微睡アフタヌーン
肌寒い日が増えてきた。
本格的に秋が深まっているという事だろう。薄手の上着では少々心許なく、冬物を早めに出したほうが良いかもしれない。
そんな懸念も空調の効いている部室にいる限りは無縁で、過ごしやすい環境というものがどれだ有難いものであるかを実感する。
「気持ちよさそうな顔だね、まったく」
すぐ傍で気持ちよさそうに長塚後輩が寝顔を晒している。過ごしやすい環境で気が緩んだのだろう。椅子に座って腕を組み俯いて、すやすやと寝息をたてていた。
寝顔を見るのは初めてではない。
長塚後輩が風邪を引いた時に、看病をした際に見る機会があったが、さすがに状況が状況だからまじまじと見たわけではない。
「人の寝顔を見る事自体、あまり褒められた事ではないのだろうが……」
まあ、なんんというか、湧き上がる衝動を包み隠さずに言うのならじっくり眺めてみたい。
時折可愛いところも見れるとはいえ、普段は生意気な後輩だ。
それが完全に油断した状態である寝顔を晒しているのだから、じっくり見るのが人情というものだろう。
私は学習する女だ。いつぞやのように醜態を晒したりはしない。
しっかりと入り口ドアの施錠を確認。これで最低限の体裁を取り繕う時間は稼げる筈だ。
改めて、長塚後輩を起こさないように静かに近づく。
相変わらずすやすやと健やかに寝ている。この体勢では起きた際に首が痛くなりそうだが、まあそこは自業自得だろう。
肌の質は悪くない。姉君にケア用品を押し付けられていると言っていたが、ちゃんと使用しているあたり律儀な性格なのだろう。
まつ毛は長くもなく短くも無く。顔立ちは悪くないと思うのだが、贔屓目というのもある。世間一般から見た評価については保証しかねる。
文句を言う口も今は閉じられているが、何かに言いながら従ってくれるのだからやはり律儀なのだろう。
ただ、それが私に対しては他よりも対応が甘い。そう思い込んでもよいだけの関係だと思うのは、自惚れではないはずだ。
「君は、たまにはこうして黙っているほうが良いと思うぞ」
普段の少し生意気な態度も悪くないと、そういうところも嫌いではないと言ってしまうと調子に乗りそうだ。