旗はここにも
「あれーセンパイじゃないですか、何やってるんですかこんな所で」
「うわぁ」
「なんですかその会いたくない奴に会ったみたいな反応。ていうかそうなんでしょうけど流石に私も傷付きますよソレ」
郊外のショッピングモールを適当に歩いていたら、夏休み中はエンカウトしないと思っていた相手に出会ってしまったのだ。変な声の一つもあげたくなる。
「珍しいですね、長塚センパイがこんなリア充空間に居るなんて」
そういう中野も一人に見えるのは気のせいだろうか。
「いや私は友達と来てるんで。ほらあっち」
中野の指差す方には確かに若い女性が数名居るが、見知った顔はいない。まあ中野の友人には特に興味が無いので問題ない。
「ていうかセンパイ一人ですか? 先輩も居るんじゃないですか?」
「今日は一人だよ。悪かったな」
お前のお目当はおらぬ。今日は正真正銘ぼっちなのだ。
「先輩と一緒に居ない長塚センパイに一体どれだけの価値があると思ってるんです? ミジンコ以下ですよ? 大丈夫ですか自分の存在意義失われてますよ!?」
「お前はマジで俺を何だと思ってるんだ」
「ヤダなー、二割は冗談ですよう」
残り八割は本気かよ。
「そうなると本気で疑問なんですが、どうして一人でこんな場所にきてるんです?」
「運転の練習がてら適当に走ってたら偶然着いたんだよ。休憩がてらに歩き回ってるだけだ」
なんでそんな状況でこいつに会ってしまうのか。
「いつもなら先輩も載せてそうなのに……」
「あの人なら今実家に帰ってるよ」
「あぁ、それで時間持て余して寂しさを紛らわせる為に人の多い場所に来たわけですか……」
違う。違うのだが状況的にもしかしたらそうなのでは?
言い逃れ出来ないかもしれない、と言葉に詰まる。
「……そぃっ!」
「いってぇ!?」
唐突に中野に尻を蹴られた。なんだコイツ猛獣かよ。
「ほんとそういう所ですよ。だからあなたはいつまでも長塚センパイなんです」
「意味が分からねぇよバカ」
不機嫌顔で中野が去っていく。まああんまり絡みたい気分ではなかったので正直ありがたい。
「中野ー」
「なんです?」
私不機嫌ですというのを隠しもせずに中野が振り返る。
「そのピアス似合ってんな。それだけー」
先程から気になっていたのだが、鈴っぽい意匠なのがこいつらしい。猫的な意味だ。まあ素材が良いので大抵のものは似合うわけだが。
「……ほんとそういうとこですよセンパイ」
「え」
もう一回蹴られた。