晩酌
「では呑もうか、長塚後輩」
「そうか、何言ってんですかアンタ」
突然自室に来客があったと思えば、まさかの先輩だった。
似合わないコンビニ袋を持っているかと思えば、何やらアルコールらしき缶やら瓶やらが見える。
「何が口に合うのか分からなかったのでね。適当に選んできたんだ」
そう言って遠慮なしに部屋へと侵入してくるが、お前夜中に1人暮らしの男の部屋に入るものではありません。
「……何かあったんです?」
普段より少し強引な気がするが気のせいだろうか。
そう思って聞いたのだが、楽しそうに缶を並べていた先輩が振り向くと、本気で分からないと言った顔だった。
まあ外れることもある。
「ってことはガチでその日の気分で来たんかい。ていうかここまでどうやってきた」
「私の部屋からタクシーで近所のコンビニまで来た後は、歩いてここまで」
「……そういう時はせめてコンビニに着いた時点で呼びなさい。迎えに行くから」
一人歩きをするものではありません。治安的には大丈夫だろうが心配になるからやめてほしい。
「ほらほら、とりあえず君も立っていないで座って。グラスはこの部屋にあったかな?」
そんなものはない。ないから台所を漁るんじゃない。
「ではとりあず乾杯!」
「乾杯ー」
カチンと缶がぶつかる。楽しそうだなこの先輩。
「部屋で寛いでいたら唐突に呑みたい気分になってね。我慢できずにやってきたというわけだ」
「連絡すれば迎えに行ったのに」
「最初は一人で呑むつもりで外に出たんだが、なんだが気が変わってね」
先輩がサワーをぐびりと煽る。お嬢様が呑んでいいものなのだろうかそれは。
「長塚後輩なら連絡無しでも許されるだろう、と」
「いやアンタね」
こうしてなし崩し的な状況になっているので否定はできないのだが。
「そろそろ今年も終わりだね。長塚後輩は年末年始の予定はあるのかい?」
「特には。実家に帰るのも面倒なんでこっちに居ようかとは思ってますよ」
「親に顔を見せたほうが良いと思うがね。まあそこは姉君にも言われるだろうし私からは言わないでおこう」
いやそれ言ってますやん。
などと雑談をしていると、先輩もいい感じに酔ってきたようだ。
「じゃあそろそろ送りますよ」
「全く、私一人に呑ませて自分はノンアルコールとはつれない後輩だ」
「アンタ送らないといけないでしょうが」
「……私は泊まってもいいのだが?」
「素面で言えたならいいですよ」
「つれない後輩だ……」




