「うむ、よくぞ聞いてくれた。何、そう難しくも長くもない」

 そう言う割にはもったいつけている気もするが、何だろうか。

 湿気のせいかいつもより艶やかに見える黒髪をふぁさりと手で払い、ポーズを決めて先輩は言う。

「傘を忘れた」

「……そうですか」

「さらに言うなら私はこれから用事がある」

「……そうですか」

「察しが悪いぞ長塚後輩」

「先輩? 頼み事があるなら相手に気を使わせないでちゃんと自分から言ってください」

 先輩のそういうところ良く無いと思います。察してちゃんは嫌われるぞ。

「ごめんなさい傘無いんで君が持っているであろう折り畳み傘を貸してください」

 確かに鞄の中に折り畳み傘を常備しているので、それを使いたいという事だろう。

 しかしこれを貸してしまうとこちらがずぶ濡れになってしまう。

 スマホで時間を確認し、脳内で今日のスケジュールを思い返す。

 まあ、なんとかなるだろう。

「しょうがないんで送っていきますよ」

「お、相合傘というやつか。自分から誘うとは長塚後輩も中々やるねぇ」

 私と一緒に傘に入る権利をやろう、などと言ってはいるが、先輩も妙に嬉しそうである。

「まあ偶には後輩らしく、先輩を立ててみようかと思いまして」

「いつもそうしてくれて構わないんだぞ」

 等と言い合いながら、部室を後にした。

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