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チョコの日落着編

「いやー今年は暖冬ってやつですな。上着いらずですよコレ」

 立川が何やら楽しそうに大学構内を進んでいく。

 彼女がゴキゲンなのは良いのだが、今の自分は少しも楽しめる状況ではない。

 立川によるチョコレートと同時に投下された真意不明の爆弾発言により混沌に呑まれた部室を脱出し、今こうして二人で歩いている。

 今日はもう互いに講義も無く、あとはただ帰宅するだけだが、果たしてそれで良いものか。

 確かに自分は立川に対して好意を持っていたが、いつの間にやら交際していることになっているらしい。

 いや喜ばしい事なのだがそれでいいのか。これでいいのだ。いや駄目だろう。

「なあ、立川」

「なんですー?」

 にこにこといつも以上に立川は上機嫌だ。

 その顔を見ていると、今から言おうとしている言葉を飲み込みそうになる。

 だが、それは恐らく誰のためにもならない。

 損をするような選択肢かもしれないが、不誠実ではありたくなかった。

「俺はお前が好きだ。だが、それを伝えて交際に至った記憶が無いんだが」

「え、市ヶ谷さんこの前私が付き合ってくださいって言ったらOKしてくれたじゃないですか」

 きょとんとした表情で顔を傾げている。ちょっと待って欲しい。

「……うん?」

「っていうのはまあ冗談なんですけど」

 すみません、とやはり楽しそうに言っているがもう頭が追い付かない。

 心臓に悪い。今も変に脈打っている。

「いや私も好きなんですけどね。なんかタイミング逃しましてね?」

「タイミング、か?」

 なるほどタイミング。なるほど?

「そうですよー。なんかもう普段からよく一緒にゲーセン行ってますし、何ならゲーセン以外も行ってますし、市ヶ谷さん分かりやすいし」

 分かりやすい。分かりやすい。わかりやすい。

「つまりバレバレだった、と」

 そりゃそうです、と立川が腕を組んで大袈裟に頷く。

「私もそれに甘えて言い出さなかったんでお互い様なんですが、まあいつ言ってくれるのか正直待ち状態でした」

 上目遣いでにらむような表情が悩ましい。

 しかし、待っていた。待っておられましたか。

「でも季節的に丁度いいイベントもあるので、まあ取り合えず既成事実にしちゃうかーって感じで。なので、それは本当に本命です」

 紙袋の中身はそういう事らしい。

 すまん長塚。既成事実というやつは精神的に良くないものなんだな。

「いや、これでも結構不安だったんですよ? ここまでやっといて勘違いだったらどうしようって」

 でも良かったー、と少し頬を赤くしながら微笑む姿は、ちょっと目に焼きついて消えそうにない。

「情けないヤツで済まないな」

 軽く言ってはいるが、おそらく意を決しての事なのだろう。それだけに、余計に自分が情けなくなってくる。

「まあそこも含めて、ってやつですよ。アバターもなんとやら?」

 痘痕もえくぼだろうか。

「それで、ちゃんとお返事はしてくれないんですか?」

 悪戯をしている最中の子供のような、内心の高揚が隠し切れない様子で言われては、もう逃げようもない。

 念のために周囲に人気が無い事を確認してから、彼女に告げる言葉をあーでもないこーでもないと考えて。

 正直な心情を立川だけに聞こえるよう口を開いた。

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