ぶらり珍道中
「なあ、長塚」
「なんですか、市ヶ谷さん」
「これは一体何処に向かっているんだ……?」
「正直俺にもわかりません。多分いずれローマに辿り着くでしょう」
すべての道はローマに通じているらしいので。
カーステレオからは最近発売されたばかりの楽曲が流れているが、ラジオ局のチョイスであって車内の人間が選んだものではない。
よく晴れた真夏の車内は空調のおかげで快適だった。
「お前が運転の練習をしているのは知っている。だが、なぜ俺が同乗しなければならなかったんだ」
「先輩に俺の住所教えましたよね?」
「……そんなに悪いことだったか?」
「いや正直そうでもないです。まあ一人でぼーっと運転しているのもアレだったんで誰か道連れが欲しかったってのが正直なところです」
最近は流石に慣れてきて、こうして同乗者とか会話をする余裕もある。
青い空に夏特有の高さのある雲が浮かんでいる。いい天気だ。
「あいつは今実家に帰省中だったか。それで俺を呼んだというのは分かるんだがな。男二人というのはどうなんだ」
「……いや、俺友達少ないんで」
「……」
「あのそこで深刻に押し黙られちゃうと辛いんですが」
「運転に集中しろ、長塚。あいつの運転手は今後もやらされるぞ。早く上達した方が良い」
「え、この夏だけじゃないんですか」
「一度やってしまったからな。もう断れんだろう」
言われれてみるとそんな気がしてきた。マジかよ今後専属運転手かよ。給料よこせ。
「というか、よくこんな短期間で車が手に入ったものだな」
「あぁ、うちの実家の方がそこそこ裕福でして。こいつもこの前まで親が乗ってたやつを名義変更して譲ってもらったんです」
「……金持ちのボンボンか……」
市ヶ谷さんが本気で嫌そうな顔をしている。やめて俺をそんな目で見ないで!
「いやそれなら俺以上にすごいお嬢様がいますやん」
「そうだな、最近年下の専属運転手を手に入れたお嬢様がいるな」
勿論先輩のことだ。あの人はなんちゃってのウチと違って正真正銘のお嬢様だ。
「しかし、未だに付き合っていないというのが信じられん。何か理由でもあるのか?」
「結構ストレートに聞きますね、市ヶ谷さん」
「普段は聞けないからな。こんな時でもなければ」
周囲に本人が居たり聞き耳立ててる姦しいのが居たりするので、たしかにこういう機会でもなければ無理なのだろうな、とは思う。
思うが運転中はやめてくれ。
「まあこっちに方に事情がありまして。そっち片付いてからでないと駄目だなって」
「……面倒なやつだな」
「まあ性分なので」
「それで、本当にこれは何処に向かっているんだ?」
「この辺りは道も知らないんで本当にわからないです。なんで俺達山の中を走ってるんでしょうね!」
しばらく前からずっと片側一車線の道路だ。ていうか狭い道まじ怖い。
「帰ろう。今からでも遅くない」
「取り敢えずこのトンネル抜けて戻れそうなところで引き返しましょうか!」
流石にあてのない旅路をするわけにも行かない。
というわけでトンネルを抜けてみると、
「海か」
「海っすね」
海だった。
「それで二人して遊んで日焼けした、と。なんで私を連れて行かないんだ!」
「いやあんた実家帰ってましたやん」
「次は私を必ず乗せるんだぞ! 必ずだからな!」
「はいはい、分かりましたよ」
「君はもう少し私の専属運転手だという自覚をだな!」
「そんなものになった覚えはねぇよ!?」