夏が消えた
「なあ……長塚後輩……」
「どうしたんですか、先輩」
「私達の夏休みは一体どこに消えたんだ……!?」
気がつけばもう10月。大学生の長い夏休みも終わり、後期が既にスタートしている。
「先輩は主に学祭の準備で消えてましたね。その運転手をしていた俺も自動的にそれで費やされたことになります」
遠い目になってしまうのもしょうがないと思う。本当に専属運転手だったのだ。というかもうこの立場からは逃れられそうにない。
「いや、私達もそれなりに遊んでいたような気がするのだが……」
「先輩の親戚のお子さんとも遊びましたね」
「あぁ、あれは助かった。あの子もかなり君の事が気に入ったようでな、また遊びたいと言っていたそうだよ」
次の機会があればよろしく頼む、と言いながら肩を叩かないで欲しい。まあ子供は嫌いではない。むしろ好きな方だったのだとその際に知ることも出来た。次は是非おもちゃなど物理的な貢物で好感度を上げていきたいところだ。
「それは良かった」
「だがな、長塚後輩。私達二人の思い出が足りていないとはおもわないか?」
「いや、今現在進行形で二人きりで大学向かってますやん」
運転手は僕さ。いや僕じゃねぇよ。
「これは楽しい日常というやつだ。思い出に残るようなことをしたかったと言っているんだ私は」
海には行ったじゃないか、というのは駄目らしい。
間違いなく遊びで行かないとダメなのだ。なんだこの人面倒くさいな。知ってたけど。
「……そう面倒臭そうな顔をされると私も少々凹むのだが……」
「眩しいだけですよ。サングラスとってもらえます?」
誤魔化せたかどうかは知らない。
「それより、最近あんまり寝てないんでしょう。着いたら起こしますから少し寝てていいですよ」
「どこに連れ込まれてしまうか分からないな?」
「大学ですかね……」
軽口を言いながら、助手席のシートに深く身を預けるあたり素直な先輩だった。
「流石によそ見はできないなぁ」
そもそも寝顔を拝むのはマナー違反だ、という話であった。